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ワンオペ育児のしんどさを、「分人」でひも解いてみる。

最近、妻に元気がないことがしばしばあります。

理由を聞くと、
毎日同じことを繰り返している状況がしんどくなってくる
子どもたちを叱りつけると、自己嫌悪してしまう
と。

我が家では平日、私が仕事から帰る19時ごろまでは妻によるワンオペ育児となっています。
休日に「妻が一人で過ごす時間」を必ず作るようにはしているものの、それでも彼女のシンドさを払い去ることは出来ず、私も焦りを感じていました。


そんなときに出会った本が、平野啓一郎『私とは何か』です。

この本に着想を得て、
私は今回、「なぜワンオペ育児がしんどいのか」に一つの答えを得ました。

それは厳密に言えば、「自分の時間が少ないから」ではなかったのです。

本書の言葉を借りれば「子どもとの分人が肥大した」からであり、「その分人が好きになれない」から。


今日はいつもより長い記事になりますが、育児にシンドさを感じる人たちに伝えたいことを、全力で書きます。
それでは最後までよろしくお願いします。



分人とは


まず「分人」について簡単に説明しましょう。

分人とは「他者との関係の中で生まれる、自分の人格」みたいなもので、
簡単に言えば「この人と居るときの自分」のことです。


例えば私なら、

「妻との分人」「親との分人」「友人Aとの分人」「友人Bとの分人」「我が子との分人」「我が子以外の子どもとの分人」「コンビニの店員との分人」

など、人間関係の数だけ、無数に存在します。


友人Aとの分人は「穏やかな私」で、友人Bとの分人は「ふざけることができる私」のように、分人はそれぞれ「自分の異なる一面」を構成しています。

そして、それぞれの分人を足し合わせたものが「自分」であると。


本書の内容をもとに私が図解したもの。


分人のサイズは、関係が深かったり、関わる時間が長かったりすると大きくなります。その人のことが「好き」とか「嫌い」とかは関係ありません。


面白いのは、分人はその構成比率が容易に変化することにあります。

つまり、ライフスタイルや、生活環境を変えると、分人の種類やサイズ感が変化するのです。

親や友人との分人が縮小し、新たに職場の分人が生まれている。


「逃げ込む先」としての分人


著者によれば分人は「複数の自分」なのであり、それら全てが寄り集まって自分であると。

「その中のどれか一つが本当の自分だ」という考え方はしないそうです。

ここが重要で、だからこそ分人は「逃げ込む先」として機能します。


たとえば自分が、クラスメートAからいじめを受けたとしましょう。

自分に自信を失って、苦しくて、消え入りたい。
そんなとき、自分で自分のことを、嫌いになってしまう。

でも本書に従えば、このとき生じた「嫌いな自分」とは、単に「クラスメートAとの分人」だけを指します。
より分かりやすく言えば、「Aと一緒にいるときの自分 "だけ" が嫌い」という状況です。

「分人の構成比率は変えられる」のだから、自ら「Aとの分人」を縮小させたり、消滅させたりすれば良いわけです。


もちろんそれが難しいケースがほとんどなわけですが、
それならば、別の分人を育てるという方法もあります。

例えば、
 友人Bとよく遊ぶようにする。
 同じように悩む仲間をインターネットで探してみる。
 家族との時間を長くとるようにする。
など。

そうして、今までは隅に追いやられていた小さい分人を意識して膨らませたり、今までは存在しなかった分人を新たにラインナップに加えたりします。

そこに自分の好きな、居心地の良い分人が見つかったら、その分人を軸にして生き方を再構成すれば良い

これが「逃げ込む先」としての分人の考え方です。



ワンオペ育児と分人


では本題の「ワンオペ育児がなぜしんどいのか」について考えてみましょう。

といっても、ここまでの内容で既に答えは出ていて、
ワンオペ育児とは「我が子との分人が肥大化した状態」です。

「コントロールできないほど大きくなる」という意味で、あえて「肥大化」という表現を使いました。


自分を構成する分人のほとんどすべてを、我が子との分人が占めている。

この状態が「ワンオペ育児」であるということです。


他の分人が圧迫されている状態


それに加えて「育児が上手くいかない状況」は、必ず発生します。

牛乳を自分でコップに注ぎたい4歳児がフローリングに白い海を作り、
時間をかけて作った渾身の離乳食を、1歳児が皿ごと投げる。

育児をしていれば、こんなことは日常でいくらでも起こりますね。
そのたびに、分人には赤信号が灯るわけです。


つまりワンオペ育児のしんどさとは、
自分を構成する分人のほぼ全てが、心底嫌になる瞬間が来る
と言い換えられます。



2つの対策


では、ワンオペ育児の対策を考えていきます。

私がこれまでしていた対策は「妻に自分ひとりの時間を確保する」だったわけですが、これは厳密に言えば間違っていました。

なぜなら、ひとりの時間が反省の時間になってしまったら、意味がないからです。


今回新たに考えたワンオペ育児の対策とは、

当事者が "分人" の考え方を持つこと」。
分人のバランスを意識して変えること」。

この2つです。


つまり、自分で自分を責めている妻が、まず何よりもこの現状を
一つの分人が肥大化しており、かつ、その分人がしんどくなっている
状況だと理解し、以下のように整理すること。


別に自分がダメなんじゃなくて、自分の「ひとつの分人」が上手くいっていないだけなんだ。それ以外の分人が小さくなりすぎているから、過剰に反応してしまっているだけなんだ。

と、こんな感じで考える。


そのうえで、
自分の時間を、分人を増やす、あるいは構成比率を変えることに使う
ことが必要です。


ただ休むのではなく、友達と電話するとか。
久方ぶりに恩師に会いに行くとか。
大好きなアーティストのライブに行くとか。


余暇の過ごし方を規定して、「我が子との分人」の肥大化を食い止める。

それがワンオペ育児のしんどさに対する、一つの処方せんになるのではないかな、と考えます。



まとめ


今回は平野啓一郎さんの『私とは何か』を引用して、ワンオペ育児がなぜしんどいのか、ではどうすればいいのか、について考察してみました。

自分の中ですごくしっくりきたので、先週、これを妻に話しました。

妻は「うんうん」と聞いてくれて、深く納得してくれたようです。
早速、「今度の休みに友だちに会ってみる!」と言っていました。

考えてみれば私も、休みの日に子どもたちと過ごすことで彼らとの分人を大きく保つことが出来て、一石二鳥かもしれません。


普段は読書によって得られた知見をもとに、記事を書いています。
ルーティーンに関するコチラの記事も、よろしければ。

それでは、また。



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みどり|読書のおすそ分け
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