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心理学部と正規の授業

 1年目の秋学期と春学期を無事に終えて、遂に学部の正規のクラスと一般教養のクラスの受講を開始する。人の心を覗きたくて心理学を選んだわけではなく、犯罪心理学に興味を持ったのだ。

警察官になろうなどとは思ったこともないのだが、未解決事件の犯人像に対して、現場の状況から行動パターンを推測して、次の行動先を特定していくというプロセスに興味を持ったのだ。

 心理学部の扉を叩いてみると、数多くの分野がそこにはあった。しかし、犯罪心理学という名のコースがなかった。多少がっかりもしたのだが、方法はあった。心理学を主専攻とし、社会学を副専攻とするのだ。社会学の中に「犯罪学」というものが存在する。

 犯罪学と犯罪心理学の違いは、犯罪学は、犯罪のパターンや原因に焦点を当てているのに対し、犯罪心理学は、個々の犯罪者や特定の犯罪行動に焦点を当てている点だ。

犯罪のパターンと原因がどういう心理でどういう行動に出るのかを二つの分野から考察するのが犯罪心理学といっていいだろう。しかし、これを一つの学部にしてはいなかった。大学によってはあるかもしれないが、私の通っていた大学では、別々に習得して応用するしかなかった。

 心理学には、多種多様な心理学がある。この中に、法心理学というのがあり、恐らくそれが犯罪心理学に入ると思われる。

しかし、一般的な大学では、心理学と言えば、発達心理学、臨床心理学、教育心理学、認知心理学、行動心理学などを学ぶことが多いと思われる。少なくとも私が主に学んだのは、この中の全てを中心とした心理学のクラスである。

 一番難易度が高かったのは、直訳すると生物心理学なのだが、恐らく臨床心理学に近い。主に脳の生物学的な要素の事を勉強し、専門用語が難しかったのを覚えている。

アメリカの大学の教科書は、非常に簡単な英語の表現で書かれてあるのが普通で、専門用語であったとしても知っている単語の組み合わせで覚えやすい。

しかし、生物心理学に出てくる名称は、脳の部位の名称などがでてくるため、その単語を覚えるのが大変だった。一度Dを取り再履修になったことを覚えている。

 初めての正規のクラスは「心理学101」だった。今でもその時のことを鮮明に覚えている。私は、専攻学部の科目として取ったが、心理学部ではない同期がたまたま一緒に受講したのを授業初日知る。二人とも浪人をして留学に来ているので、学年は一緒の同期である。

 お互いに英語をみっちり勉強してから渡米しているにも関わらず、リスニングになると無念レベルである。受講した時期は、夏学期だったのだが、心理学が属する社会科学系列の科目は、読書量が多い。

私もその同期も、毎日図書館で予習復習をしていたので、教科書に書かれてある内容は何となく理解しているが、二人とも先生が授業中に話した内容をノートに書きとるのが致命的レベルで、後で読み返しても何のことを書こうとしたのか、さっぱり思い出せない。

というより、全ての書き取りが、文章半ばで終わっている。書き取り中に先生が話した内容を忘れてしまったに違いない。

そんな二人は、授業の内容がいまいち分からないということで、テストはいかがなものかと思い始めていた。そんな折、テストの時期が近付いてきた。

ラッキーなことに試験は、持ち帰り試験だという。テイクホームイグザムと呼ばれるのだが、簡単に説明すると、「教科書を見ながら回答してください」ということだ。

カンニングが許された試験が、人生初の正規のクラスで課されたわけだが、持ち帰りテストは、ラッキーでもありアンラッキーでもある。教科書を見て答えてもよい試験は、カンニングを認めるだけあって難しいのである。

二人で持ち帰って唖然とした。一通り目を通した時点で、一問も分かるものがなかった。

そこで、同期は奇数設問、私は偶数設問を解き、後で二人の回答をがっちゃんこする作戦をとることにした。もちろん、答えがまるきり同じだと怪しまれるので、同じ内容を言い換えて回答にした。

私たち二人は、「これでこの試験は貰ったも同然」と同期と二人で二やついていた。唯一の懸念は、先生が、同じ設問で似た回答で間違いだった場合にバレないかということだった。

答案が翌日返ってきた。二人ともDだった。つまり、同じところを、同じような回答を書いて間違えているのだ。

これには、焦った。ただ、元々、教科書を見ても良いというテストなため、指摘はなかった。だが、先生は確実に私らが一緒に問題を解いたであろうことはバレていたと思う。

テストはDだったが、論文は悪くなく、最終的にはCで終わった。幸先悪いスタートだった。

正規のクラスを取る最初のクラスは、多くの留学生が数学を取る。何故なら、101レベルの数学は、中学生レベルの内容なので、日本人の留学生は皆Aを取る。

その作戦で行けばよかったのに、最初から心理学というハードルの高いクラスを取りCで着地するという無念な終わり方をしてしまったことが悔やまれる。

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