見出し画像

地図でしかわからない危険な土地

早稲田大学のオープンカレッジで今尾恵介先生の講義受講終了。

地図に惹かれて今尾先生の講義を受講したのですが、この講義は本当に面白くてためになりました。

地図を深読みすると、これまでわからなかったことが実はよくわかる

という講義で、地図の歴史に始まり、地図の見方を経由して、地形学から展開し、集落の特徴や境界線からみた行政区分やその土地の特徴などを勉強。

特に面白かったのは最終回の「防災の観点から地図を読む」の回。結論的には安全な土地、危険な土地は以下の通り。

⒈安全な土地
 昔から集落のある土地(「自然堤防」&「台地の端」)、山切り地(山を削った跡地)
⒉危険な土地
 氾濫平野(湿地、元田園地帯)、埋立地、盛り土地、山麓の崖下(特に山麓の谷間になっているラインの延長線上の土地)

■川崎市「武蔵小杉」の浸水

タワーマンションが林立し、鉄道交通の要所として人気のある武蔵小杉ですが、2019年の台風19号で被災。

国土地理院:土地の成り立ち・土地条件図

これは講義でも使用された国土地理院の地図ですが、2019年の台風19号で浸水した場所は、ちょうど薄い黄色の部分のタワーマンション街。

薄い黄色の部分は地理的には「氾濫平野」と呼ばれ、昔から川の水が氾濫した時にその水を受け止められるような低地。つまり、そもそも氾濫が前提の土地だったのです。

これを文明の力で地盤を固くし、杭を地下の堅い地盤まで深く打つことでマンションを建設。洪水が多発する地域なんだから安易に地下に電源設備を置くのは避けるべきなのですが、コストダウン図って電源設備を地下に置いてしまったマンションは停電の憂き目にあったらしい(この結果、エレベーター止まって階段で昇り降り)。

一方、同じ武蔵小杉でも濃い黄色の部分は違います。この辺りは「自然堤防」と呼ばれる土地で、河川の土砂が堆積してできた、ちょっとだけ周辺よりも標高が高い土地。

昔の集落は自然堤防にあって度重なる洪水を避けつつ、自然堤防では畑、氾濫平野では田んぼを耕作していたのです。地図でも表現されている通り武蔵小杉の旧集落は神社仏閣の多い場所で判別でき、旧自然堤防の地区に多くあります(もちろん例外もあり)。

昔から神社仏閣がある土地は、昔から集落のあった場所だった証拠となるのです。

昔は今のように防災のための土地開発が貧弱だったために台風などの大雨が降ればすぐに洪水が発生するし、地震で津波が来ればすぐに浸水してしまいます。なので災害の起きにくい場所に集落はあったのです。

このほか、武蔵野台地などの台地の上は、水が出ないので旧集落は台地の端に多く存在していたのですが、今は台地の真ん中でも上下水道が完備しているので問題なし。地層形成が沖積低地よりも古いため地盤が硬いので、自然堤防よりもより安全ではないかと思います。

実際、東日本大震災では「洪積台地」では揺れが弱く、「沖積低地」では揺れが強かったと言われています。

■浦安市の液状化

東日本大震災の時に浦安の埋立地では液状化現象が発生し、地中から砂が溢れ出て家が傾いたり、大変なことになってしまいました。

いったい浦安のどの地域が液状化したのかといえば埋立地。地図でこれを見ると明白に従来からの土地と埋立地の違いがわかります。

講義資料より

埋立地にはディズニーリゾートもあって、震災前は千葉県でも随一の人気のエリアで、地価も東京都心とほぼ同等レベル(今は液状化影響で下落)。

浦安では旧来からの土地では全く液状化は発生せず、埋立地では液状化。特に悲惨なのは基礎杭が2−3メートルと浅い戸建て。一方のマンションは同40メートルと杭が深かったので、ほとんど影響は受けませんでしたが、地域一帯で断水が続くなどのライフラインは影響するわけだから「杭だけ深く打っておけばいい」というわけでもありません。

同じ千葉県内で稲毛や幕張の方の埋立地でも液状化現象は発生しているので、埋立地の土地建物購入は液状化のリスクを抱えていることを十分認識しておくべきです。

■広島市の土砂災害

2014年8月20日の大雨で発生した土砂災害。本来、急峻な山の山麓には住宅地の造成は避けるべきなのですが、平らな土地が少ない広島市では、急峻な山麓の崖下などに住宅が密集せざるを得ず、災害が起きるのは必定。

多くの死者が出たのは、山の「谷線」に沿った沢の麓の集落に住む住民たち。なのでどうしても急峻な山の山麓に住まざるを得ない人は、尾根沿いに沿った延長線上の場所を選ぶべき。

同上

このような土地は危険なので「土砂災害危険地区」として行政側は指定したいらしいのですが、地元住民から「不動産価値が下がるのでやめてくれ」との要望が強く、危険地域にも関わらず、そのような表記はないし、宅地造成も禁止されていないそうです。

当然不動産業者もそんなことは宣伝するはずもなく、自分自身で危険な土地かどうか判断するしかないのです。

■仙台市の盛り土の地滑り被害

東日本大震災では、仙台市北部の宅地造成地でも盛り土の地滑り被害が発生。盛り土問題といえば、昨年の熱海の盛り土被害が記憶に新しいですが「盛り土は危険」というのは過去からのセオリーだそう。

同上

土地の造成は、山の凹凸をならしてできるだけ平面の土地にして、その上に住宅を建築するわけですが、出っぱった土地(尾根沿い)を削って、へっこんだ土地(谷沿い)にその土を埋める作業をします。削った場所を「切り土」と言い、盛った場所を「盛り土」と言います。

自作

大震災では盛り土と切り土の境で地滑りが発生。なので、特に危険なのは切り土に隣接する盛り土のエリアです。

下図の多摩動物公園駅周辺は、青い部分が「切り土」で赤い部分が「盛り土」。同じ造成地でもどこが崩れやすくて(盛り土)、どこの地盤が固いのか(切り土)、あっという間にバレてしまいます。

国土地理院 土地分類 人口地形

今後、「土地建物を購入する」あるいは「住宅を借りよう」と思った時には、この国土地理院の地図を参考にすると災害に遭う確率が低くなると思いますので、ご参考にしていただければ、と思います。

*ちなみに私の住んでいる場所は、幸運にも「自然堤防」でした。ちょと安心しました。

*写真:東京都千代田区の地理院地図


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?