見出し画像

地理はこうやって役に立てよう『現代世界は地理から学べ』読了

<概要>

地理とは「歴史の最新のページ」と定義した上で、地理学的な視点で、国際情勢や災害問題、経済問題などを紹介した、代々木ゼミナール地理講師の著作。

<コメント>

地理好きの私としては「地理なんか勉強したってなんの役にも立たない」なんて言われてしまうと、非常に悲しくなります。

私自身は地理を勉強すると、自分の世界が広がる感じがして心地よいし、聖地巡礼みたいに地理で勉強したその地域を旅行して実体験すると、とても感動して楽しくなるので、国内外問わず頻繁に出かけてます(以下はその一例)。

さて本書の趣旨は、私の趣旨とは異なり、地理を勉強することそのものの楽しみというよりも、その先にあるもの、つまり「金儲け」だとか「生活のしやすさ」「安心・安全」など、「役に立つ」視点での地理の活用方法について、教えてくれる著作。

それでは自然地理と人文地理に分けて、興味深い内容を以下展開します。

⒈自然とは、異常こそが正常

台風や暖冬、冷夏などの異常気象は、人間から見ると異常だと思うから「異常気象」と呼ぶのでしょうが、実は自然環境とは、同じことが続くことこそ「異常」なことなのです。

なので、経済的には「ブラックスワン(※)」が頻繁に飛んでくるのが自然環境の世界と捉えればよい。

※ブラックスワンとは
従来全ての白鳥が白色と信じられていたが、オーストラリアで黒い白鳥が発見されたことで、鳥類学者の常識が大きく崩れることになった。この出来事から、元ヘッジファンドの達人として知られる認識論学者のナシーム・ニコラス・タレブ氏が著書『ブラックスワン』の中で、確率論や従来からの知識や経験からは予測できない極端な現象(事象)が発生し、その事象が人々に多大な影響を与えることを総称して名付けたもの。
                         

  野村證券HPより

これは気候学を勉強すると実感するのですが、地球規模から見ると、自然は常に異常なのです。

同じ季節は同じようにやってこないし、超複雑系な気候は、再現可能性が非常に低い現象。台風もこの10年多いからと言って、本当に多いのかどうか、なんて科学的には到底証明できない。

日本列島に上陸する台風が毎年10個、それが10年も続いたら、そちらの方が異常であると考えるのが正常です。

本書50頁

つまり同じことが続くことこそ異常な気象。

そして地球科学的にも、火山の噴火だとか、プレートの移動によって起きる地震だとかも、これまた全く予測不可能なのです。具体的に日本は南海トラフ地震など、ハザードマップによって地域ごとの危険度がビジュアル化されています。

ところが、上図を見ても分かるとおり、お正月に被災した能登半島も8年前に大地震を経験した熊本も、危険度が低いことになっちゃってます。

つまり日本列島ではいつどこで大地震が起きるのか、はまったくわからないということ。

日本列島には安全な土地など存在しないと理解しておくべきです。・・・観測史上、日本列島で震度7を記録した地震は全部で6回ありますが、列記したものを振り返ってみると、6回中5回が2000年以降に発生(2024年の能登半島地震入れれば7回中6回)。

本書209−210頁

実際に日本の活断層の数は2000以上あって、仮にすべての断層が1000年に一度の確率で大地震が起きたとしたら、半年ごとに日本列島内で大地震が起きる、ということになってしまう(猪瀬直樹の以下内容も参照)。

これだけ科学が発展しても、ありとあらゆる要素が複雑に絡み合って、今の天気や昨日の地震が発生しるのが自然現象。

したがって私たちは、自然環境的には「常に未来はわからない。だから何が起きてもいいようにしておく」という姿勢で生活することが、世の中的には役に立つ情報、ということになります。

⒉なぜオーストラリアは、インドネシアを「盾」にするのか

日本にとってオーストラリアとインドネシアは、資源的にも物流的にも重要な国にも関わらず、両国の因縁関係なんて、ニュースでもほとんど報じられないわけですが、地理学を勉強すれば、両者の歴史的因縁関係が明瞭になります。

地図を北から見ると、実はインドネシアは、オーストラリアに覆い被さるような位置にあります。

つまり西側陣営の一角であるオーストラリアにとって、仮想敵国は中国やロシアなどの権威主義国家ですが、地理的には南半球に位置するため、大きな脅威とはなっていません。

しかし、中国が南シナ海まで進出してくるとなると、途端にその状況は一変します。仮に南シナ海で紛争が勃発した場合、オーストラリアにとってインドネシアは、極めて重要な「盾」になるのです。

したがって現在オーストラリアは、インドネシアと良好な関係を維持すべく2006年「ロンボク条約」を締結。この条約で互いの主権国家としての立場を尊重するという合意がなされました。

「なぜわざわざそんな合意が必要だったのか」といえば、オーストラリアがインドネシアに対して、過去ずっとちょっかいを出していたから。

戦後インドネシアは、独立時に同じオランダ領だった西パプア(ニューギニア島の西半分の地域)も含めて独立しましたが、西パプアは別途の独立国家を目指して独立戦争をインドネシアに仕掛けます。

そしてアメリカの介入で独立の是非の住民投票が実施されたものの、西パプア独立反対に賛成する少数の住民のみの投票という出来レースとなってしまいます。オーストラリアは表立って独立支援しているわけではありませんが、民主主義国家を標榜するオーストラリアが独立を支援するのではないか、とインドネシアから勘ぐられていたのです。

なぜなら、オーストラリアはインドネシア領だった東ティモール独立を支援し、実際に東ティモールは、2002年位独立したから。1999年にも独立しようとした東ティモールは、インドネシア軍の軍事侵攻によって一時阻まれますが、オーストラリア軍中心とした多国籍軍が介入。

こんな過去があるために、インドネシアとオーストラリアによる「ロンボク条約」は両国にとって重要な条約だったのです。

⒊総括

このように、本書では他にもさまざまな地理的に興味深いエピソードに溢れていますが、それら含め、地理学は、災害への予備知識や世界情勢の把握など、あらゆる世の中の事情を明確にしてくれます。

そもそもどこにどの国があって、どんな関係になっているのか、なぜ新潟県の冬は雪が多くて東京の雪が少ないのか?など理解できない限り、国際情勢や国内事情を把握しようがありません。

地理的な視点でさまざまな事象を認識していくことは、歴史的な視点も含めて、その地域ごとの特殊性や関係性、そして地球全体(あるいは日本全体)の普遍性を把握することになるわけで、私たちの「生活」に密接に関わってくるということがよくわかると思います。

【番外編】地方大都市への移住を真剣に考えてみる

ちなみに私の場合「地震はいつどこで起こるかわからない」のであれば地震が起きた時に一番安全・安心に暮らせる地域がないか、調査しています。

たとえば今の私が住む東京首都圏(人口3,800万人)では到底安全とはいえません。

住んでいる住居が耐震住宅だったとしても巨大な大都市圏でライフラインや物流がいつ復旧するか、は到底想定できないから。なぜならあまりにも生活圏が巨大すぎて、他地域からの支援体制がままならないのでは、と思うから。

かといって今の大都市ならではの利便性を放棄するのも耐え難い。

したがって「福岡市圏(同350万人)」や「札幌市圏(同240万人)」などの首都圏・近畿圏から独立した地方大都市への移住が災害対策に一番なのでは、と思い始めています。

地方大都市は生活の利便性は東京圏には劣るものの、それほど不便というわけでもありません。しかも大地震に遭ったとしも、東京圏・近畿圏をはじめとする他の地域からの支援が受けられます。つまりライフラインや物流が一時滞っても復旧もはやいだろうと想定できるからです。

若干外れますが、仮に大都市圏で大震災が起きたら株価はどうなるか、も真剣に考えてます。つまり日本含め世界中で何が起きてもいいようにポートフォリオは組んでおくべきです。これも地理学的視点からの教訓です。

以上、自分の人生にも大きく関わる「住まいの場所」の検討含め、いかに地理を勉強することが大切か、理解いただけたと思います。

*写真:松戸市:江戸川河川敷(2024年撮影)

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集