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ボクたちが目指していた場所

将来は100階建てのビルを建てて最上階に住む社長になるんだ
たしか小学一年の頃に画用紙にクーピーペンシルで描いた将来の夢
まだバブルのイケイケの潮流がブラウン管から溢れている時代
首都圏からほど遠い僻地ではトレンドが数年遅れてくるみたいで
トレンディドラマのような未来が待っている感覚
未来は明るいことしかない感覚は片田舎にいた小さなボクも感じていた

観光地でもなく、特産物があるわけでもなく
過去に炭鉱が近くにあったらしいが閉山していて
僅かな農家と組合がある以外なにも特徴のない村
全校生徒が100人にも満たない学校
学年の生徒は全員で13人だった
ずっとこのメンツでいられる気がしていた
6年生で転校するその日までは

「将来は何になりたいんだい?」
何十回も問われた質問は歳を取るごとに少なくなってゆき
地味で現実的な将来のメニューが大人たちから提示された
結局やりたいことも、目指すこともメニューには載っていなくて
消去法の選択肢はどれもこれも同じに見えた
中学の頃ガンダムのモビルスーツに名前が似ているというだけで
将来「事務」になると言い放ち、周囲のオトナを唖然とさせた

高校も大学も大して考えずに行った
結局その時その時の流れに身を任せてきた
就職も同じだ、採用通知が来たから行ったに過ぎない
クラーク博士は少年よ大志を抱けと言ったらしいが
少年期に大志を抱けなかったし、それにもうすでにボクは少年ではない

いつのまにか子供の頃に思い描いていた理想の未来とは程遠い場所で
ボクは明日の未来も分からない場所でままならない生活をしている
でもそれはそれで器用に生きてこれたんだと思う
人に憎まれない人生を送ってきたわけじゃない
人に誇れるものがあるわけじゃない

キラキラとした場所よりも
この狭い世界に身を寄せるようにして生きていくことも
悪くないじゃないか
そう思えるほどボクは大人になった
そう思えるほどボクはくすんでいったんだ

そんなに悪くない


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