5-(1) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その1):河川脇の用地の活用
〇はじめに
東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ貯水量30万立方メートルの巨大なトンネル式調節池です。
地下トンネル式のため建設工事には、シールドマシンという高額な機械が必要となります。このため地上に作る調節池と比較して建設費はとても高額になります。2024年7月23日開催の専門家委員会の資料によると、この事業の事業費は1310億円が必要とされています。また、地下構造物のために維持管理にも多額な費用が必要となり、完成後は毎年6.5億円の維持管理費用が必要とされています。
〇 石神井川上流域では河川脇の用地が活用可能
たしかに、トンネル式地下調節池の建設は、「断面を拡幅して流下能力を確保することが、経済的にも用地取得の上でも困難な状況の下」では、治水対策の有力な候補と位置付けることができると思います。
しかし、Note 1で説明したとおり、石神井川上流ではこれから河道整備を実施する予定です。
簡単に本事業の治水効果が及ぶ石神井川上流域の状況について説明します。説明の番号は、図で示した番号の位置を表しています。
① 南町調節池~青梅街道(西東京市)
今後、河道整備を行う区間です。河川の両側に住宅などの建物があるため、河道整備には、河川脇の用地の買収または住宅地の区画整理事業が必要と思われます。今後の事業となるため、十分な流下能力を確保するとともに河道整備と合わせて河川脇の地上部に小規模な調節池を建設することは可能と思われます。
② 青梅街道(柳沢橋)~東伏見通り(西東京市)
現在、河道の整備を行っている区間です。この区間は東京都による河川整備事業および東伏見公園の拡幅工事のため、既に用地買収が完了しています。このため、十分な流下能力を確保した河道に改修することに加えて、地上または地下に調節池を建設することは可能と思われます。
③ 東伏見通り~武蔵関公園(西東京市)
既に河道の整備が完了している区間です。川幅が急に狭くなっている溜渕橋(武蔵関公園の西側)の箇所の他は川幅も広く、実際には65ミリ程度の降雨では溢水のリスクはないと思われるエリアです。100ミリ降雨時を示した図1では河川の北側に広く浸水予想エリアが着色されていますが、多くが護岸より低いグラウンドです。
④ 武蔵関公園~武蔵関駅の下流(練馬区)
今後、河道が整備されるエリアです。既に本立寺橋から下流側は、河川事業が認可されています(事業認可期間は、2029年まで)。弁天橋(武蔵関公園東側)から本立寺橋までの区間は、事業認可の取得に向けた測量作業が終わっています。
このエリアは、隣接する西武新宿線の立体交差化事業(着手済)および武蔵関駅周辺のまちづくり(区画整理事業)と合わせて、地域が大きく変わります。今後の河川改修事業と合わせて、河川脇に日常はオープンスペースとして区民が利用可能な調節池を建設することは可能ではないでしょうか。
上で概観したとおり、石神井川の上流域では河道整備が完了した「③ 東伏見通り~武蔵関公園(西東京市)」のエリア(口絵写真)を除き、河川整備事業が実施中または今後に行われる予定となっています。
このため、東京都は「時間50ミリまでを河道整備で対応」と説明していますが、実際には余裕を持った河道として整備を進めることは可能と思われます。
ここで「下流域を50ミリで整備しているため、上流の流量を50ミリ以上にすることはできない」という意見があるかもしれません。しかし、図2は石神井川の時間100ミリの豪雨時の洪水浸水想定区域図です。河道が整備済の中流域には氾濫想定区域が存在していないとともに環状七号線地下広域調節池の取水施設があります。このことから、上流域を実際には50ミリ以上の降雨に対応できる河道に整備しても、問題は生じないように思われます。
河道整備以外にも河川脇の用地の活用も考えられます。河川整備に伴って用地の買収や区画整理事業などが行われると思われます。河川脇の地上に調節池を設置することは、地下トンネル式調節池の建設よりはるかに安価です。また、日常は公園や広場として利用が可能な空間を河川脇に設けることは、魅力あるまちづくりを進める上でも効果的であるように思われます。
〇まとめ
石神井川の上流域においては、これから河道整備を行う段階です。河川改修事業と合わせて河川脇に小規模な調節池を建設することにより治水性能を向上させることが可能と考えられます。
河川脇に調節池を設置することは、治水行政だけでなく都市の行政との連携も必要とされると思われます。その結果、治水安全度の向上とともに良好な河川環境の創出と都市のウェルビーイングの向上が図られます。河川脇の空間の創造は、日本の新しい政策である「流域治水」の精神にも一致する施策と言えるでしょう。
(参考文献)
Note 1: 石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その3) ―護岸整備に長期間を要するエリアは限定的-
Note 2: 内水氾濫の防止も考慮した対策を検討するべき
※ 筆者は、正確で中立的・論理的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りなどがあった場合には、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。訂正すべき箇所は、訂正するなどの対応に努めたいと考えています。
また、他の拙稿も読んでいただければ幸いです。以下からリンク可能です。
・目次(「石神井川上流地下調節池整備計画」について)
7.「石神井川上流地下調節池整備事業」の残された論点:流域の浸水被害の低減に向けて