「ことばの地理学」大西拓一郎著 書評
<概要>
方言で使われる言葉を日本地図にプロットしたら、どんな傾向が方言にはあるのか?あるとしたら、その要因は何か?を探った方言学に関する書籍
<コメント>
既に甲府の方言や
方言にまつわる社会制度の関して
紹介しましたが、改めてここで書評。全般的に了解したのは、日本地図への方言のプロットは進んでいるものの、その法則性と要因に関する体系的な仮説は未だ生まれていないということ。
上記で紹介した内容含め、
■静岡県で使用される「ズラ」は、この地方に伝わる古い東国の方言が変形したもの
■北前船が盛んだった日本海から瀬戸内海、大坂での方言の共通性は無し。なぜなら甲府の塩のように生活必需品でない物品の流通だったから
■五箇山(富山県)や秋山郷(長野県)には自然に人格を持たせる方言がみられる
などの仮説の紹介は大変面白く、読み物として飽きさせませんが、それでは
「方言は一体どのような過程を経て今に至っているのか?」
「日本語における歴史的な拡散経緯やその特徴はあるのか?」
など、俯瞰的視点での方言学としての仮説はなし。
方言学の世界では、柳田国男の「方言周圏論」が有名で、方言というのは文化の中心から同心円的に広がっていくという説。カタツムリの方言を事例に柳田国男が説を展開しているらしい。
ところが、これは実際に著者たちが方言地図を作成すると同心円的な広がりにはなっていない。つまり柳田説は今の方言学の世界では否定されています。
新しくできる分布は、適宜、共同体の中に広がっていくが、共同体には、さまざまな種類と構成があり、どの共同体の範囲に広がるかは、現時点では予測不可能である。しかも、その変化の内容や時期は個々バラバラである(183頁)。
著者もあとがきで認めている通り、現時点では、方言はランダムに不確実性をもって広がるもので「規則性は未だ見出せず」ということです。
だからこそ、方言学は発展途上の学問として面白いかもしれません。
*2020年 富山県 五箇山