シドニーマラソン④ ゆっくりの大切さ
最終日はエドと会う約束になっている。が本当に会えるかは未定。
彼と会う場合は確実性を求めないことが大事だ。まぁ会えたら会えたでくらいの感覚でいるほうがいい。
最新のメッセージには「昼ぐらいにSoul athletic clubで練習やるから」
曖昧な時間と聞いたこともない場所が書かれている。
まあ今の時代、場所に関しては携帯のマップ機能を使えば簡単に特定できる。
問題は昼ぐらいの認識が自分とエドでどのくらい違うかだ。
こ前中はフラーがサポートしてもらっているジムのオーナー兼トレーナーでもあるダンに会うセットアップをひとみさんがしてくれた。
こちらのジムでは体操の動きをベースとした関節のMobility機能(各関節の可動域を広げる、動く範囲を自身でコントロールして動かせる能力)向上や逆立ちのクラスを行っている。
話を聞いていると実践のスタイルは異なるが自分が行うコンディショニングと基本的はコンセプトは同じようだ。
まずは関節の可動域の確保。次に他動的に動かしてもらえる範囲(Passive range)と自分の力で動かせる範囲(Active Range)のギャップを少なくする。例えば仰向けに寝て、足を上げるようなストレッチを行う。人から動かしてもらえば地面と垂直の位置まで脚が上がるが自分の力で上げようとするとその手前で止まる。
この差が大きいほど関節の機能が脆くなる。単純に柔軟性を求めるだけでは怪我の予防にならないのもそのためだ。可動域の確保とその範囲をコントロールして動かす能力はセットで行う必要がある。
この時間はクラスはやっていない。ジョナスというトレーナーの一人が自身のトレーニングを行うためにジムにきていた。
シンプルな動きだが関節を最大限まで動かそうとゆっくり丁寧に動作をやっている。
「ゆっくり丁寧に」改めて自分のトレーニング、また指導の面でも考え直す必要のあるところだと気付かされた。
特に今回のマラソンへの準備はゆっくりのジョギングやバランスのチェックがおろそかになっていたと思う。
自分の取り組みを考え直すいいきっかけになったと思う。
ジムを後にするとエドと会う予定の場所までひとみさんが送ってくれる。
3階建ての1階にSoul athletic clubはあり、会員制のトレーニングジムになっていた。
中に入ると若い女性のスタッフがいて、
「Ed Goddardは知ってる?彼とここで会う約束してて」
「もちろん。彼が来るのはいつも火曜と土曜だけど。でも約束してるならここで待ってていいよ」
受付にあるソファーへと案内してくれた。
少し怪しい感じになってきた。というのも今日は木曜日だ。もしかしたらエドは曜日は勘違いしているのでは。
一度疑いを持つとそこから派生する妄想は歯止めがきかない。人間の想像力の良くも悪くもすごいところだ。
しばらくするとエドから連絡が。
「今から向かっている。着いたら教えて」
「もう待ってる」と。
「すぐ着くから」
彼の家とここはモスマンという同じ地区にあるのでもう出発したならそれほど時間もかからないだろう。
気晴らしに外に出て待っていると車のクラクションが。エドが現れた。もうすぐ着くから30分後に。自分が到着してから70分後に。
どうやらエドはこのジムからサポートをしてもらっていてで無料で使えるとのこと。今日の練習はトレッドミルで10分×3本。
アシックスの契約選手でもある彼はこの練習で1本ごとにプロトタイプのシューズを履きかえ、フィードバックをアシックスへ送るという。
「試しに履く?」と言って渡されたシューズはものすごく軽い。
足を入れてみるとトランポリンの上を歩いているようでいいのか悪いのか分からない。プレート入りの厚底シューズで走ったことがないので自分が慣れていないだけかもしれないが、これで走るのかというのが正直なところ。
ジムのスタッフとのおしゃべりタイムが始まり、エドの練習はスムーズではない。一つ一つのステップに移るのにやたらと時間がかかる。
これもゆっくり丁寧に入るのだろうか。
額に何かを巻き始めるエド。「これはTasukiだっけ」
「それはハチマキだな」
「そうそうHatchimaki」
実際に何を巻いたのかは分からないが、そのまま走り始めた。
まだ時間がかかりそうなので最後までいるか考えているところ、エドがここのサウナルームを使って待っていればいいという。受付の目の前にあるルームにはプライベートのサウナルームがあり、3℃の冷水とサウナを交互に行うことができる。
スタッフの人も今は予約が入っていないから使っていいとのこと。
サウナは3人くらい入れるくらいのスペース。プライベート用なので一人しか入ることはないのだから十分なスペースと言ってもいい。
扉を閉めるとそこの張り紙には8-10分のサウナ、1-3分のアイスバスを3回繰り返すことがおすすめとされている。
サウナに長く耐えれるタイプではないので、おすすめ通りの短いほう8分で外に出る。
温泉などにある冷風呂で10℃以下の温度はほとんどないと思う。15℃くらいでもかなり冷たく感じるくらいだ。
しかしここの水は3℃。指が冷えすぎないように指用のソックスが用意されていた。
冷たすぎて身体全部を入れるのは躊躇して足だけに。それでも感覚が違うのがわかる。30秒くらいすると足全体がジンジンしてくる。
1分経つとすぐに出てまたサウナへ。上半身と下半身に大きな体温の差ができたような感じになる。暑いが足は冷えている状態だ。
2回ほど繰り返すともう十分かなと思い、3回目はやめて出ることに。
着替えを済ませサウナを出た時にはエドもちょうど練習を終えていた。
「どうだった?」
「いい感じだよ」
「次のレースの予定はあるの?」
「Setagaya」
「えっ?」
まさかとは思ったが世田谷246ハーフマラソンにエントリーしているらしい。なんで世田谷246ハーフの存在を知っているのかもびっくりだが、どうやらアシックスの人が勧めてくれてエントリーまでしてくれたようだ。
11月に日本に来て世田谷246ハーフと上尾ハーフを予定している。2週間半くらい日本に滞在する予定とのこと。
「ダウン行くけどどうする?その後にカフェとか言ってもいいし」
もう14時を回っていた頃で、時間がないことはないが18時には空港に到着しておきたい。数時間じゃ済まなそうなので、エドとの予定は急がないでいい状況を作っておかないとイライラしそうだから、それに日本にも来るようなので今日はここで別れることに。
エドと会うと自分の心の余裕度が試される気がする。
15時過ぎにはクーパー家に戻る。身支度をしてからフラーを練習に送るついでに最寄りの駅で降ろしてもらう。
10月にはフラーとひとみさんが日本に来るらしいのでまたその時にと、お別れをして空港に。
もう少し残りたいようで、今回の気づきを日本に帰って仕事でも生活でも試してみたい気持ちの半々だ。まだ居たいと早く帰りたいが入り混じったのようななんとも言えない気分。
今回の旅とマラソンを含めた気づきは「ゆっくり丁寧な準備の大切さ」ということだろうか。