初めてのオリジナル曲
私たちのバンドは、レディースルームの曲をほぼカバーしていた。これ以上、カバーするものがなくなったあたりで、オリジナルの曲をボーカルのMが書き始めた。初めて書き上げるオリジナル曲は、往々にして稚拙に仕上がる。だが、それは仕方がない。作曲も回数を重ねることで質は上がっていく。そして、第三者の手でアレンジを加えてもらうことで更に質のいい音色に仕上がっていくものである。
当時の私たちが書いたオリジナルは、レディースルームと比較してしまうと、キャッチーさはもちろんない。致し方ないことだが、最初に必要なことは、まず「試してやってみる」ことだ。そういう意味では、偉大な一歩を踏み始めたと言ってもいいだろう。
私も、自分で考えたフレーズを曲に載せるのは人生で初めてだった。リズムを刻むのはさほど難しいことではないが、フィルを考えるのは、経験値が必要だなと思った。曲の構成だけが稚拙なのではなく、全てのパートが稚拙にしか仕上げることが出来ず、改めて作曲の難しさを知った。
オリジナル曲は稚拙ではあったが、演奏のタイトさせでは、非常に完成度は高いと思っていた。簡単なフレーズで構成されているからというのもあるが、それよりもベースとドラムの安定感は、自分達でも自負していた。
バンドの構成で言うと、ボーカル、ギター、キーボードは容姿を表し、ボーカルは顔と同じ。したがって、バンドの印象を決めるのはボーカルと思って間違いない。ベースとドラムは、人の体で言う骨と見せない筋肉の部分となる。
ベースとドラムが安定していないバンドでも、ボーカルの容姿やスキルが極端に高いと、その不安定の要素をある程度打ち消してくれる力がある。それがボーカルの凄いところだ。
同様にボーカルが魅せられないバンドの場合でも、ベースとドラムの演奏がタイトだと、まとまったバンドに聞こえるのも事実。ただ、この場合は、タイトに見えるだけで、コマーシャル的な優位性はあまりない。やはり、ファンは人が人に愛着を持つがゆえに、近づこうとし、そのアイコンに対してお金を投じていくわけだ。愛着が持てないアイコンになってしまっていると、商業的な成功も起こしにくいのは事実である。