見出し画像

【基礎から学ぶ人事制度│評価制度編①】評価制度の基礎知識

このコラムは、グローセンパートナーの人気セミナー「動画で学ぶ人事制度」の内容をまとめたものです。人事制度から人材育成・教育に関する全体像を理解し、人事制度設計で押さえるべきポイントを説明します。

動画で学ぶ人事制度とは
動画とテキストに沿って演習や事後課題を進めることで、人事ポリシーの設計、等級・評価・報酬制度の概要設計、教育体系などの概要設計ができるようになっています。より詳しく学びたい方は、ぜひテキストをダウンロードして動画をご覧ください。

今回は、評価制度の基礎知識について解説します。


評価制度とは

まずは評価制度とは何かを理解するところから始めます。日本の人事部では、以下のように説明されています。

人事評価制度とは、従業員の業績、態度、能力を一定の基準で分析・評価し、報酬や昇進・昇格などの人事査定に反映させる仕組みです(※)。人材配置や能力開発にも利用されます。コロナ禍においてテレワークの導入が加速し、既存の人事評価制度を変更すべきか検討している企業が増えています。
※近年は反映しないというトレンドも見られます。
人事評価は従業員のモチベーションに大きく影響することもあり、公平性・客観性・透明性・納得性が求められます。

出典)日本の人事部 HRペディア

人材配置や能力開発にどう活用していくのかという観点から、評価制度について解説します。

評価の難しさ

一人ひとり捉え方が異なる

人は独自の思考フィルターを通して、物事を認識します。会社からの方針や上司からの指示の指示に対し、この独自の思考フィルターを通して認識します。方針・指示・命令を出しても、部下の捉え方が違うと、違う解釈で違う行動をしてしまう可能性があります。そのため、方針・指示を出したときは、部下がどう認識したかを確かめることが大切です。お互いがどう捉えたのか、対話(=捉え方の交換)を重ねることで、お互いの価値観や判断軸が合ってきます。

評価に関しても同じことが言えます。上司の捉え方が違う以上、同じ人に対して異なる評価になって当たり前です。人格が高く完璧な上司などいませんから、人を評価するときにフィルターがかかりますから、絶対的に公平な評価というのは無理だと思っています。そういった人間の限界や時間の効率を加味して、どこまで評価制度をきめ細かく設計するのかが1つのポイントになってきます。

公正な評価には限界がある

評価制度を緻密に設計しても、公正な評価をすることには限界があります。
ある企業で社長と専務が「人材のどのような点を評価しているのか」、評価の視点を調査分析したところ、社長は人間性やコミュニケーション能力を評価しているのに対し、専務は営業力を評価していることがわかりました。この二人の評価の視点は異なっており、同じ部下を評価しても、異なる評価結果になる可能性があります。評価の公平性を担保するには限界があるのです。

評価を時間をかけても、結局は「人の捉え方」にに左右される

ここまでお伝えしたことをまとめると、評価制度を緻密に設計しても評価のすり合わせに時間をかけても、最終的には「その人の捉え方」に左右されるということです。人の捉え方に左右される以上、評価は最終的には主観的なものになります。最終的には社長の主観が影響力を持つと言えるでしょう。ただし、現場では客観的評価が必要です。目標管理や行動基準を設けている以上、絶対評価・客観的評価は必要となります。

最終的に評価が主観的なものであるなら、評価を確定するために時間をかけても効果は薄いかもしれません。一方で、評価の納得性を高めるために、できるだけわかりやすく、上司が評価のフィードバックをしやすい仕組みの設計が大切です。人材育成にもつながりますので、上司がきちんとフィードバックできる仕組みが望ましいです。

評価者研修など時間をかければ公正な評価の度合いは上がっていきますが、そこへの投資はある一定レベルに抑えて、業績向上のための評価制度、人材育成を加速する評価制度について一考してみたいと思います。

実務を重視した評価制度にするために

評価の難しさについて説明しましたが、ここからはその解決策をいくつか提示します。

1.PDCAサイクルがまわる評価制度を構築する

現場では仕事と人材育成のPDCAサイクルを回す必要があります。PDCAサイクルがまわる評価制度を構築するとよいでしょう。弊社で協調しているのは、評価シートに、目標項目(何を)、達成基準(どこまで)、実行計画(どのように)の3つの項目を盛り込むことです。PDCAサイクルは、仮説検証のサイクルであり、実行計画にいかに良質な「仮説」を盛り込めるかについてお伝えしています。

評価シートに、目標項目(何を)達成基準(どこまで)実行計画(どのように)を盛り込む

仮説検証のサイクルをしっかり回すことにより、企画力・段取り力・構想力も付きますし、成功体験・失敗体験を振り返ることで経験学習のサイクルを回すこともできます。

2.人材育成が促進される評価制度を構築する

行動評価(能力評価やコンピテンシー評価など)は、求める行動の基準を設けていると思います。しかし、期末にチェックして、フィードバックするより、求める行動の基準に照らし合わせて、本人ができていること・できていないことをしっかりフィードバックして、今期の成長課題を設定することをおすすめしています。成長課題に基づいて、期中にしっかりフォローやアドバイスすることが評価者に求められるコミュニケーションになります。

▼人材育成のPDCAサイクルをまわす人事評価シート

3.給与は昇給評価より昇格によって水準が高くなる設計にする

どの会社でも給与改定の評価(昇給・降給の評価)を決定することに時間をかけていますが、給与改定の評価は、多くの企業は行動評価を軸に、業績評価などを含めて総合的に評価を確定していると思います。上記でも解説した通り、上司の捉え方に左右される宿命にあると考えると、給与改定の評価はあまり時間をかけないために、評価結果による昇給格差を余りつけないようにすることを推奨しています。

一方で、大切なのが昇格評価だと考えており、企業における適材適所(誰をどの等級に配置するか)は重要な意思決定なので、昇格審査こそしっかり行うべきだと考えています。できれば、評価結果の累積で決定するより、こちらも成長課題を設定して2年程度の時間をかけて決定するべき評価だと考えています。参考までに、給与改定の評価より、昇格評価を大切にする報酬体系の設計は、下記の通りです。

図:等級に連動した年収水準のイメージ。横軸が年齢、縦軸が年収
  • 少額でも昇給し続ける仕組みとする
    成果主義を導入した時、給与が下がる・スライドするというパターンも設計しましたが、長期的にはモチベーションが上がらないということが分かりました。500円でも1000円でもいいので上がる仕組みが良いでしょう。

  • 多くの社員が定年を迎える等級の年収を設定する
    生活も加味して「多くの人が4等級ぐらいで止まるなら、少なくとも600万円ぐらいは保証したい」といった形で設計しましょう。

  • 管理職と非管理職との差を大きくする
    管理職と非管理職では、報酬水準の逆転が起きないように、できる限り差を大きくしたいものです。

  • 等級ごとに年収(給与)の上下限を明確にする
    等級ごとに年収の上限を設定することで、その等級での行動発揮が変わらないとそれ以上年収が上がらない形で設計しましょう。

  • 昇格昇級の格差を持つ
    多くの企業が毎年昇給を決める評価に奔走しています。しかし、よく考えると、「年収が1番上がるのは昇格時」と設計することで、毎年の給与の変動についてはそれほど緻密に評価制度設計しなくても、昇格管理をしっかり行うだけで十分となります。昇格管理をきちんとやっていないがゆえに「マネジャーに向いてない人を昇進させてしまった」とか「だんだん人件費が上がっていく」という問題が発生します。

4.賞与はできる限りロジカルに評価がきまる仕組みにする

賞与は、結果(成果)に報いるものなので、できる限りロジカルに評価(配分)が決まる仕組みがおすすめです。個人の業績を明確にできるビジネス(営業・マーケティングなどのビジネス)では個人評価を重要視し、個人の業績を明確にできないビジネスでは(工場・チームで進める開発などのビジネス)、組織評価を重要視し、それに基づいて弱めの個人評価係数で配分することがよいでしょう。大分浸透してきましたが、業績連動の賞与はできる限り導入したいものです。

5.昇進昇格の決定や人材育成に時間を割く

賞与・給与の評価を決定するために時間を割くより、昇進・昇格の決定や人材育成に時間を割ける仕組みにします。

現状の評価制度は機能していますか?

ここでは現状の評価制度は本当に機能しているのか、いくつかの視点を提示します。自社の評価制度を振り返りながら、考えてみましょう。

1.評価の納得性・公平性への疑問

  • 調整評価が存在する以上、最初から人物評価が決まっている。後から理由づけをしているのでは?
    後からロジカルに理由付けしようとするからおかしくなります。調整評価があるということを明確にする方がいいでしょう。

  • 評価者に認識の限界(認識の枠)がある以上、評価結果は評価者に左右される。
    これには2つの理由があり、1つは好き嫌いの部分と、もう1つは認識の枠組み(どれだけ広い視野を持っているか)が人によって違うため、評価者に左右されることは否めません。

2.目標管理は本当に機能しているか?

  • 目標管理を導入して、本当にPDCAサイクルが定着しているか? 
    「Plan=仮説」であり、実行してみないとどうなるかわからないので「仮説検証サイクル」です。目標設定に仮説を盛り込んでいないケースが体感で95%ぐらいあるので、本当に仮説検証のサイクルが回っているのか疑問です。

  • 環境変化のスピードが速いので、戦略策定→展開→目標設定で時間のロスが発生する。
    戦略策定から目標設定まで軽く3ヶ月ぐらいかかることが多いようですが、時間的に本当にこれで間に合うのかと感じます。

3.評価でモチベーションが上がるか?

  • 評価が悪い人は奮起して、良い人はモチベーションが上がるのか?
    本当にそうでしょうか?評価が悪い人は元々自己否定感が強く、その上さらに評価が悪ければ、まるで傷に塩を塗られるように感じるのではないでしょうか。一方、評価が普通のBをもらった人が「やった、Bだ、頑張ろう!」と思うかというと、そうでもないでしょう。
    評価が良い人が評価結果でモチベーションが上がることは少ないようです。むしろ「もっと活躍できる場が欲しい」といった方向に思考が向き、評価よりも自由度や権限委譲がなければ、逆に転職してしまう可能性があります。

4.多様性の理解と、同一項目での評価の限界

  • 多様性の時代と言いながら、評価基準が同一なのはおかしい
    評価基準を同じにするのであれば、「多様性は認めない」という主張と同じではないかと考えています。

  • 人の弱みの克服は難易度が高い。強みを発揮できる・成長できる場所に配置することの方がより効果がある。
    同一基準の評価制度では「できている・できていない」という判断で、上司としては「できていないところを改善させたい」という気持ちになりがちです。しかし本質的には、適材適所でその人が活躍・成長しやすいポイントに置いてあげることの方が、パフォーマンスの向上や成長に繋がります。

これからの評価制度

評価確定は最小限に、人材育成・コミュニケーションに重きをおく

評価を再度見直す時期に来ています。現状の評価制度は役割付与機能や報酬決定機能、コミュニケーション機能にマネジャーの労力がかかっています。過去に算出しましたが、全マネジャーの時間の3%程はここに費やされているようです。

評価制度改定をきっかけに、評価確定のために費やしている時間を削減し、人材育成・コミュニケーションなど価値がある施策に配分できればと考えています。

今後の評価制度:人材育成・コミュニケーションに重きをおく

できる限り無駄を排除し、最終的には、必要な「報酬決定、役割付与、コミュニケーション」の機能にプラスして「人材育成機能」や「適材適所」の機能を盛り込む評価制度にしたいものです。そのためにも、人事制度改定の狙いの整理として、新しい人事制度構築を期に、評価制度において解決したい問題と、実現したいことを社内で共有しておきましょう。

▼評価制度のムダを取り除く方法<評価制度にかかる時間の算出シート>

より詳しく学びたい方へ

より詳しく学びたい方は、動画をご覧ください。テキストと演習用ワークシートは弊社HPからダウンロードできますので、ご利用ください

動画

テキスト・演習用ワークシート

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?