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日本のサービスの開始
私が雇われた理由は、日本のサーバーを開設するにあたり、日本のユーザーに日本語でサポートできる人材が必要だったからである。
アメリカでのサポートは、Eメールと電話での問い合わせに対応する形だったが、日本には支社がなかったため、アメリカ東海岸からリアルタイムでサポートを提供する必要があった。
日米の時間差を考慮し、日本のユーザーが帰宅して夕飯を終え、リラックスする夜の時間帯を狙ってサポートを提供することができた。
日本のユーザーは電話での問い合わせに費用がかかりすぎるため、チャットシステムを利用して問い合わせを行った。
現在ではチャットボットが一般的だが、当時はそのようなシステムはなく、比較的先進的なサービスだったと言える。
しかし、日本のユーザーからのチャット問い合わせは少なく、ほとんどがEメールでの問い合わせだった。
午前中に日本のユーザーのチケット処理を終え、午後はアメリカのユーザーのEメールサポートを手伝い、その合間にバグレポートやローカライズ業務を担当した。
この会社は社員200人ほどのオーナー企業で、MMORPGの中でも玄人好みのゲームを開発しており、世界中の玄人プレイヤーから高い評価を受けていた。
クエストは難しく、操作も複雑で、玄人なら楽しめるレベルの仕様になっていた。
そのゲーム設計に目を付けた大手ゲーム出版社が買収を持ち掛けてきた。私が入社した年に開発中だった次回作が、志半ばで開発が打ち切りになった。
理由は、5つ星ゲームしかリリースしないというポリシーに基づくものだった。
リリースしても評判が悪くなるなら出さない方がましだという考えだった。
しかし、一つのタイトルを作るのに数億円がかかり、開発を止めれば投資した数億円は無駄になる。
その後に開発したのは、欧米のファンから熱狂的な支持を得ているボードゲームをMMORPGにしたものだったが、資金不足から大手に買収されることになった。
その大手には日系の大手ゲーム開発企業も候補の一つだったが、最終的には米国の大手ゲーム開発会社に買収された。
社内には不穏な雰囲気が漂った。
買収された企業は買収後にスリム化されることが多く、その噂を知っている社員たちは自分たちの部署が閉鎖されることを恐れていた。
私の所属していたサポートチームは、買収直前の全体ミーティングで、規模が倍になる計画を伝えられていたが、それが社員を安心させるための発表だったのではないかと思う。
私は初めての正社員の企業だったため、レイオフのパターンを知らず、規模が倍になる計画を信じていた。
買収の話が来た時も、ゲームタイトルが増えることでサポートチームは大きくなると考えていたため、買収の話をプラスに捉えていた。
買収が完了すると、社内のレギュレーションが買収先のシステムへと移行し、取り扱いタイトルの社員価格がかなり安く提供されるなど、個人的には嬉しいこともあった。
しかし、幹部たちは自分たちの居場所がなくなることを察して退職を始めた。
買収前は、ゲームデザイナーやプロダクトオーナーにはロイヤリティが払われていた。
アートデザイナーもゲームが売れるごとにロイヤリティを得ており、彼らは大きな家に住んでいた。いわゆる「ゲーム御殿」だ。
しかし、買収した親会社の設計では、ゲームが売れた後の全ての権利は会社に帰属されるため、デザイナーやアーティストには旨味がなくなった。
そのため、彼らは退職し独立する道を選んだのだ。