本日の読書 #044 「後医は名医」
参考書籍:『精神科医の本音』 益田裕介
第一章 精神科医の本音とは より
後医は名医。
薬剤師をしていながら、この言葉は初めて聞いた。
でもすごく腑に落ちる表現だ。
「後医は名医」とは、言葉通り「後に診察した医者は名医になりやすい」の意味だ。
本来は「名医」というのは医者としての「ウデマエ」を指す言葉だ。
つまり「正確な診断ができるかどうか」である。
しかし、それよりも「どの段階で患者を診察したのか」ということが、結果に大きな影響を与えてしまうこともあるのだ。
これは精神科では顕著だというのが著者の主張だが、自分が薬局で働いていて、小児科医に対してもそれを実感することは多々ある。
一つのエピソードを紹介してみたい。
月曜日に子どもの処方せんを持ってきたお母さん。
処方せんに書かれていたのは、ヨクイニン。
主にイボや水イボに処方される漢方薬だ。
お薬手帳を見ると、
土曜日に他の小児科でアシクロビルドライシロップが出ている。
これは水ぼうそうなどに処方されることがある抗ウイルス薬。
お母さんは興奮気味に言う。
「土曜日に行った病院で誤診されたんです!」
「ただの水イボなのに、水ぼうそうかもしれないなんて言われて!」
「不要なウイルスの薬を飲む羽目になった!」
あ、これ、「後医は名医」のやつだ…。
とすぐに感じた。
皮膚に出た発疹が水イボなのか水ぼうそうなのかは、症状が進行しないと、どうにも判別できないことが多い。
そして水ぼうそうに効く抗ウイルス薬というものは、症状が進行する前に飲まないと効果が落ちる。
以上の条件で、最初に診た医師が「水ぼうそうだったら困るから、アシクロビルを処方しよう」と考えるのは理解できる。
なぜなら、土曜日だから。
水ぼうそうだった場合に、次の受診が月曜日になるのは避けたい。
そしてもし水イボだったとしても、抗ウイルス薬を飲むことに特段大きな問題はない。
という判断だろう。
でも、お母さんの気持ちも分かる。
お母さんにとって、土曜日の医師は「誤診をした医師」で、月曜日の医師は「適切な診断をしてくれた医師」でしかない。
一応、薬剤師としての上記見解も話して納得はしてもらった。
(医師と患者の間に立ってコミュニケーションを補するのも、薬剤師の大事な仕事の一つだ)
誰が悪いこともないこの状況に、やるせなさを感じる一幕だった。