読書感想文(伊沢拓司『クイズ思考の解体』:第二章 早押しの分類(P.309~P.126))其ノ②
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以下、読むのと同時進行で殴り書きしたメモを元に作成。(2021/11/2)
◇ ◇ ◇
・25の構文。さぁ、一つ一つ見ていこう。
・…と思ったら、前説が始まった。
・早く押せる理由。たぶん、一般向けのQAのなかで、一番メインのとこよね、ここ。
・早い理由の一要因を「構造把握」としたか。
・まぁ、そうね。『ユリイカ』での東田さんが書いてたアブダクションの定義に則るなら、(無数に存在している法則の中から当てはまりそうな一つの法則を仮設して、現在与えられた事例への)法則の当てはめなんだけど、そうね、うん。無数の法則から選び出しているという前半部分はともかく、法則の当てはめという後半部分は同じとは言える。その意味で、アブダクションではなく単なる演繹になってそうな気はするが、早押しクイズにおける構文(フレーム)は、"世界の約束"ならぬ"クイズ的な約束の固まり"といえるね。中には言語法則系の世界の約束に近いのもあったりするけど、ローカルルールと、半々ぐらいよね。とにかく、"クイズ的な約束"を知っていればいるほど、より少ない情報(ビット)で仕分けることができる。
・この、早押しクイズに早くなるというのも、こんな感じにアブダクションによるフレーム適用であるという見方をすれば、本質的には推理ゲームと変わらない。
・世界の法則。水は高きから低きに流れようとする、朝に日の光を浴びたら気持ちいい、コーラを飲んだらげっぷが出る、人は絵が上手くなれど下手になることはない、などなど、生活にお役立ちの経験則を当てはめて、やったーうまくいった!と喜ぶ。それと変わらない。
・ただ、クイズの約束は、構文を覚えたての頃や知ってまもない頃は、どの法則が隠れているか、どの法則が当てはまるかを探るアブダクティブな楽しみがあるんだけど、ローカルなルールであり範囲も限られるため、次第に慣れてくると、単に知っている法則と組み合わせを演繹するだけとなってしまう。答えの導出を法則側からではなく、クイズ問題の例から1対1で覚えて当てはめるようになり、次第に一体となって、ひと固まりの知識として定着していく。
・それが、上達するということなんだけど、クイズをはじめたての頃に感じることができた「Q.南米の国で、パラグ/」という問題を聞いて、時間をかけて法則から演繹して答えを探すあの楽しさは、クイズのベタ問に関しては、既に自分にはない。
・法則の探索、法則による推論とその結果は、t(時間)を進めれば、単なる知識の再生(リコール)となる。それは、思考リソースの効率化であり、よりうまくできるようになったということなのだが、同時に、楽しいパズルタイムの終わりでもあるのだ。
・演算結果のハッシュテーブルを用意し、ハッシュ値で読みだす。そして、それは途中のパズルを通り越して、正解という結果だけを先に求めたとしても、極論、クイズの結果が変わらない。
・むしろ、クイズで勝利するためであれば、その推論過程を通り越して導出された結果だけを暗記していく方が効率がよいのだ。九九を一々足し算で数え上げて求めていたら、実践では使えないのと一緒である。
・新作問題に出会ったときにワクワクする感覚は、おそらくここらへんが関わる。
・そして、既出問題にうんざりする気持ちもまた、これだろう。
・早押しクイズをする人々の中でも、クイズに抱く期待は様々だ。知恵比べをしたい者もいよう、どれだけ準備してきたのかを競いたい者もいよう。そして、中には、まだ見ぬパズルをいかに早く、うまく、楽しく解けるか。これを求めている者もいるのではないか。第一目的が、ストッカーでも、ディジションメーカーでもない、パズラー、そして、ソルバー。
・そして、このパズルが好きな人は、実は、早押し競技クイズで培われたメタパタンを足掛かりとして、より世界に近い、早押しクイズの約束ではない、世界の約束を用い、早押しクイズの約束を越えた、世界の約束による因果ネットワークを使って、出会うクイズ出会うクイズに触れて楽しむという道が開かれているのではないかと思う。
・これは、結果的に、ストッカーやディジションメーカー(貯蓄民族や、意思決定民族)の楽しみを一周回ってより強化させることにもつながる。より素朴な、知的好奇心のおもむくままな、世界との向き合い方ぜよ。
・もしかしたら、「見巧者」となった次の段階として、競技的なクイズの外側の面白さへと、競技クイズのフレームを使うという考え自体をヒントに、進んでいく。そんな段階が待っているのかなぁ、なんて。きっと、それは、素敵だなぁ、って思う。
◇ ◇ ◇
・戻ろう。早押しクイズの性質とな。
・早押しであること。これは、そんまんまやな。
・解答権獲得後のシンキングタイムがあり利用できること、誤答のリスクテイキングゲームであること。この2つは、一般には広く知られていない部分だねぃ。
・これらの性質により、単なる「わかった/わからない」の2択を条件反射のように繰り返すゲームではないのだよ早押しクイズは、と説明している。
・んで、ここでひとつ、クイズのお約束に触れたね。
・「①「デクレッシェンド構造」であること。」Quizology的には、「ピラミッダルであること」だね。うん。だんだんと狭まり極まるの。
・あ。ちょいと反れるが、本のデザインについて気になったので、ひとつ。
・リスクA、リスクBと言っている中で、Q・A、Q・Bと同じ文字を使うのはよくないね。Q・AとQ・Bとの間にリスク比較がされているわけではない中で、リスクAとリスクBの吊りあい比較がうんぬんと話をしてしまうと、混乱しうるから。ここらへん、理系とか情報系なら気を付ける基本のとこだと思うんだけど、伊沢氏、なんか、あまり学問得意じゃない気がしてきた。第3章あたりで、9つ変数がある式を、9次方程式って言ってたし。(n次方程式は、変数の字数がnである方程式のことであり、例えば、変数がひとつでも、y=x^2は、二次方程式である。)
・戻る。
・言いたいのは、早押しクイズは「知ってる/知らない」の二分法では語れない、駆け引きや推測を生むゲームだということか。ここだね。んで、3章でこの駆け引きのとこを証明して、推測のところは第2章と第3章を合わせて滲み出していくのだろう。
・本がこの分厚さだから、伝えたい要点だけを抜き出したバージョンを導入しないと、ここらへん一般の読者には伝わらんかも。ここは、まだ読んでいない「はじめに」の辺りに書いていたらいいなぁと思う。でないと、十中八九、伝わらない。
・①のデクレッシェンドというクイズのお約束フレームを、早押しクイズの基本としたのね、なるほど。たしかにグラデーションのつきにくい単文型のクイズなら、早押し形式であそぶ意味合いが、ヨーイドン合戦以外に見出しづらいわな。そう考えてくと、このピラミッダルを早押しの基本形としたのは自然な感じだ。
・なんか基本形とか書くと、これが理想的、こうあるべきとか言う人がでてきそうだから、これから展開して複雑化していくうえでの一番の基盤となる型という意味では、基本形とは呼ばず、ベーシック(Basic)と呼んでみてもいいのかもと思った。
・あくまでも早押しクイズにおけるベースである。これが、早押しクイズの分析ではなく、クイズ問題文一般の構造分析ということであれば、本当にシンプルなOFPのみの単文を基礎単位としてもってくることが自然だろう。ベーシックとは、論の展開の仕方で異なってくるのだ。今回は、早押しクイズについて、である。
・脳内構文集ねぃ。そうねぇ、ひとまず一覧化。
・なんで早く押せるの?っていう、当初の問いのこたえね。構文を知っているから、それを当てはめ推測できる、と。
・そうね、クイズ問題構造論を研究して、クイズの可能性を追求、整理してくれればよいなと思う。この領域は進んでいくと、クイズ形式学とつながって、新しい遊び方を次々と生み出してくれるとこだからね。
・とはいえ、この構造を知って、それを使うと何がうれしいの?という動機づけの部分は、もう少しちょっと外側の大きいところから補強して説明してあげるとよいかもしれない。
・クイズを純粋に楽しめる人ならばこれで伝わるんだけど、そこまででもない、他の領域へクイズを通した経験が波及することを薄っすら期待している人々(多分、こちらが大半)に対しては、「クイズに早く答えられるよ!」のみでは、少しもったいない。(あと、フレームワーク思考は、クイズを純粋に楽しむ人にもうれしい考え方でもある。)
・ここは、フレームワークというものの、力強さについて、少しぐだめいておこう。
■フレームワークの力強さ
・なぜ、ゲームは楽しいのか?
・ひとつの立場として、ゲームとは、ミミクリィ、つまり、何かを模倣した遊びであると見ることができよう。
・そして、もっと踏み込むと、現実世界で持っているとうれしい能力・技能と、あそびを通して身に付けることが出来る能力・技能とが一致すると、「楽しい」という感情が自然発生する、っていう法則を仮設できる。ヒトは感情が先立ち、後から理屈で整合性をとるので、そうは思えないかもしれないんだけど、あそびの中の「楽しい」の感情は、その本能的な、生きるための「得」に由来するとする捉え方も、それなりに説得力はあるのではないか。
・例えば、世界的に大ヒットするソーシャルゲーム。ランキング上位になったり、多くのフォロワーに認知されたりすると、ドーパミンがドパドパ出る。これは、自然界では、影響力が高い方が生存に有利となる。そのため、快の感情、快感を得るようになっている(と考えることもできる。裏付けはない)。
・例えば、ドラゴンクエストなどのRPGで、敵を倒してゴールドやアイテムを貯めると、なんだか楽しい。これは、自然界では、多くの資源をもっていればもっているほど、生存に有利となる。そのため、リソースを貯めこんだり、より、省コストで資源を獲得できることに快感を見出す。
・このように、何かの”快感”は、生存に有利な事情を結びつけることができる。こじつけかもしれないが、こう捉えると、いろいろ便利なのだ。
・”楽しい”が、生存に有利となることへの走因子に由来するものならば、クイズの楽しさも、また、何らかの生存に有利な楽しさに結びついていると推測できる。
・では、クイズの楽しさは、何の生存有利に結びついているのだろうか?
・詳細は省くが、新たな知識を身につける「ストッカー的楽しさ」や、相手に勝利する「ストライカー的楽しさ」だったりする。
・んで、早押しの構造を覚えて適用するという視点だけだと、いずれ失われてしまう楽しさというのが出てくる。
・例えば、難問の問題集を読んで、今まで知らなかったものを知れた。というのは「新たな知識を身に付ける楽しさ」であるが、この楽しみは、消費の楽しみを含むものであり、長い時を重ねれば、領域を探索し尽くし、やがて飽き飽きした飽和状態へと至る。
・新たな出来事は無尽蔵にあり、いつまでも尽きない、消費しきれないかもしれないが、クイズ問題をある一領域に限ってゲームをする限りでは、これは時間の問題である。一例としては、クイズゲームに収録されたクイズ問題を覚えきってしまった状態なんかが、これであろう。
・この飽和状態を打ち破ることができるのが、「新たなものを創造的に発見する楽しさ」である。
・これは、「新たな知識を身に付ける楽しさ」とは、ちょっとニュアンスが異なる。
・「新たなものを創造的に発見する楽しさ」というのは、未知のものに対して、既存の要素を組み合わせ、問題の解を導き出す、その能力発揮を伴った楽しさなのだ。
・もう少し言い換えてみる。
・同じ「知っている法則をあてはめて使う」という行為でも、「新たな知識を身に付ける楽しさ」は、「パラグアイときたらウルグアイ」のような、周知の事実に対して法則をあてはめて導出するのみの、「この問題に対してはこの法則を使えばよい」という風に閉じた演繹で正しさを求めるものであるのに対し、「新たなものを創造的に発見する楽しさ」が主眼とするのは、お決まりの法則ではなく、様々な法則を当てはめて、あそび、正しさの枠を二の次にした、新しい知見の発見、法則の深い探索を伴った演繹の思考過程である、開かれた、アブダクティブなソウゾウなのだ。
・それは、パラグアイに対して、パラレルしかないと決めつけるのではなく、他のクイズで得られたフレーム、例えば、3連パラレルだとか、列挙だとかのフレームをとりあえず適用してみて、新たなクイズの可能性を探求する思考過程である。
・「3連パラレルなら、パラグアイ、ウルグアイ、あともう一つは何だ?」という疑問を出発点に、「グアイって”川”って意味なのかあ。」という気付きから、「南米の国でグアイが付く国なさそうだから、日本の都道府県で「川」が付くものを無理やり置き換えるかぁ。」という発想へ転換し、「一部グアラニー語クイズです。問題。日本の都道府県の県庁所在地で、石グアイは金沢市、香グアイは松山市ですが、神奈グアイは何市でしょう?」といった謎のクイズ問題を作ることだってできる。
・この例では、現実的な競技クイズの場では役立たなかったけど、例えば、「パラレルじゃなく、ディグっぽい問題ならどうなるか?」という疑問を出発点に、「南米の国で、パラグ/アイ、ウルグアイに共通する「グアイ」とは、グアラニー語で何という意味でしょう?」なんて競技クイズの場面で出されてもおかしくはない問題にたどり着くことだってできる。
・決められたフレームワークを適用するのではなく、他のフレームワークをとにかく適用しまくり可能性を追及しまくる。これによって、新たな意味を読み解く余地、あそびが生まれる。それは可能性の追求、クイズはソウゾウ力!実にワクワクする!それは、自由を求める人間の本能に根差したよろこびではなかろうか。
・フレームワークを使う効用はここにある。
◇ ◇ ◇
・フレームワークについて、ぐじゃらぁ~っと書いたけど、もうちょっと純粋にキレイに書いてみるか。
・フレームワークという言葉をご存知だろうか?
・たとえば、SWOT分析とか、PPM、アイゼンハワーマトリクス、PDCAサイクルなどなど、ビジネスフレームワークなんかは、書店のビジネス書コーナーをあされば幾らでも出てくる。
・ビジネスだけに限らない。たとえば、起承転結、序破急なんてのも、実はフレームワークだ。身近なところだと、英語で習ったであろう5W1Hなんかもフレームワークだし、もっと身近なものだと、あいうえお作文なんかもフレームワークだと言えてしまう。
・フレームワークとは、「あることを発見するのに役立つ、系統だった制約の束」である。
・いきなりですが、自由に作文してください。
・と投げやりに言われても困る。あなたはどうだろうか?
・だけど、これならどうだろう?
・あいうえお作文を作ってください。
・さっきより、少し作りやすいのではないか。それでも書きづらいなら、「いつ、どこで、だれと、だれが、なにをした。」という文章の型である「モモタロさんフレーム」も組み合わせたらどうか?(むかしむかし、あるところに、おじいさんと、おばあさんが、おったとさ。の順番。)
・「あるひ、いちばに、うそつきと、えらいひとが、おりました。」
・「あした、いつもの公園で、上野さんと、絵美ちゃんが、オクラホマミキサーを踊る。」
・何かしらは書けたろう、埋まったはずだ。中途半端だとしても、それをヒントに軌道修正して完成させればよい。奇妙な文だなぁ、と思ったら、「明日、いつもの公園で君を待っている。ブランコを漕ぎながら、オクラホマミキサーを踊ろう。」と直せばよい。
・それでも奇妙なら、昨今話題のAIのべりすとの力を借りるのもよい。
・反れた。軌道修正。
・このように、ある枠に何か入れると、残りの埋めるものがみえてくる。というのが、このフレームワークのうれしいところなのだ。とてもうれしい。
・フレームワークという構造、もっというと世界の約束を知ると、新しいことと出会えて超うれしい。
・実は早押しクイズも同じように、そういう風になっていて、クイズをする人も超うれしい。と続けば、「何か法則を知って当てはめるのって楽しいな」と思ってクイズを楽しんでみてもらえるのではないか?と思う。
・そして、こうやって抽象思考を鍛えたら、早押しクイズに限らない他のクイズ、世界のものごと、作問にこの考えがもっと広く使える、ということを知ってもらい、クイズを楽しむ仲間となってもらえるのではないか?
・フレーム適用の楽しさから、早押しクイズの魅力に入り、謎解きや推理小説を経て、クイズを通した世界全般とのあそび方へと至る道筋。今回、伊沢本で示されたクイズの推測する楽しさが、砂漠化したとしても、その先に、このように続いてクイズの楽しさへと戻ってくる道があるのだと思う。伊沢拓司が今後、どのような道をたどるのか、楽しみである。
続く
(読書感想文(伊沢拓司『クイズ思考の解体』:第二章 早押しの分類(P.309~P.126))其ノ③)