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【店づくり相談室 vol.21】終わり悪ければ全てダメ

産業革命以降、それまで自然に囲まれて暮らしてきた人々は、人工物に囲まれて暮らすようになりました。この200年間で人類は幸せになっているのでしょうか。命の質はどう変わっているのでしょうか。空間というものは、人間の知覚や五感にどのような影響を与えているのでしょうか。


Well-beingの指標

幸せというのは、Well-being(良さの本質)と言葉で表されていますが、その指標はあまり知られていません。測定法は、『生活の評価をスコアリングする』方法と『体験を聞く』という方法があります。具体的には、世界標準となっている<ポジティブ体験>と<ネガティブ体験>を聞くという方法です。具体的な評価項目はここでは省きますが、総じて<生活の質>についての自己評価が高い国には、北欧のフィンランド、スェーデン、ノルウエ―、デンマークなどの国が連なっています。<ネガティブ体験>が極めて低いのが東アジアの日本、台湾などの国々です。日本は、<生活の質>という世界幸福度ランキングでは、143カ国中51位とG7の中で最も自己評価が低い一方で<ネガティブ体験の少なさ>でいうと世界トップ10に入ります。<ポジティブ体験>が多いのは、ラテンアメリカのパナマやコスタリカといった国々です。このように指標によってどこの国が強いかは異なっています。

ネガティブを取り除く国日本

日本は世界的に見てもネガティブ体験が少ない国です。『ポジティブを創り出す』というよりも、『ネガティブを取り除く』ということが重視される傾向にあります。例えば、子供の成績を例に挙げると、中国や韓国、日本などの東アジアの国々の親は、子供の成績が悪い教科が気になります。一方で、アメリカやメキシコ、カナダなどのポジティブ評価が高い国々は、悪い科目は気にせず、成績が良い教科に着目します。ポジティブを伸ばしたい国々とネガティブをなくしたい国の評価の違いです。体験と評価を同じ土俵で比較するのはとても難しそうです。

終わり悪ければ全てダメ

『体験を評価』する際には、最後の体験が大きな影響を及ぼします。例えば好きな人と1日楽しくデートしたとします。体験としてはとてもポジティブなものです。でも、最後の3分で喧嘩すると、その日のデートは最悪だったという評価になります。1日の中で8時間一緒にいたとして、7時間57分ポジティブだったとしても、最後の3分でその日のデートの評価が決まるのです。「終わり良ければ全てよし」という諺がありますが、裏を返せば、「終わり悪ければ全てダメ」ということになります。

『来てもらう理由』と『また来てもらう理由』

これを買い物に置き換えると、お客さまがお店を出る時。例えば、コンビニ業界でも『いかに来店してもらうか』という仕掛けはたくさんつくっています。雑誌を置くに始まり、公共料金の支払い代行やATMやコーヒー。最近ではスムージーなど、コンビニに来てもらう仕掛けは、やりつくした感があります。『来てもらう理由』と『また来てもらう理由』は異なっていて、また来てもらうためには<評価>が大きく影響します。決済が終わってから、店をでるまでの体験が素敵なものだと「また来たい!」という気持ちになります。コンビニはそこにまだ手を付けられていません。『来てもらうための仕掛け』しか打てていないのです。その日の買い物体験が良かったかどうかは、会計を終えてから店を出るまでに決まります。

「ピークエンドの法則」

『人間の評価は、終わりの体験が大きく影響する』という心理学の知見を知っていれば、『買い物を終えたお客さまが店を出るまでの仕掛け』を重視します。例えば、先日行った居酒屋では、お通しに出てくるキャベツに付けるミソ(これが旨い!)をお会計の後に「これ、お土産です。次回いらしたときに瓶を出していただいたらまた詰めますから、また来てくださいね。」と言って瓶詰をいただきました。思いもよらなかっただけに、ほんのちょっとしたことですが、大変感激しました。店を出る時に渡すのは、最後の体験が『また来てもらうため』の評価に影響することを知っているからです。ディズニーランドでもパークで得た体験価値を記憶に留め、また来てもらうために、お土産を出口付近で販売します。購入者は、後日、そのお土産を見るたびにパークでの楽しかった思い出や感動を想い出し「また行きたい!」という気持ちになるのです。さらに、ディズニーランドは、入る時は緩い上り坂、帰る時は下り坂になっています。これも、夢の国から気持ちよく帰っていただくという<ピークエンド>を支える施設設計面での施策のひとつです。

User ExperienceとUser Evaluation

評価には、最後の体験<エンド体験>が大きく影響します。そしてもう一つ大きな影響を及ぼすのが<ピーク体験>です。ネガティブなことを体験した後に、ポジティブなことがあるとピークが作られやすい傾向があります。だから、敢えてネガティブをつくるということは、評価を高めるためのピーク体験をつくるためには重要なことなのです。店に入ってから出るまで、全部が良い体験だと、結果として然したる高評価にはつながりにくいのです。高い評価には揺らぎが必要です。<ピーク体験>を店の中でいかにつくるか。そして<店を出る時の体験>をいかにつくるか。これが『また来たくなる理由』になるのです。

『来たくなる理由』をつくるには、単発の体験を作れば良いでしょう。でも、『また来たくなる理由』をつくるためには<エンド体験>をつくることが重要です。User ExperienceとUser Evaluationは全然違うものだということです。『最高の買い物体験』をしていただくために必要なことは<ポジティブ体験>と<ネガティブ体験>を折り混ぜて気持ちの『揺らぎ』をつくること。『体験評価を高める』ためには<ピーク体験>を最後につくることが重要なのです。

店づくり相談室は、行動経済学に基づいて体験価値を高める目に見えない揺らぎ伴う店づくりのヒントを提供します。


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