見出し画像

「わすれられないおくりもの」

~ 絵本紹介 第1話 ~

今回、物語をつづってくれたのは、深い悲しみのケアをするグリーフケアガイドであり、産後ドゥーラの仕事をしている、水野佳さん。
佳さんの息子さん、そして佳さんが、数年前に亡くなった義理のお母さまとつながる大切な時間を、絵本と料理、を通して語ってくれました。

はじめまして。
みんなのグリーフケア、もの書き部部員の水野佳と申します。
ずっと好きで傍らにあったけれど、大人になって、特に子育てをするようになって出会い直したものの一つに絵本があります。
シンプルで短いからこそ、まっすぐに真ん中に届く想いや言葉が絵本の中にはぎゅぎゅっと詰まっていて。
嬉しい時も、悲しい時も。どんなときも、傍らでエールを贈ってくれる存在です。
私が日々を紡いでいく時に必要な勇気や元気を、いつもそーっと継ぎ足してくれる、珠玉の絵本たちを少しづつご紹介していけたらな、と思います。

*********

「わすれられないおくりもの」

★「わすれられないおくりもの」 作・絵 スーザン・バーレイ 訳 小川仁央 / 評論社

「ママ、今夜はこの絵本を一緒に読もう」
 
眠る前のひと時、一緒に絵本を読むようになってもう何年経つだろう。
日々バタバタと過ごしていると、そろそろ一人で寝て欲しいな、という想いが胸をかすめるときもあるけれど。
ページを繰り始めると、一日の終わりに、ゆたかな時間の恩恵を受けているのは、自分の方なのだということに気づく。
 
息子が「わすれられないおくりもの」を持ってくるのは、数年前に亡くなった義母に、ふと会いたくなった時だ。
 
「おばあちゃんに会いたくなっちゃったねぇ」
「うん。おばあちゃんさ、いつもやさしくて大好きだったんだ」
 
絵本を読む前に、義母との想い出話に花を咲かせる。
義母が86歳で亡くなったのは、息子が年中さんの時。
どこまでが覚えていることで、どこまでが私たちとの話の中で覚えているつもりになっていることなのかは、よくわからないけれど。
息子の中にはいつだって、笑顔の義母がいきいきと生きていて。
いつも見守られている感じをもっているのは間違いない。
だから、それでいい、そう思う。
 
森に暮らす動物たち、みなから愛されていたアナグマ。
そんなアナグマも年をとり、ある日、トンネルの向こう側へと旅立ってしまう。
アナグマの死を悲しんでいたみなは、とても大きな悲しみを抱えてしまうけれど、皆でアナグマの思い出を語り合ううちに、それぞれがアナグマとの忘れられない大切な思い出を持っていることに気づいていく。
 
モグラは、上手な切り絵のやり方を、カエルはスケートの滑り方を、キツネは上手なネクタイの結び方を。
ウサギの奥さんは上手なパンの焼き方をアナグマから教えてもらって、今ではとても上手にパンを焼くことができることができる。
 
いのち、というのはその生き物の持っている時間のこと。
アナグマは、たくさんの時間をみなと過ごして、自分のできる事を皆に教えて、いのちの移し替えをしていったのだと思う。
 
モグラも、カエルも、キツネも、ウサギの奥さんも。
アナグマに教えてもらったことをするときにはきっといつも、自分の横にいてくれるアナグマの存在を感じるはずだ。
 
息子が、この絵本を読みたくなる時に、いつも、義母の在りし日の姿を思い出すみたいに。
 
いつか別れていくことは寂しいし悲しいけれど。
でもそれは、出会ったことの証でもあるから。
生まれたら、どんないのちにも必ず終わりがあるとわかっているからこそ、
一緒に時間を過ごすことのできるかけがえのない「いま」を大切にしていきたいな、と、この絵本を読むたびにそう思う。
 
そして、アナグマのように、惜しみなく、愛を与えて、別れた後も、遺された人たちがいつでも幸福な気持ちになれるような何かを残せるような生き方をしていきたい。
 
私が義母に教えてもらった中で、特に印象深いのは、美味しい黒豆の炊き方だ。
毎年、義母がお正月に炊いてくれる、ふっくらとしてつややかに光る黒豆が、私は大好きだった。
 
闘病中酸素マスク着用になって、火を使えなくなってしまった時も、ポータブルの電気コンロで黒豆をコトコトと炊いてくれた義母。
 
いつもは、「私はもうOLDスタイルだから。若いあなたは好きにやっていいのよ」と、口出しせずに、なんでもおおらかに見守ってくれる人だったけれど。教えて欲しいとお願いすると、なんでも丁寧に教えてくれる人だった。
 
息子が義母を思い出した時、この絵本のページをめくるように、私は義母をふと思い出す時には、夜中に1人、黒豆をコトコトと時間をかけてゆっくりと炊く。
 
煮込みものをするのは、なんとなく夜が好き。
夜の、しんと静まり返った時間の中で、コトコトと音を立てる鍋。
立ち上る香りとやわらかな湯気が、一日にあったいろいろな出来事や、少しさざ波だった気持ちも優しく包んで、美味しく調えてくれるような、そんな気がする。
甘い食べ物はとくに。
甘くて優しい香りが台所にほわっと広がり、温かな思い出がゆっくりとこころを満たす。
 
宝石のようにつややかに輝く黒豆を見ながら、
「私がいつか虹の橋を渡ったら、また一緒に食べましょうね」
そうつぶやくと、どこからか、義母の明るい笑い声が聞こえたような気がした。
*********

この記事を書いている人

Kei Mizuno 水野 佳

保健師、産後ドゥーラ、2019年からはライターとしても活動開始。
言の葉の力で、「世界をいまよりもちょっと明るくちょっと幸せに」がモットー。
大切にしていることは、「センス・オブ・ワンダー」と遊びごころ。
自然の中に身を置くことが好きで、休日時間があれば森や海へ出かけて心身を調律する。

【スタンドFMにて言葉の花束を発信中】
https://stand.fm/channels/63b636467655e00c1ca3abef