あれ、衣替えが大変すぎる
手首を、痛めた。
人間、ちょっとした怪我で一気にクオリティ・オブ・ライフというやつが落ちる気がする。体というのは実に考えつくされてつくられているのだとわかる。
こんなに引きこもっているのに怪我をするとは、体の使い方に関して、初心者マークをつけないといけないのではないか。
いや、元はと言えば、衣替えが大変すぎたのが問題だった。
起毛のフリースから長袖へと移行するかと思えば、長袖を飛び越して夏めいたものが来た。
引きこもっていても、衣替えは必要だ。
引きこもりにも、季節を楽しむ権利はある。
そう、だから慌てて棚の上の夏服をよいしょとおろそうとした。
途端、衝撃が走った。
その夏服のかたまりは、どんなに力を加えても、びくとも、しないのだ。
いや、困る。これが、なけりゃ夏が来ない。っていうか長袖で猛暑を過ごすとか死んでまう。え、もう、長袖をはさみで切るしかないのか。嫌だ。
私は命がけでこのミッションに取り組んだ。
夏服という怪物と格闘を繰り広げた勇者、手首は、戦いのあと、名誉ある死をとげた。
夏服を棚へと移し替えていく中で、私は気付いた。
Tシャツが、多すぎる。
そして、我に返った。
私は夏に着ようとかわいいTシャツをネットでニヤニヤと買い漁る冬を越していたのだ。
2020の夏、どんなけ楽しみにしていたんだよ、君は。
毎日違うTシャツを着てひと夏こせるぜ、この量は。
大家族の主じゃないんだから、君、一人でこの量って。
だいたい、もともと週に5日はオフィスカジュアルじゃん。週に2日しかTシャツ着る機会ないじゃん。計算違いはなはだしい。
おいおい。
ああ。
そうだ、楽しみにしてたよね、2020の夏。
地元のお祭りに行って、
オリンピックに行って、
あ〜全部なくなっちゃったね。
Tシャツの枚数分、この夏を楽しみにしてた。
あのかたまりは、自分の期待の高まり。
夏が、急に悲しくなってきた。
あ。
そうだ。
Tシャツで出来るあの仕事に、あの夢を、絶対つかもうと思ってた夏でもあったじゃん。
うん。そっか。
2020の夏は、まだまだこれからだ。
出番を待っていてくれ、Tシャツくんたちよ。