尊敬語の使い方でわかる日本の社会制度
尊敬語は敬意を表するだけでなく「よそよそしさの表現」として使われるとの理由から、社会制度によって尊敬語の使用方法が違うという仮説です。つまり尊敬語は「ウチ」と「ソト」を区別するための言語ツールなので、その使用方法をみれば社会制度がわかるというのです。
今回は、大人(20歳未満の子供ではない)が自分の父親に対して、尊敬語を使うかどうかで判別。日本全国地図でプロットすると主に父親に尊敬語を使うのは西日本。使わないのが東日本に多い。西日本の社会制度は「年齢階梯性社会」だから父親に敬語を使うらしい。
①父親に尊敬語を話す
②お父さんは大人になると「よそよそしい関係」になる社会
③お父さんがよそよそしい関係になりやすい社会制度はお父さんとの関係が少なくなる社会
④お父さんとの関係が少なくなる社会は日本では「年齢階梯性社会」
⑤年齢階梯性社会とは、一定の年齢に達すると親と所属集団が異なる社会(若者組、隠居屋など)。世代ごとに所属する集団が異なり、家族も少人数家族が多い。
日本社会は、民俗学や文化人類学の知見によると、大きく「年齢階梯性社会」と「同族集団性社会」の二つに分かれるそうです。
■「年齢階梯性社会」:西日本に多く小家族
■「同族集団性社会」:東日本に多く大家族
ただし、なぜ二つに分かれているかは不明。
東日本では、同族集団性社会なので(会津等の例外もある)、子供が大人になってもそのまま親と暮らす事例が多く、父親は「ウチ」の関係のままなので父親に尊敬語を使うことはありません。
国勢調査の結果をみても、伝統的に大家族は東日本に多く、小家族は西日本に多い。
以下地図は中国・九州地方に限った事例ですが、特に鹿児島などは典型的で、小家族が多いので年齢階梯性社会。父親に対しても敬語を使っています。
(「ことばの地理学」大西拓一郎著105頁より)
このように、尊敬語はウチとソトを区別する言語的ツールとして発達し、単に「相手を敬う」だけの機能ではないことが、方言を調査することによって判明。社会制度も敬語の使用方法で判別できるというわけです。
*写真 2014年 冬の桜島