要約 ブーバー『我と汝』
〇第一部。二つの根源語、間性としての人間。
〇第二部。歴史的・国家的に「我―それ」関係が支配的である現状
〇第三部。「それ」へと向かう運命にある我が、永遠の汝とのペルソナ的関係を経ることで、調和的共同体が可能となる。
第一部では「我―汝」という根源語が「我―それ」と対比される。どちらにせよ、人間は他との関係に入る「間」性を本質としており、デカルト的な独立自存の理性的自我は存在しない。人は「汝」とともに愛の関係に入る可能性をもつが、この愛が感情として心理的所有物に変わると、汝が「それ」へと変換されてしまう。
第二部では二つの関係が歴史的共同体的視点で語られる。現代的な人間関係がすべて経済―利潤的・国家―権利的な「我―それ」関係に陥っていることが確認される。ここにおいて、民衆は国家に量的手段として所有されているという歴史的状況が確認される。
第三部ではこうした関係を破る「永遠の汝」が説明される。「それ」へと向かう性向をもつ人間が神と出会うという恩寵的事態において不変の汝を見出し、相対的・手段的な他者関係から解放される。個々人は永遠の汝を媒介として、調和的共同体を形成することができる。ただし、永遠の汝との関係は没入的融合的ではなく、むしろ自他の異なりを明確にするペルソナ的関係である。
本書が二つの大戦の間に書かれたことは示唆的である。理性主義の暴力を「我―それ」関係として先取りしていた点で、現代哲学がとり得る道のひとつの手引きとなるだろう。
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