【店づくり相談室 vol.1】ブランディングとアートとギフトと
ブランディングにおけるアートの役割
2023年1月、世界的アーティストである草間彌生の巨大人形がフランス・パリのシャンゼリゼ通りにある<ルイ・ヴィトン>の旗艦店に現れ世間を驚かせました。店舗の外壁にはドットのデザインが施され、巨人化した草間彌生が店舗の上から中を覗き込んでいるようでした。
(2023年2月13日撤去済)
時を同じくして、米ニューヨーク5番街(Fifth Avenue)にある店舗では、ショーウインドーに絵を描く草間彌生に似せたリアルなロボットが登場し、道行く人々の目をさらいました。
また、東京・青山の表参道店では、ルイ・ヴィトンと草間彌生の新たなコラボレーションの世界観を体験できるポップアップストアが開催されました。今回のコラボレーションを象徴するドットで覆い尽くされた、その外観だけでもインパクトは大きいのですが、店舗内にはメタルのミラーボールが無数に配置され、ドットのデザインと相まって、無限に広がるかのようなアート性溢れる店舗空間を演出していました。
また、1階と2階を貫くような草間彌生のスカラプチャーは、思わずカメラを向けたくなるような存在感を放ち、驚きと感動、そして強い没入感が得られる世界観を象徴しているようでした。
消費者体験における関係性
ブランディングにおけるアートの役割が年々大きくなってきた背景には、アートが私たちの生活の中に溶け込んできたという市場の変化と同時に、情報伝達の変化、及び消費者の価値観の変化に伴う消費行動の変化があります。カスタマージャーニーにおける消費者体験の中では、SNSを通じてユーザー同士がさまざまなコミュニティサイトで関係性を持つことができるため、消費者一人ひとりの体験が情報伝達の大きな価値を生み出します。また、日常的なカスタマージャーニーと非日常なものは、体験としては異なる旅となり、分けて考える必要があります。「どのような製品やサービスを提供するか」ではなく「どのような体験をデザインできるか」という発想が高い付加価値を生み出します。
価値観の変化に伴う消費行動の変化においては、“共感消費”と“意味消費”が顕著になってきました。アート性あふれる店舗空間に足を踏み入れた消費者は、ブランドの世界観に没入し、高揚感を高めます。そこに展開されている商品の品数は多くなくても、五感で感じる世界観が消費意欲を高め、ブランドスタイリストと交わされるコミュニケーションでは、商品がつくられた背景やこだわり、ストーリーだけでなく、スタイリスト個人のライフスタイルにまで話は及びます。そこで交わされるコミュニケーションこそが、個人と個人との関係性をつくり、共感という感情を生み出します。それは、信頼という感情となり、「この人が勧めてくれる商品なら」という“共感消費”につながります。
「ブランドに対する信頼」と「個人的な信頼」が掛け合わされ、「限定商品という希少性」が購入意欲を煽ったかたちです。これは「消費に値する商品(サービス)である」という<真価>と「そこで感じた想いや心に響いた想いを誰かに伝えたいと思う気持ち」が沸き起こる<心価>となり、消費に値する商品であるいう判断を生み出します。
“意味消費”には、エシカルやサステナブルという意識が働いています。機能や価格は基本機能です。自分の消費が誰かの負になっていては、消費の価値はありません。生産者のこだわりやスタンスが購入の条件として重要になります。「その製品はどのようにしてつくられているのか」という裏付けです。「サステナブルな社会の実現を目指した製品であるのか。」「自分の消費は社会貢献に役立っているのか。」2011年の震災以降に目覚めた「貢献」という感情や、コロナ禍で「自分が贔屓にしている飲食店を助けたい」という“思いやり消費”もこの“意味消費”にあたります。
環境問題の解決や社会課題の解決への関心が高まり、消費の在り方もエシカルで社会貢献型・共感型・共有型・RE型に大きく傾いています。今売れている商品は、2階建て構造になっていて、例えば食品であれば、おいしいのは当たり前で、それが「フェアトレードである」とか、「地産地消である」とか、スニーカーであれば、軽くて履きやすいのは当たり前で、「リサイクル素材を何%使っているのか」といった自分の信条やライフスタイル、あるいはライフスタンスに合致する消費行動をとるようになっています。
人の本能としてのギフト
人間にはもともと「誰かのために役に立ちたい」「貢献したい」という本能があるといわれています。これこそが人と人を結び付ける源泉であり、人が人である所以です。
人は贈り物を選ぶとき、「記念に残るもの」や「希少価値の高いもの」「驚いたり、喜んだりしてもらえるもの」「笑顔や元気、勇気を与えられるもの」など、あれこれと想いを巡らせます。この「相手のことを想う時間」が最高のギフトです。ギフトは人と人とのつながりを強くし、ポジティブな思考に導きます。
心理学では、人間の健全な状態の促進を学問領域とするポジティブ心理学という分野があります。ポジティブ心理学の創設者で米ペンシルバニア大学の心理学者であるマーティン・セリグマン(Martin Seligman)教授は、心理学の領域でPERMAモデルを提唱しています。これは、P(Positive emotion/ポジティブ感情)、E(Engagement/物事への積極的な関わり)、R(Relationship/他者とのよい関係)、 M(Meaning/人生の意義の自覚)、および A(Accomplishment/達成感)を表しています。
ブランドがアートを取り入れるのは、テーマ性を持ったMDで販売促進に効果を上げるのはもちろんですが、時流を反映した情報発信装置としての店舗機能を高め、消費者との関係性を強めると共に新客を創造する、まさにポジティブ心理学を応用したマーケティング手法であるわけです。
ルイ・ヴィトンは、2023年3月31日から草間彌生とのグローバルなコラボレーション企画の第2段を展開しています。第1段のドットのデザインに続き、第2段では、草間彌生が強いこだわりを持って描き続けている「フラワー」をはじめ、「フェイス」、「パンプキン」がデザインされたアイテムを発売しています。これを記念して、4月4日から、ルイ・ヴィトンLINE公式アカウントに友だち追加すると、期間限定のスペシャルLINEスタンプ8種が無料でダウンロードできるという企画を行っています。カラフルで遊び心溢れる動くLINEスタンプは、ルイ・ヴィトンファンとの関係性強化みならず、将来の顧客開拓にも機能しているようです。
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