
あれ、頑張っている人はシンプルに報われろ
私の手には、ザンギがぶら下がっていた。
ザンギ、そう、北海道の唐揚げみたいなのらしい。
みたいなのというか、見た目は完全に一致している。
これは、問題である。
もちろん、ザンギのアイデンティティの問題じゃない。
ダイエットをしている女が、揚げ物をぶら下げているという事実がだ。
そう、私のメニューは、イカそうめんだったはずだ。
イカそうめんにオニオンスープ、そこに野菜ジュースを飲む。
非常にヘルシー。
イカそうめんを買うために外に出たのに。私はザンギと帰ってきた。
え?なんだこの三段跳び不倫。
あのお姉さんに出会わなければ。
もし、あのとき、信号が変わらなかったら、左折する車をさけて、奥の道にいかなければ、私は、あのザンギのお店と、そしてあのお姉さんと出会うことはなかった。
そして、ザンギのお店を道路の向かいに見つめながら、たまたまipodの音楽が止まってしまって、そこにあの声が聞こえてこなかったら。
運命とは。ねえ。
音楽の隙間に、お姉さんの交差点いっぱいに響き渡るかのような声が聞こえたのだ。
「ザンギいかがですか!できたてですよ!」
学生時代はスポーツ一筋でした!といった感じのあのお姉さんのまっすぐな声。なんの淀みもなく、自分が作ったザンギを買ってほしいという思いを一直線に伝えようとしてきていた。
吸い寄せられた。突き動かされた。
気づいたときには、私はザンギを買っていた。
そして、買ったあと、「また、ぜひ買いに来てください!」というお姉さんにマスクの下で口角をあげて、頭を下げて帰る。
少し遠くなる私の背中にも、ずっと届けようとしてくる「ありがとうございました!」の声。胸に突き刺さるあのまっすぐな言葉と気持ち。
頑張っている人は、報われたらいい。
というか、報われるべき。そうであれよ、世界。
シンプルな話だ。
私はザンギをぶら下げながら、そんな風に思った。
ザンギの熱が胸に伝染していたのかもしれない。
そして、持ち帰ったザンギは、すごく美味しかった。
私はまた、買いに行くだろう。
そして、体重計にのってまっすぐ現実から逃避したくなるだろう。
ほんと、実にシンプルな話だよ。