『小山田圭吾 炎上の「嘘」 東京五輪の知られざる真相』 読了
<概要>
東京五輪での小山田圭吾の炎上事件について、その事実の究明と、なぜこのような騒動が起きてしまったのか、多面的に取材した「炎上」解説本。
<コメント>
小山田圭吾の東京五輪における炎上問題が結局のところ、一体何だったのか、知りたくて本書の電子書籍を即時ダウンロードして一気に読ませていただきました。
本書の存在を知ったのは以下、文藝春秋の動画。
このような案件はどうしても「誰が悪いのか」という犯人探しをしてしまいたくなりますし、私自身も誰が悪いのか、とついつい追求してしまいたくなる気持ちがあります。
しかし著者の中原一歩は、ノンフィクション作家らしく「誰かを糾弾する」のではなく、関わりのあるあらゆる対象者を取材し「わかったこと、わからなかったこと」を明確にしたうえで、この現象をできるだけ客観的に、分析的に紹介しているところが素晴らしい。
⒈炎上の概要
*1994年1月号に掲載されたロッキンオンジャパンに掲載された小山田圭吾単独インタビュー記事「血と汗と涙のコーネリアス!誰も見たことのなかった小山田圭吾を一挙公開」にて以下内容。
*2021年7月14日:上の記事に関しての匿名コメントGがXに投稿。半日で1万人以上のユーザーがリポスト。
→炎上のきっかけとなったこの匿名コメントのアカウントは今はない。
*2021年7月15日:毎日新聞デジタルで、上の炎上を記事掲載。翌日朝刊でも掲載
→裏取りをせずに記事にしてしまった毎日新聞。信用があるとされる全国紙の毎日新聞が取り上げたことが、炎上を加速させたとも言える。天下の毎日新聞が「嘘」を朝刊に載せるとは誰も思わないですから。。。
*2021年7月16日:小山田圭吾謝罪文、自身のHPで掲載
*2021年?:モーリー・ロバートソンが自身のXに雑誌のインタビュー記事を要約した内容を英文でポスト。小山田の記事が海外にも広まるきっかけに。
→はてさてモーリー・ロバートソンさんは、ことの重大性を理解していたのでしょうか?一言でもいいからXで謝罪しても良さそうです。
*2024年7月19日:小山田圭吾、五輪音楽辞任
それにしても、炎上は恐ろしい。SNSでは「その内容が事実がどうか」よりも「その内容のバズり感度」が価値の源泉になります。
この場合は、コロナ真っ只中の問題山積み東京五輪を中止させるトリガーの一つとしてバズったわけで、小山田自身、たった5分20秒の映像に音楽をつける案件でしかなく、さらに五輪に興味があって受けたのではなく、世話になった仕事仲間からのたっての緊急の依頼で請け負った案件でしかなかった仕事。
でもその仕事が、彼の運命を大転換させるほどのインパクトを彼に与えることにになってしまったのです。
しかも実は「名前は出さない」という約束だったにも関わらず、音楽担当の一員として名前も出されてしまう。
⒉事件の真相
小山田圭吾自身は「事実は以下の通り」と著者がインタビューから聞き出し、概ねこの当時同じ現場にいた他のメンバーも同じ内容を証言。
「全裸にしてぐるぐるに紐巻いてオナニーしてさ。ウンコ食わしたりさ。うんこ食わしたうえにバックドロップ」というのは、中学の同級生が同じ同級生の健常者にしたことで小山田本人はその場に居合わせただけ。
ただし「ウンコ」の部分は、この時起きたのではなく、小学生のころになんでも食べてしまう同級生が犬のうんこを食べて吐き出した話が混ざっている、とのこと
一方で、障がい者に
他の健常者に
というのは事実。
⒊「爆笑問題」太田光の慧眼
2024年7月20日、TBSラジオにて爆笑問題の太田光曰く
「炎上」の恐ろしさを、実感させてくれる太田光のコメント。SNSは「先に流したもの勝ち」みたいなところがあるんでしょうね。事実は二の次なのです。某大国のトップでさえ、事実よりもセンセーショナリズムの方が大事だと思ってるんですから。。。。
⒋炎上その後
幸いにも今現在、小山田圭吾は2022年に活動を再開して、その1発目のフジロックのコンサートでも、誹謗中傷されることはなく、大歓迎のオーディエンスだったそう。
まるであの事件が跡形もなくなったかのごとく、SNS上でも収束。
そして記事を掲載したロッキング・オン・ジャパン。創業オーナーの渋谷陽一は、わたしがオンタイムで聴いていたロックの批評に関して「ちょっと怪しいヤツだな」と思っていたのですが、「やっぱり」という印象。
このインタビュー記事を実際に書いた山崎洋一郎が1番の責任を負うべきでは、とも思うののの、著者の取材に対しては「私たちも迷惑してる」的回答。
自分が捏造と言っても良い記事を書いたことの自責の念はあるのだろうか?(ただし山崎自身は小山田くんが語ったことをそのまま掲載したと主張)。
なんか、同じロックを愛する仲間として、複雑な心境になってしまった問題作でした。