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『センスメイキング』クリスチャン・マスビアウ著 書評

<概要>
ビジネスにおいては、定量情報(STEM=科学・技術・工学・数学)だけでなく定性情報(=人文系学問)も必要、いやむしろ定性情報の方が大事だと言うことを主張した著作。

<コメント>
ユバル・ノア・ハラリの「ホモ・デウス」で提言されている仮説

「人間は全てビッグデータの蓄積によって人間個々のアルゴリズムが解明され、そしてホモ・デウスになる」

という説と正反対の内容。人間のあらゆる行動や思考は、先の読めない変化ががつきもの。したがって数値化できないことの方が、ビジネスに限らず人間には重要だという説。

私は、傾向値レベルではSTEMはいい線まで行くとは思うものの、最終的にはセンスメイキング仮説の方が、説得力があると思っています。

センスメイキングの5原則
(1)「個人」ではなく「文化」を
(2)単なる「薄いデータ=定量情報」ではなく「厚いデータ=定性情報」を
(3)「動物園」ではなく「サバンナ(=野生)」を
(4)「生産」ではなく「創造性」を
(5)「GPS」ではなく「北極星」を

ビジネス含め、我々は「社会の虚構」に住まいを構えている。科学的思考=STEMは極めて重要なツールではあるものの、単なる事実であって目的(=価値判断)にはならない。全ての人間の意志決定=目的は、全て「価値観」という定性情報の範疇で為されれるものだからです。

ここ最近のSTEM系学問は、特に進化論や遺伝・脳科学・人工知能・ロボティクスの分野において、人間の行動や価値観形成に関しての研究が急激に進んでおり、人間本来が持つ価値判断の法則みたいなものまで踏み込んでおり、一見してSTEMだけで人間の価値観を解明できるようにみえる。

この考え方に基づいて近未来を想定したのが「ホモ・デウス」という著書。または汎用人工知能の考え方。

一方で人間の行動・価値観は、どこまでいっても数値化できない不確定要素が多く複雑に絡み合うので、いくら自然科学が進んでも、これらを解明することは自然科学では不可能というのが「センスメイキング=著者」の考え方。

*ビッグデータでは関係(類似パターン)を見出すことはできるが、その関係がなぜそうなるか?という「理由」や「意味」は説明できない。

本書ではハイデガーの「存在」に関するコメントが多々出てくるが、私が勉強している概念とはちょっと違った使い方をしていてわかりにくい。

しかしながら、数値化されたデータだけにこだわることなく、定性的な情報も知識や考え方のベースに持つことの方がマーケティングや経営などビジネスの世界においては重要だというのは理解できる。

これらはビジネスの問題だけでなく、社会問題や価値の問題についても同じことは言えると思う。

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