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うたかたの…

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短編…より短いかな。小話かな 詩…とか、心のささやきとか
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#料理茶屋

よるべなき男の・・事情

第伍話:よるべなき男の周辺事情 「必要のないことに、労力は使わない主義なのさ」 男と女の情事を「労力」と申すこの男、ハナブサは食えない男でありました。 ハナブサが料理茶屋に出ている長屋の女に「入れ込んでいる」という噂は瞬く間に広がっていきました。ただひとついつもと違いますのは、普段なら真っ先に騒ぎ立てるお美奈が、必要以上に過剰反応することがない…ということでございました。 通常なら、そんな噂が立とうものならすぐさまその噂の出所にに駆け付け、もとを握りつぶし、盛りのついた獣

よるべなき男の・・事情

第肆話:よるべなき男の心情 枷屋は呉服問屋の傍ら土地家屋を所有する地主でもありまして、自宅の裏手には未婚の奉公人の住まいと、神田や日本橋辺りには所帯持ちのための長屋をいくつか所有しておりました。 この時代地主が直接店子を「管理する」ということはなく、店賃《たなちん》(家賃)の回収等々は差配人と呼ばれる実質的な大家を介して行われておりましたので、地主が出張っていくことは滅多になかったのでございます。ゆえに地主は、奉公人以外の住人の様子を知る由もない…となりますが、ついぞ息子の

よるべなき男の就労事情

ハナブサはいわゆるひとたらしだ ゆえに男にも女にも不自由はしない 彼がひと声掛ければだれひとりとして拒むものはなかった 現在彼は長屋に住む女に恋をしていたが それを恋とは気づかず 同じ長屋に住む年老いた笠職人の娘に入れ込んでいた 娘は浅草から少し離れた「料理茶屋」で働いていた 枷(かせ)屋は呉服問屋の傍ら土地家屋を所有する地主でもありまして、自宅の裏手には未婚の奉公人の住まいと、神田や日本橋辺りには所帯持ちのための長屋をいくつか所有しておりました。 この時代地主が直接店