シェア
ゲストハウス萬家
2020年10月16日 20:31
屋上の扉を開けて一瞬、目の前をマルーンカラーの車体が通り過ぎていく。――阪急電車だ。小豆色とも、チョコレート色ともいう。上質な赤ワインのような色にも見える。風が立ち、車輪の音が遠ざかっていく。顔にかかった髪をかき上げた時には、電車はもうほとんど見えなくなっていた。ここはゲストハウス萬家―〈マヤ〉と読む―の屋上。そう、うちの宿には屋上がある。秋は半ば。早いもので、萬家で働き始めて四度目