『うたかた/サンクチュアリ』
2023/4/9
吉本ばなな,1997,角川書店.
読み終えてすぐに、高校同期に薦めようと思った。かれとはたぶん、『白河夜船』が良くて、でも『TSUGUMI』はよくわからんくて飽きちゃったって話で合致したような記憶がある。かれは小説より映画やドラマのほうが観てると思うけど、センター国語で江國香織「デューク」を読んで『つめたいよるに』を買った人間なので、このやや浸りすぎのロマンスはきっと気に入ると思う。
「うたかた」も良かったが、「サンクチュアリ」はかなり私の生に近い肌触りがした。過去とか未来を見るときの時間の伸び縮みだったり、他者との距離の置き方とかあいまいさとか。夢の見方、眠りの就き方、絶望の眺め方、そして、淋しさも含めてなんだかきらきらした希望に覆われてしまえるところもまた、不思議と身に覚えがある。
冒頭のかれがロンバケの聖地巡礼をするのに付き合ってあげた日、(かれにとってはどうか知らないが)私にとっては「サンクチュアリ」に近いきらきらの郷愁があったので、ついでだから日記しておく。
電車を降りてすぐ、ホームにやたら長細い人がいるのでコイツやと分かった。真っ黄色のトレーナーにとんがりしたニット帽を被っていて、色も形もストレッチマンにかなり似ていた。あんま言うなよって怒られたから調子に乗って何回も言った。
当たり障りない近況報告をしながらお目当ての橋まで歩いてきて、適当にパシャパシャ写真を撮って、キムタクと山口智子が座ってた塀に並んで座って、これで向こうから写真撮ってもらえたら完璧なんやけどなーとか言って犬の散歩してるおばちゃんに頼みかけたけど、おばちゃんは犬で手一杯そうやったからやめといた。春風と夕日が空虚で穏やかで、放課後みたい、って言ったら懐かしー言葉やなーって笑われた。
河沿いを歩いていったらどこまでも進んでいけちゃいそうでこわいから、途中のベンチになんとなく座って遊覧船とかランニングしてるおじちゃんを見てた。最近の公園ベンチはホームレスが横になれないようにいじわるな手すりが取り付けられていて、これじゃカップルが並んで座るどきどき感も剥奪されちゃうなって思ったから言った。手すりで分断された片側に2人で座るってできひんのって言われたけど、がんばっても外側の1人が半ケツになっちゃうのでぜんぜんロマンチックじゃなかった。
隅田川は見ていると不安になるくらい水位が高くて、ゴムマットみたいに黒々と水面がたわんで吸い込まれそうだった。明日から雨やのに、今日これやったら明日からどうなんねんって2人で心配したけど、明日はもう私もかれもここには来ないので、ここがどんな惨状になってもならなくても私たちはそれを目撃しない。
ちょっと良いトンカツを食べて、私はその日小屋入り前日だったので頑張れってことで奢ってくれた。私のほうが先に就職するのでこんどは返すと約束した。こういう日が、生きてる中でなんでもないふうにちょこちょこやってくると素敵だと思った。