伊藤亜紗さんの「利他」と照らし合わせ、悩みを見つめなおしてみました。
「保護を与えるのではなく、機会を与える」という考え方のもと、社会の中で生きづらさを感じている方々に向けた支援活動「ギルドケア」を続けてきた私たち。
(ギルドケアについてはコチラの記事で紹介しています)
もっと多くの人に彼らの実態を知っていただき、私たち自身についても適切に説明する言葉を持つためにnoteでの記事更新をつづけています。
先日ある記事を読み、私たちの活動を捉えなおす観点を得られたように感じたのです。今回は、伊藤亜紗さんが書かれた「利他」に関する記事を紹介しながら、私たちの活動と照らし合わせてみたいと思います。
私たちの悩み:対象を定めない支援活動のむずかしさ
たとえば障害者手帳を持たれている方や、病院から診断を受けている方であれば、行政から一定の支援を受けられます。ただし、私たちが支援しているのは、そうした枠には収まらないが、多くの方と同じように働ける状況ではない方たちです。いわば、既存の福祉の網から漏れてしまう生きづらさを抱えた方々。「ギルドケア」の中では、私たちもできる限りお一人おひとりの事情や感情を把握しながら、支援対象の状況に沿った適切な支援を提供しようと最大限努めています。それでも、私たちだけでは幸せな未来を実現できないといった事態も少なからずあるのです。
既存の支援制度の網からこぼれてしまった、枠にあてはまらない方々を支援しようとするからこそ、支援内容もあらかじめ定められないという事情があります。常に現場で一人ひとりと向き合い、その場でできる最大限の支援を提供していく対応以上のことを実施しづらいのです。取り組み自体に枠を設けることも検討しましたが、枠を設けてしまうと取り組みの本質が変わってしまうと感じたため検討のみに留まりました。
そんなことに悩んでいるとき、ある記事に出会いました。
「生」だからこそ、変化をつづける対象と関係性
記事を書かれたのは伊藤亜紗さん。2020年から東京工業大学「未来の人類研究センター」の初代センター長を務め「理工系大学のど真ん中で、手と心を動かしながら、人類の未来について考え、発信します。」とその活動を説明されていました。本記事が私たちが悩んでいる分野を文章化してくれているように感じましたので、中でも印象的だった文章を引用します。
この文章に触れ「ギルドケア」の価値をあらためて認識することができました。常に変化する支援対象者と彼らを制御したり、彼らとの関係性を枠に収めようとするのではなく、変化をつづける「生」なものとして寄り添い付き合うことこそ「ギルドケア」の価値。支援活動に明確な枠を設けることで、取り組みが形骸化したり、対応の柔軟さを失い、本来の目的から乖離したりしてしまう危険性もあるようです。私たちとしても、活動の優先順位を見失わずにいたいと思っています。
「利他」活動として見た「ギルドケア」
伊藤亜紗さんは、「RITA MAGAZINE テクノロジーに利他はあるのか?」という雑誌の出版にも関わられています。
その冒頭に書かれたまえがきの文章を引用します。
まえがきを読みながら、また勇気づけられました。「利他」的な取り組みに対して、真剣に向き合い発信しようとしている伊藤亜紗さんのような方がいること、その取り組みをさらに多くの方に伝えようとするミシマ社のような出版社があることを知ったからです。引用した文章の中でも触れられていますが、「利他」的な取り組みは「生産性」や「合理化」といった私たちが暮らす社会の標準的なものさしからは外れた振る舞いです。だからこそ理解されづらく、関係者も増やしにくい。逆風の中にあっても、正面から「利他」的な取り組みの価値を発信している方々の存在は、大きな励みになったのです。
また、「RITA MAGAZINE」のまえがきにはこんなことも書かれていました。
まさしく私たちが大切にしている考え方「保護を与えるのではなく、機会を与える」とつながるメッセージでした。おせっかいが見えるほどに本気で関わりながらも、本人の理想を優先させること。それでも支援を求める声をあげやすい場づくりをつづけていくこと。大切なことを見つめなおすことができました。
同じ姿勢で、ともに悩みたい
ここまで書いてきて、わかったことがあります。おそらく、私たちの悩みはこのままずっとつづくであろうこと、です。枠に収まらない方々を対象にした支援活動では、せっかく出会えても相手の求めることと私たちが提供できる機会が折り合わない事態は起こりつづけるでしょう。
それでも、伊藤亜紗さんの言葉に背中を押された今では、前向きに悩めそうな気がしています。結局のところ、出会った人々と向き合い、常に最善の方法を模索しつづけることが「ギルドケア」の本質なのかもしれません。もしできることがあるとすれば、同じような問題に向き合われている企業様や個人の方々とつながり、提供できる支援の幅を広めていくことなのかもしれません。私たちと課題感が重なる方がいらっしゃれば、ぜひともに悩んでいただけますと幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?