ツアーの話
2024.8.16「ツアー」
私は、地元の2車両しかない小さな電車の床に座り込んで揺られていた。
目的地は分からないまま。
周囲を見遣ると、老若男女いるが乗客もまばらで、座って居たり立って居る者もいる。
馴染みのない場所と人々の顔に、どこか居心地の悪さを感じながら電車に揺られ続けていると、
徐に、ある小さな無人駅の前で電車が止まった。
するとこれまでじっと乗っていた客達がぞろぞろとその駅で降り始め、私もそれに付いて降りていく。
空は薄曇りの、夕方頃だろうか。
駅の周りは枯れ草か麦のような一面薄茶色の草原で、それを囲むように低めの山々が立ちはだかっていた。
淋しげながらも落ち着くその風景に私がほぅと見蕩れていると、どこからとも無く、背の高い細目の若紳士がやってきて、降りた乗客達の先頭へ立った。
そして、物腰柔らかな口調にて
「この度はお集まり頂きありがとうございます。」
「では、これからあちらに見えます屋敷へ向かい、降悪魔術の儀式を行なったのちに窓から各々出て頂いて、ご自由に飛んでいって下さい。そこからは自由解散です。」
と皆に説明を始めた。
私が飛べるか不安でいると、それを察したように私の方を向き
「もちろん、普段飛ばれない方でもちゃんとワタクシがサポート致しますので。」
と言ってさりげなくウィンクしてくれる紳士。
その時点で私は、この集団全員が吸血鬼なのだと解った。
「あぁ、そうだ。これは吸血鬼のための吸血鬼による吸血鬼のツアーなのだった。」
と記憶を思い出すうちに、
「みな仲間なのか」
そう思うとワクワクしてきた。
そして若紳士に案内されるまま、ぞろぞろと皆で駅の裏手にある山の、頂上付近に建つ洋館へ向かう。
道中はあっという間だった。
気付いたら洋館の玄関におり、
また気付いたら洋館の最上階に全員いた、というような。
最上階には小さなダンスホールのような大部屋が一つだけあり、扉の向かい側中央にはさっきまでいた無人駅が望める大きな出窓があった。
私たちはその部屋に入ると、目配せしながら数人で前へ出て、床に描かれた魔法陣を囲むように手を繋いで円を作った。
そしてベテランらしき女性吸血鬼の歌に合わせて踊りながら、楽しげに魔法陣の周りをぐるぐる回る。
すると、しばらく続けるうちに私の向かいにいた少女と少年の繋いでいた手がパッと離れた。
それを見た女性吸血鬼がすかさず、
「そこだ!そこに悪魔が現れてくれた!」
と嬉しそうに少女と少年の間の空間を指さした。
その宣言を聞いた皆も嬉々として互いの顔を見合わせながら、また歓喜の踊りを踊ったりし始める。
興奮が収まると、誰かが今度は大きな出窓を開けて、
「ずっとそこに居させるんじゃ申し訳ないから」
と、呼び出した悪魔を帰した。
私には悪魔の姿形は見えなかったが、帰るときには確かに、窓から身を乗り出して帰ったような感じがしたから不思議だ。
それで、降悪魔術の儀式は終了らしい。
次の瞬間には参加者が、思い思いにその開け放たれた出窓から先程の悪魔のように身を乗り出し、飛び立っていった。
皆さも愉しげに、気持ち良さげに、のびのびと翼を出して空を舞う。
翼の形や色はそれぞれ違うのに、飛び方は皆上手だ。
自分以外の大半が飛び立ったのを見届けた後、いよいよ私も飛ぼうかと思ったところで、目が覚めた。
御盆最終日に見た、楽しい夢だった。
以下、感想↓ ↓ ↓
普段の自分からしてみれば、
びっくりして笑ってしまうほど厨二病フルスロットルな夢を久方ぶりに見たものだ。
だが、その夢の中で感じていたのは
・集団での仲間意識
・本当の自分を露わにして心から楽しめる喜び
・高揚感
だった。
日常の私が、心の奥底で求めていたものなのかもしれない。