無意識のバイアス―人はなぜ人種差別をするのか― ジェニファー・エバーハート
私たちは無意識に人を見た目で判断する。皆さんはバイアスという言葉を聞いたことがあるだろうか。それは、物事を判断する際に偏見や先入観が先立ってしまうことである。この本は筆者が実際にアメリカで経験したことや調査データをもとに差別とバイアスの関係性を書いた本である。全10章で構成されている。本文では興味深いと思った章を厳選して紹介していきたい。尚、本文中に「黒人」という表現を用いるが差別的意味合いではなく、「白人」と「黒人」の二項対立を深めるために用いるので悪しからず。
初めに興味深かったのは、第1章 「互いの見え方―認知とバイアス」である。本章は黒人が多く住むアメリカ合衆国オハイオ州クリーブランド出身である黒人の筆者が幼少期に感じた白人への見解をもとに黒人への差別行為(特に警官から黒人への差別行為)に働くバイアスを考察している。本章で筆者はクリーブランドから白人が多く住むビーチウッドへと引っ越すのだが、黒人が多いコミュニティで育った筆者は白人の顔を見分けることができなかったそうだ。人は自分と同じ人種の顔を認識する能力に長けているという科学的データが出ている。これに関連して2014年カルフォルニア州オークランドではアジア人の高齢者を狙った黒人青年によるひったくりが横行した。これによりオークランドに住むアジア人の中では「黒人は危険」というカテゴリー化が行われた。食べ物や乗り物をカテゴリー化するように黒人もまたカテゴリー化されたのである。そして、このようなバイアスは親から子へと伝達されるのだ。
次に興味深いと感じたのは、第3章 「悪人とは―警察とバイアス」である。白人と黒人の差別と被差別関係は約400年前の奴隷制から現在まで遡る。この歴史の中で生まれた黒人に対する見方や「黒人は危険」という考え方が警察官の行動を変えてしまうということが書かれている。2016年、オクラホマ州で黒人男性テレンス・クラッチャー氏が白人警官に胸を銃で撃たれ死亡した。クラッチャー氏を撃った警官はクラッチャー氏が警官の指示に従っているにもかかわらず、銃撃したのだった。ここにもバイアスが働いていたのである。
本書に書かれていた筆者によって行われた実験がこの事件のバイアスを証明していたので合わせて紹介していきたい。地元の警察を集め、5人ほどのグループを2グループ作った。Aグループには犯罪に関するワードを点滅させ、スクリーンに映し出す。Bグループには犯罪に関係ないワードを点滅させ、スクリーンに映し出す。次に白人男性と黒人男性の顔をスクリーンに映したところAグループは黒人男性に目を向け、Bグループは白人男性に目を向けたのだ。スタンフォード大学の学生にも同じ実験を行ったところ、同じ結果が得られたそうだ。このように黒人男性に対するバイアスが警察官の行動に影響を与えていることは事実である。本書はバイアスの視点から黒人差別を考えた非常に興味深い本であった。差別の根本を考え直すことができるので是非読んでほしい。
参考文献:
無意識のバイアス―人はなぜ人種差別をするのか―
ジェニファー・エバーハート 明石書店