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トランスジェンダーというカルト18 GRC

元夫は離婚を急いでいた。その理由は以前の記事(→)で触れた『Gender Recognition Certificate』(GRC)の申請にある。GRCは出生証明書上の性別を変えるために必要な書類だ。こちらの出生証明書は日本の戸籍に近しい存在で、GRCを取得すれば国が管理する全てのデータ、医療、犯罪歴、債務などにおける性別が変わる。

GRCにはいくつか条件があり、そのひとつに申請者が結婚している場合は配偶者の同意を得る必要があることが挙げられる。配偶者の同意を得られない場合、離婚しない限り正式なGRCを取得することはできない。ここで強調しておきたい重要なポイントはGRCの効果はあくまで出生証明書を変えることだけであって、医師の診断書があってもなくてもパスポートや運転免許証などの性別をすぐに変える方法はあるし、それも難しい過程を踏むものでは全くない。配偶者の同意を得られずにGRCが暫定的なものになったとしても出来ないことは出生証明書の変更だけで、日常生活の範疇で影響を受けることはない。それでも彼はGRCに拘った。自分はもう本物の女なのだから、出生証明書上の性別が男なのはおかしいと考えていたからだ。

彼は私がGRCに協力しないことを知っていた。(→15)おそらく私をレズビアン呼ばわりしたときの反応のせいだろう。彼に聞かれるまでもなく、私は同性愛者ではないので、自分のアイデンティティを犠牲にしてまで彼に協力する気はサラサラなかった。プライドの高い彼は状況をコントロールする有利な立場に立つために自分から離婚を切り出したが、別々で寝たいと私が提案したとき、既に私に彼に対する愛情が残っていないと彼は知っていた。

元夫は最初、善人のふりをしていた。自分に責任があるから私の生活を台無しにすることはしない、と。しかし、私には彼がどういう人間かはよく分かっていた。彼は気分次第で約束を破る。決めたことをやり遂げたことなど人生で一度もなく、その都度言い訳を作っては逃げる。彼と親友の関係を疑い始めてから、私はとにかく彼の機嫌を損ねないようにしようと自分に言い聞かせていた。

しかし、彼のあまりにも常識から逸脱した行動に、私は彼と口を聞きたくなくなった。パートナーを脅して不倫関係を正当化し、その上で所構わず家の中でビデオ通話をするなど私なら到底思いつきすらしない。小学生のワードを引用すれば、こいつと喋ったら口が腐るという感じた。私はリスクを承知で彼との会話は最低限に留めて、自分の部屋に篭っていた。しかし、それは共感力のないモンスターにとって面白くない。収入差は依然としてあるのにも関わらず、私に家賃の折半を要求してきた。

当時、私は再就職したばかりで、それも最低賃金の派遣社員だった。こちらでは通勤にかかる交通費は自費なこともあり、手元に残った収入はほとんど2人分の光熱費、税金、消耗品で消えた。今すぐに折半は難しいことを伝えると、今度は彼はいかに結婚生活に自分を犠牲にしてきたかを語り始めた。独身時代に沢山あった貯金も今はゼロになって、借金までしているのは私のせいだと。私の仕事が安定しないせいで彼にずっと金銭的苦労をかけたことは重々承知していたが、それでも私は状況的に納得がいかなかった。

結婚生活が終わろうとしているのは、彼自身の身勝手な理由じゃないか。国が違ければ慰謝料だって貰いたいところを、私は最小限で妥協している。その上、彼の浪費癖はカムアウト後さらに悪化した。女になったから、と今まで家にあった物はすべて捨て、新しく女性向けの物を買い直した。洗顔料、パジャマ、スリッパ、シャンプー、すべてだ。しかも、髭の脱毛やネイルサロンのサブスクまで契約していた。もともとは金に困らないはずのない生活をしていたにもかかわらず、彼はすべてを私のせいにしたのだ。

私が彼の浪費を指摘すると、彼は怒り狂った。自分の金なんだから何に使ってもいいし、必要なことだから私には関係ない、と。しまいには「今すぐこの国から出て行け。お前のことなんて、いつだって移民局に通報できる。」と私を脅した。結婚生活のなかで脅迫されたのは、これが最初ではない。彼は私が日本に帰らなければいけなくなることをどれほど恐れているかを知っていた。私を黙らせるための常套句だった。

「今までは全て私の我儘だった。お願いだからここに居させてほしい。」と泣きながら彼に懇願したこともある。いつまでも覚えている、屈辱的な経験だった。我儘なのはどっちだと思いながら、私に残された選択肢はそれしかなかった。トランス関連団体はジェンダー肯定治療について世論が懐疑的になるたびに、トランジション前の人々がいかに精神的に追い詰められているかをドラマチックに語る。特に子供の成長期に影響を与える思春期ブロッカーの是非には、治療を中止すれば子供の自殺者を増加させると半ば脅しのような仮説を出してくる。トランスジェンダーは被害者ではない。私は自らの体験と他のトランスウィドウたちの証言に誓って、そう断言できる。

トランスウィドウ団体『Trans Widows Voice』はトランスジェンダーたちがGRCを申請する前に、彼らの配偶者が結婚の無効を申し立てる権利を主張している。配偶者のトランジションを理由に結婚の無効を申し立てることが可能になれば、宗教上の理由で離婚が困難な女性たちに選択肢が与えられることに加えて、トランスウィドウたちが「同意していない婚姻関係の形」を強制されることも避けられる。配偶者の性別が変われば、必然的に異性婚が同性婚に、同性婚が異性婚になる。

イングランドでは2022年の法改訂以降、離婚の際に結婚生活が破綻した原因を明確にする必要がなくなったので、理由が何であれ離婚自体は可能だ。しかし、トランスジェンダーが配偶者の同意を得ずに離婚前にGRCを申請することは今現在可能で、知らないうちに申請されてしまえば結婚当初に合意した婚姻関係ではなくなる上、自分のセクシュアリティが事実と反することになる。つまり、トランスウィドウ団体が配偶者のトランジションを理由に結婚の無効にする権利を主張しているのは、トランスウィドウたちの人権に関わる問題だからだ。

Stonewallなどのトランスジェンダー関連団体は、この案に反対している。トランスジェンダリズムは事あるごとに「人権」を主張しながら、彼らによってトランスウィドウが受けるであろう影響には何の配慮もしていない。それどころか、出生証明書を変えたいがためにトランスウィドウたちの人権を踏み台にしている。繰り返しになるが、出生証明書上の性別を変えようが変えまいが、彼らの社会生活には何の支障もない。日本の戸籍とは違い、出生証明書はほとんどの公的書類と紐付けされていない。国籍を証明するのであればパスポートがある。持ち運びに便利な写真付きの身分証が欲しければ、運転免許証がある。

要するに、彼らのくだらないこだわりのために勝手に同性愛者と見なされている異性愛者の既婚女性、またはその逆が存在するということだ。トランスジェンダーの人権を保護するのであれば、同じようにトランスウィドウたちの人権も扱うべきではないのか。しかし、トランスジェンダリズムの支持者たちにとってトランスウィドウ、トランスジェンダーの子供たちは保護対象に入っていない。これのどこが人権活動なのだろうか?

私はとにかく、この地獄はすぐに終わると自分に言い聞かせた。相手は正気じゃないのだから、こちらがまともに考えてもしょうがない。同時にこの経験を必ず誰かと共有して、このおかしなトランスジェンダリズムというカルトの本性を暴いてやると、心のなかでメラメラ燃えていた。

(次の記事に続く↓)