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『健康になる技術 大全』より「運動編」
引き続き林英恵著『健康になる技術 大全』より運動編。
以前、古人類学者のダニエル・E・リーバーマンの運動に関する著作『運動の神話』や、
ジェレミー・デ・シルバの同『直列二足歩行の人類史』を複数回にわたって紹介しましたが、
おおよそ内容的には同じような説が紹介されており、より信頼性の高いエビデンスであるとの検証にもなりました。
さて日本人の場合、運動習慣のある人(=週2回30分以上の運動を1年以上続けている人)は、20歳以上の男性で平均33.4%、女性で25.1%だそうです。身体活動の不足は日本人の死亡要因の第4位ですから運動不足がもたらす影響は大きいということでしょう。
それでは、いつものように以下興味深いポイントを整理。
⒈「運動」というより「体を動かすこと」が大事
これは、上のリーバーマンの主張する原始狩猟社会の人たちからの知見とまったく同じ。
休んでいる時、つまり座っているときは、背もたれ椅子はないので地べたに座り、会話をしつつ、足を入れ替えたり、ちょっとものをとったり、と長時間じっと座っていることはありません。ちなみにタンザニアのハッザ族の例では、調査した結果、通常15分間同じ姿勢を続けることはない、
本書においては「体を動かすこと」が重要で、「運動」に加えて、生活や家事などの日常生活における労働・通勤・通学なども入る、ということ。
なのでジムでの筋肉トレーニングとか、わざわざスポーツウエアに着替えてジョギングすることに加え、休まずに家事をひたすらコツコツとやっている人も相当に健康に近いらしい。
厚生労働省的には65歳以上は1日40分以上、元気に体を動かすこと。18歳ー64歳の人は1日60分以上、元気に体を動かすことを推奨。
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⒉座ることは不健康
これも見事に古人類学者たちの知見と同じ。
「家のソファに座ってじっとテレビをみている」だとか「デスクチェアに座ってデスクワークする」みたいにまったく体を動かさない状態が健康に悪い。
最近の研究(2018年、2020年)でも、座っている時間が長いと、様々な病気のリスクや死亡の危険性を増やすことがわかっているらしい。一番良いのは体をよく動かしていて座る時間も短い人。
一方で運動する時間が長くても、それ以上に座っている時間が長い(1日8時間以上)場合は、死亡リスクが10%増えるというエビデンスあり。
さらに一番活動的な人(週6日1時間のジョギング相当)に比べて、1日8時間以上座っている人の死亡リスクは約60%上昇するという、いかに長時間座ると不健康になるのか、というエビデンスも紹介しています。
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⒊運動しないと人間が「死ぬ」原因になる
上で紹介した古人類学者のリーバーマンやデ・シルバによれば、人間(ホモ・サピエンス=現生人類)は「歩くことがデフォルト」であり、人間の身体の構造は、直立2足歩行に一番マッチするよう設計されている、とのこと。
本書では歩行に限らず、体を動かすことは、死亡率全体や循環器系の疾患の死亡率の低下と関連しているといいます。そして運動または体を動かすことは、心臓病や大腸がんや乳がん、糖尿病、高血圧、骨粗しょう症や肥満、腰痛や店頭による骨折などのリスクの予防にもなる。
さらにメンタル的には、うつの予防になるのに加えて、認知症の発症リスクを抑えたり、ストレスや不安を解消したりするなどの効果もあるという。
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⒋運動には4つの種類がある
運動といっても様々な運動がありますが、ここでは以下4つのタイプ「有酸素運動」「筋力トレーニング」「ストレッチ」「バランス」を組み合わせるとより理想的だそう。
⑴有酸素運動
酸素を体に取り込んで、筋肉を動かすためのエネルギーとなる脂肪を燃焼させる運動。具体的にはランニング、サイクリング、水泳など。
⑵筋力トレーニング
年齢とともに失われる筋肉量や筋力を増強する運動。具体的にはウエイトリフティング、スクワット、ピラティスなど。
⑶ストレッチ
年齢とともに失われる筋肉や腱の柔軟性を保ちます。具体的にはストレッチ、ヨガなど。
⑷バランス
止まったり動いたりしているときに、自分の姿勢を維持できる能力を鍛える運動。具体的には太極拳、ヨガ、ピラティス、バランスボールを使った運動など。
⒌運動をどうやって習慣づけするか
それでは、運動や体を動かすことがいいのは理解したのですが、具体的にどうやって日常生活の中に取り入れるか、様々な事例が紹介されています。
⑴体を動かすことで気分が良くなる経験をする
1度でもいいので、体を動かすことで「楽しい」「嬉しい」「面白い」という気分を経験することがまずは大事。
何か達成したら自分にご褒美!というインセンティブ方式も一部エビデンスがあるのですが、それほど強力なエビデンスではなく専門家の間でも議論が分かれているそう。
むしろ「体験そのもののポジティブな経験こそが継続性に大きな影響がある」という強いエビデンス(=認知バイアス)があるので、いろいろ試してみて「自分が楽しい」と思う運動を見つければいいのでは、と思います。
⑵変化を実感する
特に女性の場合は、運動の結果、体重が減ったりスタイルが良くなったり、などの自分が望んでいる結果を出ると、大きなモチベーションになり、運動を継続する動機づけになるとのこと。
⑶競争する
ゲーム感覚で仲間やグループ間で万歩計などの歩数や距離などの記録で競争しあうと、より継続するモチベーションになります。ランニングでもサイクリングでも「距離を競う」「時間を競う」などのアプリを活用することも有効だとか。
⑷目標をもって記録する
専門的には「セルフモニタリング」というそうですが、スマホでも紙のノートでも目標とともに記録を続け、目標を達成すれば達成感を味わえます。この経験が大きなモチベーションになるといいます。
⑸コミュニティに参加する
誰かと一緒に、たとえばチームでスポーツする、と一人でスポーツするよりも健康に良いというけけて結果があります。高齢者の場合は誰かと一緒に運動することで自分が健康だと感じる度合いが高くなったり、鬱のリスクが軽減されたりするらしい。
⑹どんなに忙しくてもルーティンはやめない
これはなんとなくわかる気がします。私の場合、毎日の中にルーティンを作って、時にやめてしまうとなんとなく心がしっくりこない時があります。たとえば仕事の帰りに勤務先から30分かかる駅にわざわざ徒歩で帰っていたのですが、たまに勤務場所近隣で飲みに行った場合、やはり同じように30分かかる駅まで歩かないと、なんとなくモヤモヤした気持ちが残ってしまう。
著者の通うハーバード大学の先生たちは、出張に行った時も必ずジョギングシューズを持って行くとか、ヨガマットを持って行くとかで、毎日のルーティントレーニングをできるだけ中断しないようにしている、といいます。ジムに通う先生の場合は、出張先のホテルには必ずジムがあるかどうか、などを確認する人も多いとか。
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以上、エビデンスに基づく健康の法則は、運動については人類学者たちの知見とほとんど変わらなかった、というのが印象的でした。
個人的には、週4−5回のピラティス約1時間、週1回のサイクリング2−3時間の他、毎日できるだけ7,500歩以上歩くようにしています(現時点2024年1日あたりの平均歩数は8,221歩)。
したがって、運動に関しては健康の法則にだいぶ近いですが、今後も継続していくことが大事かな、と思います。
*写真:志賀高原 横手山山頂より(2019年2月)