よるべなき男の・・事情
第肆話:よるべなき男の心情
枷屋は呉服問屋の傍ら土地家屋を所有する地主でもありまして、自宅の裏手には未婚の奉公人の住まいと、神田や日本橋辺りには所帯持ちのための長屋をいくつか所有しておりました。
この時代地主が直接店子を「管理する」ということはなく、店賃《たなちん》(家賃)の回収等々は差配人と呼ばれる実質的な大家を介して行われておりましたので、地主が出張っていくことは滅多になかったのでございます。ゆえに地主は、奉公人以外の住人の様子を知る由もない…となりますが、ついぞ息子の