『目食帖』(もくしきじょう)
昭和初期の「貰い物図鑑」
先日資料を調べていたら、明治から昭和初期にかけて活躍した斎藤松洲という日本画家が残した昭和初期の「貰い物図鑑」 というものがあることを知りました。これは、明治42年から昭和初期にかけて25年間にわたり、到来した贈答品を記録したもので、俳画(俳句を賛した略筆の淡彩画や墨画)で描かれています。
そのうち食べ物を描いた画譜『目食帖』(もくしきじょう)が、贈り主や日付に加えて、いかにも俳画家らしい「絵を添えた写生帖」として残っていました。その数なんと65冊。絵の点数は12,000点にも及び、果物や野菜、干物、そして当時、贈り物として定番だった菓子の数々が、墨と淡い色彩によって描かれ、その名の通り「目」で贈答品を味わうことができるのです。
その存在が判明したのは、なんと作者の没後50年も過ぎた昭和の終わり。遺族からの相談を受けた洋画家の斎鹿逸郎画伯によって編集され「目食帖 斎藤松洲=幻の写生帖」として1990年に発刊されました。
贈り物は「アート」
この画譜「目食帖」(もくしきじょう)は、美術的な観点でも貴重な作品ですが、食文化、贈答文化の観点からも重要な記録です。贈り物の数からも相当に交際の範囲が広かった方だと推察されます。品目も記事によるとコーヒー、チーズ、パイナップルなど、当時まだ稀少だったと思われる食べ物や各地の名物や特産品などを網羅しています。
贈り物のうち、約半分はお菓子です。昔からお菓子は贈り物の定番だったのですね。その他には、漬物などの保存食品が約2割、生鮮食品がおよそ2割弱です。
それにしても、広い交友関係から贈られた多数の贈り物が、一つひとつこれほど丁寧に描き記されているなんて、贈った人も冥利に尽きることでしょう。
贈る好意を感謝の心で受け止め、その度ごとに筆を取った松洲の人柄がしのばれます。
「目食帖」を通して「ギフトはアート」になりうると感じました。
一般社団法人ギフト研究所
代表理事 山田晴久