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「たとえ飛んでも、戻ってこれる場所」/支援エピソードNo.3


現在の社会にはなじみにくい特性を持った方々に向け、私たちは「ギルドケア」という支援活動をつづけています。「保護を与えるのではなく、機会を与える」姿勢を大切に、一人ひとりの状況に合わせて調整しながら支援しています。

ギルドケアについてはコチラの記事で紹介しています。

たとえば「境界域知能」の方など、今の社会に生きづらさを感じる方々の実態を私たち自身もさらに深く理解したい。また多くの方にもこの状況を知っていただきたい。そしていつか一緒に彼らの支援に取り組む仲間になっていただけたら。
そんな想いのもと、noteでの記事更新をつづけています。

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今回は、日々さまざまな支援対象者と触れ合う社員から聞いたエピソードをご紹介します。私たちの支援活動のリアルな状況と、支援対象者との交流から私たちがもらえているものについても感じていただけるかと思います。




(以下、社員によるエピソード)

私たちの職場には、安定的な住まいをさまざまな事情で失った方も入ってきます。前職のトラブルで家を出ざるを得なくなった方、家族と絶縁状態になって住まいを失った方など、その背景は本当に多種多様です。そんな中でも、Aさんのケースは忘れられないもののひとつです。

公園で生活していたAさんとの出会い

Aさんが初めてうちを訪ねてきたとき、「ずいぶんやつれているな…」という印象を受けました。後から聞くと、前の会社で上司からひどい扱いを受け、精神的に追い込まれて公園で寝泊まりするようになったそうです。食事も不十分なまま長く過ごしていたためか、面接中も「もう腹が減る感覚がなくなってるんですよ」と自虐的に笑っていました。

私たちは彼に住まいや食事を提供することにし、住所を取得することで身分の復活の支援をしました。本人も「住む場所ができてほっとした」と言い、仕事が決まったときには「自分はまだ働けるんですね……」と、どこか安堵の表情を浮かべていたのが印象的でした。

飛んでしまったAさん

Aさんは当初、真面目に働いてくれました。お客さまとのコミュニケーションも上手で、「Aさんを呼んでほしい」と指名が入るほど評判も上々。ところがある日、誰にも何も告げずに寮からいなくなったのです。私たちの業界では、こうして突然姿を消すことを「飛ぶ」と言いますが、Aさんもまさにそうでした。

それからしばらく連絡が取れず、私たちは「住むところはあるのか」「身体は大丈夫だろうか」と気が気ではありませんでした。お客さまからも「Aさん、もう来ないの?」と聞かれ、私自身も「戻ってきてほしい」と強く願っていました。

戻ってきたとき、彼は泣いていた

数週間後、事務所近くで妙にうろうろしている人がいて見たら、Aさんでした。今にも泣きそうな顔で下を向いている姿に声をかけると、「申し訳ないです……。また勝手に逃げてしまって、もう受け入れてもらえないかと思いました」と言って涙をこぼしました。前の会社がきつくて逃げたのに、また今回も逃げてしまった自分を情けなく感じていたようです。

私はその場で「次はちゃんと“飛ぶ”って言ってからにしてよ、心配しちゃうから」と冗談っぽく声をかけました。彼が帰ってきたことの安心感と、何より彼自身が泣きそうな顔で「頑張りたい」と言っているのを見たら、自然と「また一緒にやっていこうか」と受け入れられたんです。

出戻りの先輩

再度寮に入ってもらい、体調に気をつけながら少しずつ現場復帰を進めました。するとAさんは以前にも増して働くようになり、今度は「働きすぎじゃないか」と心配になるほど。ガリガリに痩せていた体も今ではかなり太って、「食べられるのが嬉しくて止まらないんですよ」と笑います。

仕事の面でも「困っている人がいれば手伝いますよ」という姿勢で、すっかりリーダー役。お客さまからも再度指名が入るようになりました。あるとき、私が「もしまた出戻りの人が出てきたらフォローしてあげてよ」と冗談混じりに頼むと、「大丈夫ですよ。自分も“出戻りの先輩”なんで」と即答してくれたのが忘れられません。

「いつでもお帰り」と言える場所

当然、無断でいなくなられるとシフト調整も大変で、スタッフとしては困ることが多いです。けれど「飛んだからもう縁切り」にはしたくないと考えています。Aさんも出戻りの経験がなかったら、いまの活躍はなかったでしょう。彼はかつて「逃げた」経験をバネにし、同じように悩む仲間を温かく迎えられる力を身につけました。

人は「もう逃げたい」と思う瞬間が必ずありますが、戻れる場所があれば再び踏ん張ることもできるのではないか――Aさんを見ていると、そう感じずにはいられません。もちろん、誰もが必ずうまくいくとは限りません。でも、できる限り「もう一度ここで頑張ってみようか」と声をかけられる環境を作りたいと、私たちは常々思っています。

あれだけ痩せていたAさんが、いまはピザを頬張って「また太っちゃったなあ」と笑う姿を見ると、本当に「やってきた甲斐があった」と感じます。「すべてを許容する」ことは難しくても、「受け止められる」場所を用意しておく――私たちは、そういう存在でありたいのです。


Instagramのご紹介


私たちは定期的に懇親の場として食事会を開催しています。仕事の場では時間や役割を気にして、話しにくいことだってあります。だから気楽に、お互いが一人の生活者に戻って不安も希望も話し合える場をつくっているのです。下記Instagramでは、自社の畑で採れた野菜をつかい季節や行事を反映した献立や、食事会の様子などを発信中です。よろしければ、ぜひご覧ください。フォローもいただけると大変うれしいです!


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