クロスバイクのリムブレーキ(Vブレーキ)の調整
クロスバイクによく使われているVブレーキ(ブイブレーキ、リニアプルブレーキ)というブレーキシステムは、外形も制動の仕組み、調整の仕組みもロードバイクのキャリパーブレーキとは大きく異なります。
キャリパーブレーキの場合は基本機構的にはブレーキケーブルの引き具合しか調整する部分がない(コンポのグレードが上がるといろいろな調整ができるようになりますが)のですが、Vブレーキの場合の調整は左右の2つのネジを駆使する必要があります。この調整は本当に初心者には難解なのですが、たった一つのことを覚えておくだけで誰でもできるようになるはずです。
覚えておくべきたった一つのこと
「ネジを緩めるとアームは動かなくなる」
Vブレーキのトラブルは、ほぼ間違いなく片効きの状態になること。左右のアームのどちらかは動くのに、反対側が動かない。動かない方がリムに擦れている状態です。
この時やるべきことは、動いている方のアームの調整ネジを緩めることです。ブレーキを握ったり、離したりしながら少しづつネジを緩めてみてください。すると徐々にいいままで動ていなかった方のアーム(ネジを回していない方のアーム)がリムから離れ、動くようになってきます。まずはこれだけ覚えて置けば咄嗟の時にササっと調整できます。
これでnoteが終わってしまっては上辺だけの記事になってしまいますので、Vブレーキの仕組みと調整のノウハウを続けます。仕組みには興味なくて、ちゃんと整備したいだけの方はVブレーキ調整の実践まで飛ばしていいただいて構いませんが、仕組みを知っているのといないのとではトラブル時の対応に差が出てきますので、お時間あるようでしたらぜひ仕組みの方も読んでみてください。
Vブレーキの構造と動作の仕組み
Vブレーキは、非常にシンプルな構造で、かつなんと前後輪用は同じモノです。後輪側についていたブレーキを前輪側で使っても何ら問題ありません。ただしブレーキシューには取り付け向きを指定するものがあります。ブレーキシューを見て写真の様に指定がある場合にはそれに従って付け替える様にしてください。また後述する理由により、左右異なる商品のアームを使用することは多分無理ですし、推奨されません。
Vブレーキは大きく2つのパーツに分かれます。左右のアームです。それぞれのアームはフレーム側の台座パーツに完全に独立に固定されています。ケーブルを外し、各アームの固定ボルトを外すと、簡単にフレーム側台座から外れます。
固定は一つのボルトでおこなわれていますが、ブレーキ側にピン、フレーム側に受け穴があるため。固定後は回転方向に回ってしまうことがありません。この受け穴については調整の項目で触れます。
自転車のケーブルで引くタイプのブレーキは普遍的な仕組みがあって、固定したケーブルを引っ張る(テンションをかける)とブレーキがかかり、テンションを解除すると元の位置に戻る。つまりブレーキ本体には常にブレーキが緩む方向の力がかかっていて、それをケーブルで抑えているという構造です。Vブレーキのこの緩む方向の力(アームが外に開こうとする力)は、ねじりコイルバネっていうバネで発生しています。中にはループはしているものの、コイル状になっているわけではないものもあります。
さて、Vブレーキのアームを裏側からみてみます。便宜上これからはこちら(インナーケーブル固定ネジのあるほう)のアームを右アームと呼びますね。
フレームに固定する部分に調整ネジとバネのコイル部分が収まってます。でブレーキシューが付くところがあって、更にのアームの先にインナーケーブルを固定するボルト(ネジ?)があります。そのあたりまでコイルバネの一方が伸びているのが見えます。使われているバネはモノによって異なりますので形状も様々です。
この構造をみると、写真の状態から、ケーブル固定部が右に動くとバネによる反発力が左方向に発生することがわかります。つまりブレーキが緩む方向ですね。こっち側のアームはとても分かりやすいです。
さて、反対側の左アームはどうでしょう?こちらも同様の構造です。違うのはインナーケーブルを固定するボルトの代わりにリードパイプ(アウターケーブルの終端と見なせる)を押さえる構造があることです。
さて、両方のアームにアウター、インナー、それぞれのケーブルが固定されたとき、ブレーキをかける、インナーケーブルを引く、ということはどういうことでしょう?
答えは、左アームと右アームの間のインナーケーブルの長さが短くなる。です。途中の状態を全部気にせず、Vブレーキのリードパイプ(90度くらい曲がっている金属の部分)の終端だけを観察すれば、ブレーキレバーによって引かれた分のインナーケーブルがリードパイプの中に入っていくのがわかります。アウターケーブルの終端だけが固定されていれば、インナーケーブルが引っ込んで短くなると観察できますが、逆にインナーケーブルの終端だけが固定されていたとしたら、アウターケーブルの終端がインナーケーブルの終端に近づくというように観察できます。
つまり最初に言った通り、ブレーキを引けば左アームと右アームの間のインナーケーブルの長さが短くなるのですが、インナーとアウターのどちらを固定するかで観察できる現象は変わります。インナーケーブルを固定した右アームが動くか、アウターケーブルを固定した左アームが動くか、です。
核心に近づいてきました。ではどちらの終端も完全には固定されていないとすれば?完全ではない固定する力が左右で拮抗していたら?そう、両方が動く、のです。これがVブレーキの動作の仕組みです。
つまり、Vブレーキを調整するということは、この左右の力のバランスを取る、ということになります。
反発力の調整とは
コイルバネは、初期状態から曲げれば曲げるほど元に戻ろうとする力が強くなります。
Vブレーキは初期状態の位置を変えることでバネの反発力を調整する仕組みになっています。写真をみてください。
調整ネジを締めこむ=アームの初期位置が外にずれる。調整ネジを緩める=アームの初期位置が内側にずれる。この初期位置とは、ケーブルを張っていない状態で、バネの反発力がかかり始めるポイントと考えてください。
さて、ケーブルを張ってブレーキシューの位置を大体合わせるとその時のアームの位置は先ほどの初期位置よりもさらに内側になるはずです。(緩めすぎた場合には外側になっちゃうかもしれません)つまり開く方向に反発力が発生しているわけですね。この時のアームの位置をブレーキ開放位置と呼ぶことにします。
で、初期位置とブレーキ開放位置との角度差があればあるほど反発力は強くなっているということになります。先の例でいえば、締め込んで初期位置が外側にずれた状態の方が、ブレーキ開放位置との角度差が大きいので、初期位置に戻ろうとする力が強いです。逆に緩めすぎた場合、初期位置がブレーキ開放位置よりも内側に行ってしまうので、初期位置に戻ろうとする力は0になります。
ブレーキの調整は両アームの外に開こうとする力(初期位置に戻ろうとする力)を拮抗させること、でしたから、この構造を考えると、ブレーキ開放位置での反発力を拮抗させるためには初期位置を調整すればよいということが分かります。
これが調整ネジを回すことで調整できる理由となります。
図をみてください。ブレーキも、というよりバネも工業製品ですからそれなりのばらつきを持ちますし、もしかすると経年変化で反発力も変化しているかもしれません。同じ初期位置にしたとしても、同じ反発力となる保証はないわけです。ただほとんどの場合図の赤いバーの様に重なる領域が必ずあるはずです。この調整方法のポイントは、拮抗する点は一つではなく幅を持っているということ。これを踏まえて調整方法を考えます。
Vブレーキ調整の実践
通常の調整範囲であれば、この記事の先頭にあったように、ブレーキを握ったときに良く動く方の調整ネジを緩めていく、というのが一番手っ取り早い方法です。が、図を見てください。もし両方のバネのバランスが崩れていて、左アームの調整ネジが赤矢印の状態だったとすると、右アームの調整可能範囲を超えてしまっているので、右アームのネジを最大まで緩めても拮抗点がないことになります。
そんな時は慌てず、動かない方の調整ネジを締めこんでいけばいいのです。図で言えば左アームを締めこんで、赤矢印を上にずらせば右アームの調整可能範囲に入ることになります。
パターンとしては、
・両方の調整ネジが締まっている場合、動く方の調整ネジを緩める
・両方の調整ネジが緩んでいる場合、動かない方の調整ネジを締める
もうちょっと理知的にやるなら、
・良く動く方のネジが動かない方のネジよりも締まっているときは、動く方のネジを緩める
・良く動く方のネジが動かない方のネジより緩んでいる場合、動かない方のネジを締める
はい、めんどくさいですね。このパターンを覚えるのは調整の意味を理解していないと無理でしょう。
ぜんぜん調整できない!とき
ここまで読んでいただいた方は大体の予想が付くと思うのですが、下図の様に完全にバランスが崩れている場合があります。実際私の息子のクロスバイクのリアブレーキがこの状態でした。片側のバネが馬鹿になってきていて、反発力が著しく落ちてしまっていたんです。
正直にいえば、こうなってしまったならブレーキ本体を交換すべきですが、応急処置的に調整することはできます。アームを一旦フレームから外す必要がありますが、フレーム側のピンの受け穴の位置を変えるのです。これは初期位置を変えることになりますので、バネの力が弱まっているなら、弱まっているほうのアームの初期位置をさらに外側にずらす方向(より上の受け穴)にします。もしくは逆側を内側にずらす方向(より下の受け穴)に変えるか。
調整が終わり、左右の隙間が均等になったとしても、慌てず、一旦その状態で自転車にまたがり、ブレーキテストしてみてください。その後もう一度調整することをお勧めします。何の拍子にバランスが崩れるかわからないので、何か触ったら調整をしましょう。
Vブレーキのリセット整備
片効きの症状を改善するだけならば、Vブレーキ調整の実践、の通りなのですが、その他ケーブルのつけ外し、ブレーキシューの交換などについても触れておきます。
ブレーキシューの付け替え
ブレーキシューの溝が浅くなってきたり、表面になにやらいろんなものが噛みこんで来たりしている場合、ブレーキシューの交換時期です。
Vブレーキのシューもキャリパーブレーキと同様、アーレンキーで簡単に取り外すことができます。とはいえケーブルが張った状態では取り外しに必要な空間を確保できないので。リードパイプをブレーキ本体から外してアームが自由に動くようにしてからシューを外します。リードパイプをブレーキから外すには、左右のアームをぐっと握り(ブレーキが強くかかった状態)、リードパイプを手前(インナーケーブルが伸びている方向と反対側)に引き抜き、そのまま上に外します。嵌めるときはこの逆手順です。
ブレーキシューには締め付けるナットの他におそらく5個のワッシャーがついているはず。
シュー側から、凹スペーサー、凸ワッシャー、(ここにブレーキ本体が挟まって)、凸ワッシャー、凹スペーサー、ワッシャーです。呼び方は私が勝手に名付けてます。
外すときはどうせ捨てるのでワッシャーを無くしても痛くないですが、新しいものを嵌めるときにはワッシャーを無くさない様に注意してください。特に凹スペーサー、凸ワッシャーはなくすと調整の自由度が減りますので絶対になくさないでください。凹スペーサーと凸ワッシャーには向きもありますのでご注意。かならず凹凸がかみ合うように取り付けましょう。新品のシューをよく見て構造を確認しましょう。
またVブレーキのブレーキシューには向きがあります。左用、右用でおそらく表示されていますので、間違いないように。実物を見ればわかりますが、シューは軽く弧を描いています。この曲りと、ホイールのRが合うように組み付ける必要があります。
まずシュー側の凹スペーサー、凸ワッシャーを残して外側の3つのワッシャーと固定ナットを軸から外します。その状態のシューをブレーキ本体の取り付け穴に通します。
穴を通ったら、残りのワッシャーと固定ナットを取り付けます。そこからの手順は。
①シューの固定ナットを軽く締め付け左右両側のシューを仮固定します。
②ケーブルを仮固定します。ケーブルのつけ外しの項目を参照のこと。
③片手でブレーキレバーを握りこみます。
④ブレーキレバーを握った状態のまま、もう一方の手でアーレンキーで固定ナットをさらに緩めます。シューがグラグラする程度までかなり緩めるのがコツ。
⑤アーレンキーを置いて、シューの位置の調整をします。リムのRとシューのRが合うように。タイヤに当たらないように。この時のコツは、シューを持つ手と、ブレーキレバーを握る手の協調です。ブレーキレバーの握りを少し戻し、シューが動く状態にして、アームではなくシューを掴んで、リムの良い位置にぴったりと吸い付くように押し付けます。シューの平面とリムの平面がぴったりと合っている感触が得られていますか?ブレーキレバーを緩めたり、もう一度シューの固定ナットを緩めたりしながら、ぴったり接触している感触を確認してください。
⑤位置が決まったら、ブレーキを強く握り、もう片方の手で固定ナットを締め込み、仮固定します。力を入れすぎるとシューが回ってしまうので力加減に注意。
⑥この作業を左右繰り返します。
次にトーインの調整をします。
トーインの調整
バイクのブレーキシューはトーインと言って車体前側からリムに接地する様に調整する必要があります。この前後の角度が変わり、車体後ろ側からリムに接地するようになるとキーッと音が鳴るのです。
この調整にはだいたい1mmくらいの厚さのプラバンが役立ちます。プラバンがなくても適当に厚紙を折ったものでも全然大丈夫。
このプラバンを、片手で車体後方側のブレーキシューとリムの間に差し込み、反対の手でブレーキを握ります。
挟んだものが固定されたら、プラバンから手を放し、代わりにアーレンキーを拾って、固定ネジを緩めます。ブレーキは握ったままです。十分に固定ネジを緩めたら、先ほどと同様にブレーキの握りをほんの少し緩める感じで、シューをくりくりっと動かしてください。シューを動かさないと、この手順の意味が無いです。大きく位置が変わらない様に、挟んだプラバンが落ちないように気を付けます。力加減が難しいです。何度か落とすかも。イライラしない様に!(笑) 上下左右が元の位置に戻ってるかを確認して、そのまま今度は固定ネジを締めていきます。軽く固定出来たらブレーキレバーを離し、シューが回転しない様に固定ボルトを締め付けます。親指でシューの左側を上から抑え、アーレンキーを握りこむ様に回すと、バランスよく締められると思います。左右ともやります。
ブレーキシューの位置が決まったら、最後にブレーキケーブルを固定します。
ケーブルの固定
ホイールのつけ外し時の様に、一時的にブレーキを開放するには、金属製のリードパイプをブレーキ本体から外せばよいのですが、ブレーキの効き具合を調整するのであればインナーケーブル固定ボルトを緩めるてケーブルを外すことになります。調整ボルトを十分に緩めればエンドキャップが付いた状態でも外せますので気軽に試せます。
ケーブルを固定する時は、まずブレーキレバーについているアジャスターを締め込み、最もインナーケーブルの経路が短くなるようにします。
次にインナーケーブルをブレーキ本体の固定ボルトに通し、片方の手でインナーケーブルを引っ張りながら、もう片方の手で両側のアームを掴み、ブレーキが軽くかかった状態(シューがリムに軽く接触している状態)にします。インナーケーブルを引っ張る時、薄いゴムシートのようなものを滑り止めにしながらやるといいです。この時ブレーキレバーからリードパイプの出口まで、インナーケーブルが弛んでないか、アウターケーブルが本来の固定位置から外れてないか、よく確認してください。ケーブルを引っ張っていた手を離し、アーレンキーに持ち替え、固定ボルトを締めます。アームをつかんでいる手を離すと、ケーブルのたるみなどで少しアームが外側に戻ると思います。
Vブレーキの場合、ケーブルのテンションは左右のブレーキシュー間の距離の合計に対応します。言い換えると、左右のブレーキシューとリムの隙間を足したものです。ケーブルを張った段階で見るべきはこの隙間の合計値のみ。左右のバランスはここではいったん忘れて大丈夫。両方の隙間を足して2~3mmあればちょうどいい感じです。もしこれより幅が広ければもう一度同じ手順で、ケーブルを引っ張るのを頑張って、張りなおします。何度やっても隙間が広くなってしまうようなら、ケーブルを固定した後、ブレーキレバー側のアジャスターボルトを緩めて隙間を狭くしていきましょう。
もし3~4mmよりも狭くなってしまった場合は、今度は両側のアームを掴んでブレーキがかかった状態にするときに、少しだけリムとブレーキシューが離れる距離感でケーブルを固定してみます。何度やっても隙間が狭い場合には、ケーブルを固定する前にブレーキレバー側のアジャスターボルトを数ミリ緩めてからケーブルを張り、その後アジャスターボルトを締めこんで隙間を広げます。
この後の左右の隙間、アームの動きの調整はVブレーキ調整の実践のとおりです。
ブレーキレバーの遊びを調整する
ブレーキレバーの遊び=リムとシューの間の距離ですから、距離が空いていれば遊びが大きくなり、狭ければ遊びは小さくなります。
遊びが無い感触が好きならば、シフターのアジャスターボルトを緩めて、リムとシューの間隔を狭めます。狭めれば当然バランス調整は難しくなってきますので、好みの遊びに調節した後は、再度左右アームバネのバランス調整をすることをお勧めします。
ブレーキレバーの硬さ(握るのに必要な力)を調整する
握りの硬さはブレーキ側のバネの力に比例します。仕組みをじっくり読んでいただいた方は想像できると思いますが、固くしたいならアームの初期位置を外側に。柔らかくしたいなら初期位置を内側にずらせばいいのです。
左右のバランス調整とともに考えると、固い方が好きな方は最初に左右両側の調整ねじを完全に締めこんでから、良く動く方のアームの調整ねじを緩めていくと良いです。
柔らかい方が好きな方は逆で、最初に左右両側の調整ねじを最大まで緩めてから、動かない方のアームの調整ねじを締めていきます。
終わりに
ブレーキは安全にかかわる重要なパーツです。はじめのうちはケーブルのつけ外し、シューの交換などを行ったときには最寄りの自転車やさんに行って点検してもらうことをお勧めします。
またロングライドやレースを控えているのなら、各ボルトの増し締めや、ブレーキの動き、効き具合のチェックなど、念入りに行ってください。
当たり前ですが、走り始める前にインナーケーブルが固定されていること、リードパイプがホルダーに嵌まっていることをしっかりと確認してください。
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