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Think Smart ロルフ・ドベリ著 書評
因果律から逃れられない人間の宿命は、本書でもその本領を大いに発揮しています。
この宿命は人間の人間たる繁栄を生み出した源で人間にとって最も重要な能力だと思いますが一方でデメリットも多くあり、それが哲学や行動経済学・心理学、脳科学によって解明されつつあります。特に以下は行動経済学の成果です。
◼️カチッサー効果
行動に意味を添えるだけで、その行動は周りからの理解と譲歩を得やすくなる。驚くべきことに、その理由が意味をなしているかは重要ではない。「**なので」というだけでその行動が正当化される。
例え根拠のない理由であっても私たちには「理由」が必要なのです。
◼️NIH症候群
自分が思いついたアイデアは、他の人が思いついたアイデアよりもうまくいくように感じてしまう。自分が捻り出した因果律こそ、最も重要な因果律ということです。
◼️お金で解決しようとすると逆効果になる
ボーナスを渡すことによって逆に人間はモチベーションが低下してしまうそうです。モチベーションのクラウディングアウトと呼ばれ、本来自分の信念に基づいて行っている行動に金銭を介在させてしまうと、進んで物事を行おうとする意欲を減退させてしまうらしい。
何事も、その人の信念に訴えかける解決法の方が効果あるというわけです。「お金よりも個人の虚構」です。
◼️誰にも想像できないことが起こるのが人生
この世は偶然に満ちているにもかかわらず、なんでも因果律に基づいて世界が回っていると誤解している我々は、ブラックスワン(ありそうもないことの喩え)が飛んでくるとびっくりして何もできなくなってしまいます。
「いつも想像できないようなことが世の中には起こりうる」と意識・想像することで、ブラックスワンに備えましょう。
◼️偽の合意効果
人間は「自分の価値観や因果律が一番正しい」と思っているから、生きていける。というより「自分が正しいと思っている因果律が信念になっている」と言った方がいいかもしれない。
したがって「自分の意見が多数派」だと勘違いしています。他の人たちも自分と同じように考え、同じように考えているだろう、とついそう思い込んでしまうのです(=偽の合意効果)。
だから例え自分と違った意見の人に出会ったとしても簡単に「変わり者」だと決めつけず、エンパシーの力で相手がなぜそう思っているのか考えてみましょう。
◼️内感の錯覚
これも偽の合意効果に近い。自分の信念が正しいと確信しているから、自分の考えを前提に何ごとも判断してしまう。常に自分の考えには批判的になって、検証しつつ他者の意見を聞く態度が重要。
テトリック「超予測力」がいうように「自らの意見とは死守すべき宝ではなく、検証すべき仮説に過ぎない」のです。
◼️クラスター錯覚 偶然のことであっても、脳は「パターンや法則」を無意識に探し出します。ランダムに起きる現象を脳が認めたがらず、何らかのパターンや法則を見出そうとするこうした現象をクラスター錯覚と言います。
私たちはすぐに「パターン」を見つけ出そうとします。なので「これは単なる偶然なのか」と、常に問いかけてきることが大切です。
そうすると、実際には「偶然の場合が殆ど」ではないかと思います。
◼️伝播バイアス
*誰もヒトラーの着たセーターを着たくない。
*聖遺物の前で儀式を行うと皆その気になってしまう。
でもセーターも、聖遺物も単なる「モノ」であってそれ以上ではありません。「人とモノのつながり」は目に見えなくても消えず、「モノ」とセットで発動する情動とは、切っても切り離すことができないのが人間。
常に人は因果律で物事を思考する宿命があり、「モノ」が単なる「モノ」であっても、その個人にとって思い入れのある「モノ」は「モノ」ではなくなるのです。
◼️スキルの錯覚
次々と会社を成功させる人がいないのは、運、つまり偶然の要素が大きいからです。
ウオーレン・バフェットの場合は「経営者としてのあなたの業績は、あなたの漕ぎ方が効率的かどうかより、あなたが乗っているボートの性能によって決まるところが多い」として、偶然というよりも企業の持つ組織力や外的環境による要素の方がその企業の価値にとって重要だと言うことを示唆しています。ここでも経営者個人ではありません。
◼️曖昧さの回避
「曖昧さ」は最も人間が忌避するところであり、人間は「曖昧さ」をリスク=確率と言う因果律によって変換し、物事を判断しようとする傾向があります。
「不確かな領域」は偶然以外の何者でもなく、我々は「曖昧さ」に耐える習慣をつけるしかない。
以上、因果律の宿命に関する箇所を拾ってみました。改めてその多さにびっくりです。この世は「偶然」に満ちており、不確実性がこの世を支配しているといっても良い。人間は「無知の知」をもっと自覚すべきなのかもしれません。