【映画感想】「東京喰種S」と美味しい命
※ネタバレありです。
人間に限らず、生物は別の生命を食べないと生きていけない。「肉を食べるなんて動物が可哀想だ」なんて叫ぶ人もたまにいるが、それは人間が生態系の頂点にいるから出せる理屈だ。他者に喰われる心配をしなくて済むから、捕食対象に情を向けられる位の余裕ができているのだ。
以前「天気の子」を観ると言ったが、色々あって「東京喰種S」を観る事になった。人気漫画の実写版の続編で、主人公であるカネキを狙う敵との戦いを描いたものだ。続編だけあって設定の説明は最小限に留められているため、前作の視聴が大前提となっている。
この映画の最大の見どころは、ポスターでも存在感を放っていた松田翔太演じる「月山習」だろう。原作でも中々に気持ち悪いキャラであり、たびたび見せる奇行はギャグに見えてしまう程だ。実際、アニメ版ではギャグとして描写されている。
では、今回の実写版ではどうかと言うと、これがもう最高に気持ち悪い。巧みな演出と松田翔太の演技が合わさる事で、決して笑えない気持ち悪さが出ているのだ。原作でも月山は敵として初登場したため、シリアスな方向に舵を切った判断は正しいだろう。
また、トーカ役の俳優が変わった事に当初は不安感こそ抱いていたが、それも杞憂だった。前作より刺々しい雰囲気になっているが、穏やかな心境でなかった今作のトーカの心象にマッチしている。アクションシーンでしっかり動けていた所も評価点だ。
一方で、主人公であるカネキの出番は前作と比べれば控えめである。しかしながら、要所要所で見せる熱演により十分すぎる程に印象に残っている。中でも、月山に腕と脚をへし折られるシーンは悲痛の一言だ。月並みな言い方だが、見てるこっちまで痛くなる。
前作で印象深かった戦闘シーンだが、派手さは薄いが堅実な格闘戦は見ごたえのあるものに仕上がっている。しかし、ワイヤーアクションを多用しすぎではないか?と思う時もあり、そういった面では総合的には前作に軍配が上がる。もっとも、前作と今作では話のスケールも舞台も異なるため、仕方ない話ではあるのだが。
全体的にこじんまりとしているが、原作と著しく乖離もしていない良い実写映画というのが個人的な評価である。ただ、喰種レストランについては原作に寄せてほしかったというのが正直な所だ。リアリティを優先すると実写版のように醜悪さが強くなるのが仕方ないのだが、もう少し上品さを含めてほしかった。
……それにしても、この時期に「ヴィーガンのモモ肉のソテー」というのは中々趣味の悪いジョークだ。
食物を愛する事ができるのか
前作では、人と喰種のハーフになってしまった主人公を通して、両者の在り方を描いていた。そしてその続編となる今作では、捕食対象である筈の人間達に向き合う喰種達を描いている。
人間の親友を持ち、彼女との関係に苦悩するトーカ。人間の恋人に自分の正体を知られ、しかし受け入れられた錦。そして、基本的に人間を食材としか見ていない月山。三者三様の喰種達がカネキと関わっていく事で、物語が進んでいく。
喰種の価値観からすれば、正しいのは月山だろう。人間だってこれから食べる動物や植物の尊厳を考える事は滅多にないし、そんな事を何度も考える人がいたら笑われるのがオチだ。喰種達もまた、人間と同じ理屈で動いているに過ぎない。
喰種レストランで人間を解体するシーンが出てきたが、あれもレストランにいた喰種にとっては残酷な場面ではない。対象が人間になっているから醜悪になっているだけで、人間も似たような事をしている。事実、監督もインタビューで「マグロの解体ショーみたいなもの」と話していた。
そうやって考えると、今騒ぎを頻繁に起こしている過激派ヴィーガンの気持ちもなんとなく読み取れる気がする。思うに、彼等は家畜を人間のように見てしまっているのではないか。彼等にとっては、スーパーの精肉コーナーが人肉の列に見えているのかもしれない。
けれども、喰種が人間を食べないと生きていけないように、大抵の人間は肉を、他者の命を食べないと生きてはいけない。食事とはつまり命を食べる行為なのは、万人が心しておくべき事実だろう。これから食べる命について考えるのを止めれば、命の価値を忘れてしまうのだから。
しかし、だからと言って一般人の食肉を糾弾するのはやはり良くない。過激な喰種はCCGに殺害されるのと同じく、過激な思考で暴れればネットで袋叩きに遭うのは目に見えている。第一、静かに暮らしている真っ当なヴィーガンにも迷惑だ。
閑話休題。
ラストシーン、ピエロの仮面を取り外す二福旧多と、語られる「竜」の存在。原作では無印の数年後を舞台とする「;Re」で登場したワードだったが、もしや続編では早くも彼が動き出すのだろうか。かの新田真剣佑を起用したのだから、続編も撮影されると信じたい。
……後から知ったけど、依子役の人って「天気の子」のヒロイン役やってたんだなぁ、ビックリだ。
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