トレーニング、「科学的」だから「効果的」なわけではない
はじめに
例えばYouTubeやTikTokなどにあふれているトレーニング動画。
「腹筋の10倍痩せる!」
「毎日30回3ヶ月続けたら15kg痩せた!」
などなどもうスッゴイですよね。
こんな「科学」も「理論」も全く無視した情報は論外だとしても・・・
「エビデンスに基づいた」とか
「最新のメタアナリシスによると」とか
これも鵜呑みにはできないんです。
もしあなたがパーソナルトレーナーをお探しだとしたら、こういうことばかり言っているトレーナーは避けた方が良いかもしれませんよ、というお話です。
科学的トレーニングの基本
1.データ主導
トレーニングプログラムは広範囲の科学的研究から得られたデータに基づいています。
これには臨床試験、観察研究、メタ分析などが含まれます。
2.原則の一般化
大規模な研究から得られる一般的な原則は、多くの人に適用可能です。
例えば、特定の運動が心臓病のリスクを減らす効果があることが示された場合、この情報は広範な人口に適用されます。
3.効果の測定
トレーニングの効果は科学的に検証され、定量化されています。
これにより、未来にわたって特定のトレーニングプログラムがもたらす効果を理解し、予測することが可能になります。
統計学に基づくアプローチの限界
1.平均化の落とし穴
しかしどんなに広範囲な研究結果であっても、それは統計学に基づくものです。
統計学は一般的な傾向や平均値を捉えますが、個人の異なる条件を完全には反映できません。
これは、特定のトレーニング方法が「平均的に」効果的であっても、全ての個人にとって最適とは限らないことを意味します。
2.個体差の無視
人々は生理学的、心理学的、環境的要因で大きく異なります。
例えば「ランニングよりもHIITの方が消費カロリーが多い」と言った場合でも、それは「単位時間あたり」という意味であり、その継続できる時間やそのカロリーでのエネルギーバランス(3つのATP再合成のシステムの割合)にはかなり個体差があります。
また筋トレの効果でもその人が「速筋優位」なのか「中間筋優位」なのか「遅筋優位」なのかによって同じ内容だったとしても結果はかなり異なります。
このように個体差は、トレーニングの反応や効果に大きな影響を及ぼす可能性があります。
3.研究の信憑性
どんなに広範囲の研究結果をもとにした「メタ解析」の結果だったとしても、それが特定の国の中で行われたもので、それが自国民ではない場合、適応できない場合も多いのです。
以前のnoteでも書きましたが「白米が疾患の原因になるかどうか?」の研究結果では欧米では摂取カロリーの中で白米が占める割合が多い方が「心疾患」や「大腸がん」のリスクを減らすと言われていますが、これは欧米での動物性タンパク質や動物性脂肪の摂取量と関係していると言われます。
このように人の健康や体力の状態は、異なる環境要因や文化などが大きく影響を与えるものです。
ですから元のサンプルに偏りがあれば、どんなに大多数の被験者でも当てはまらない場合があることを考慮する必要があります。
例えばこんな例も
背景
30代のヒロシさんは、最新のエビデンスベースのフィットネスプログラムに興味を持ち、ネットでいろいろと調べた結果、週に3日、1日10分の高強度インターバルトレーニング(HIIT)を始めました。
これはSNSで「多くの研究に基づく効果的なトレーニング方法」だと紹介されていました。
問題の発生
ヒロシさんはプログラムを始めてすぐに、その強度と頻度が自分にとって非常に高いことに気付きます。
彼は以前からあまり運動していなくて、さらに過体重気味だったため、トレーニングはすぐに負担となり、悪影響を及ぼします。
また、ヒロシさんには軽度の腰痛の問題があり、高強度のトレーニングはそれを加味したものではありませんでした。
ヒロシさんは過度の筋肉痛、腰痛と疲労を経験し、これが彼の日常生活にも影響を及ぼし始めます。
無視された個体差
ヒロシさんは、エビデンスベースのガイドラインが「平均的な」効果に焦点を当てていることに気づきますが、これが自分の現在のフィットネスレベルや生活スタイルには適していないことに当初は気づかずにスタートしてしまいました。
結論
この例は、エビデンスベースのトレーニングプログラムが、個人の特定の状況やニーズを十分に考慮していない場合に、逆効果になる可能性があることを示しています。
運動のように直接体に負荷をかけるものの場合、個々人のフィットネスレベル、健康状態、および個人的な目標に合わせたカスタマイズが最重要なのです。
SNSなどネット情報の問題点
さらにこれが海外の場合、訴訟の問題があるため
「これは医学的な効果を保証するものではなく、もしあなたに医学的な問題が発生した場合でも当方は一切責任は負いません。」
「実施にあたっては医師や専門家の指示を仰いでください」
といった注意文が添えられていますが、日本の情報、特にSNSではそういった責任意識が全くないまま情報発信される場合がほとんどです。
その上で再生数などバズれば良いという意識が根底にあるため「科学的」「医者も薦める」などというキャッチコピーのもとに個人差を考慮しない情報が飛び交っています。
特にパーソナルトレーニングなら
パーソナライズの重要性
当たり前ですが、効果的なトレーニングプログラムは、年齢、性別、健康状態、フィットネスレベル、目標、これまでの運動歴などはもちろんのこと、運動に対する苦手意識、個人の価値観、文化などを考慮する必要があります。
多くのエビデンスではそういった価値観や文化は考慮されていません。
フィードバックと調整
トレーニングは、個々の反応に基づいて常に調整されるべきです。
定期的なフィードバックと評価により、プログラムを個人の進展や変化に合わせて微調整します。
あくまでも「人」が最優先であり、「人」を「科学」に当てはめ、「科学」を強要するような姿勢は「パーソナルトレーニング」とは言えないのではないでしょうか?
結論(あくまでも僕の考えですが・・・)
それが「パーソナル」をうたっているわけですから、個人差に基づいたトレーニング指導をするのは当たり前の話です。
科学的根拠が一種の「物差し」「指標」として有効なのは当然。
しかしその物差しは目の前の「個人」がそこからどうずれているのか?
なぜずれているのか?を測るもの。
「個人」より「物差し」の方が大切なわけはありません。
ということで、もしあなたが「パーソナルトレーナー」を選ぶなら「理論的」「科学的」「エビデンスに基づく」と振りかざすようなトレーナーは選ばないでくださいね。
かといって「エビデンス」を知らないトレーナーは論外です。
「エビデンス」「科学」を理解した上で、それを道具として使いこなし、何よりもあなた個人に寄り添い、あなた個人を尊重してくれて、あなたにピッタリと合ったオーダーメイドのトレーニングを提供してくれる。
そんなトレーナーを選んでください。