武蔵野市の土木技術者

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これまでの経緯と執筆の背景―石神井川上流地下調節池整備計画について―

〇 石神井川上流地下調節池整備事業について  東京都は石神井川上流地下調節池整備事業を進めようとしています。この調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ地下トンネル式調節池です。東京都は、石神井川の溢水防止のために30万㎥の地下調節池の建設が必要と説明しています。   〇 整備事業計画のこれまでの経緯 整備事業のこれまでの主な経緯は以下のとおりです。 令和3年12月14日~28日:都市計画案の縦覧 令和3年12月23日:第2回武蔵野市都市計画審議会 令

    • 目次(「石神井川上流地下調節池整備計画」について)

      【これまでの執筆の目次】 はじめに:これまでの経緯と執筆の背景 1.石神井川上流地下調節池の計画規模は必要か (1)南町調節池は溢水したことがない (2)上流には既に4つの調節池があり安全に治水が行われている (3) 護岸整備に長期間を要するエリアは限定的 2. 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か (1)現実と乖離した氾濫図の作成 (2)河道整備部分の便益まで計上した誤った計算 (3)マニュアルが指定する作業を行っていない 3.石神井川上流地下調節池整備事業

      • 7.「石神井川上流地下調節池整備事業」の残された論点:流域の浸水被害の低減に向けて

         石神井川上流地下調節池整備事業に、1300億円以上の事業費を投入して工事が進められようとしています。今後、国によって新規事業の採択が認められると、巨額の税金が事業に投入されることになります。また、工事が行われる周辺地域では長期にわたって環境が大きく悪化します。  筆者がこれまでのNoteで示してきたとおり、現在、計画が進められている石神井川上流地下調節池事業については、数多くの論点が残されていると考えます。事業の実施にあたっては、事業の必要性や合理性について納税者に対して分

        • 6.あらゆる関係者が協働した「流域治水」の実現を

          1. はじめに  東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ地下トンネル式調節池です。東京都は、石神井川の溢水防止のために30万㎥の地下調節池の建設が必要と説明しています。 2. 石神井川上流の治水対策について ① 本事業のこれまでの進め方  本事業は、東京都建設局河川部が中心になって進められている「河川からの溢水を防ぐこと」を目的とした事業です。その施策は「河川区域」に限られた「ハード

          5-(3) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その3):短時間で急な増水に適した対策を

          〇はじめに  東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ地下トンネル式調節池です。東京都は、石神井川の溢水防止のために30万㎥の地下調節池の建設が必要と説明しています。  しかし、Note 1で説明したとおり、石神井川上流域ではこれから河道整備を行う区間が多い状況となっています。このため、Note 2では、河道整備と合わせて河川脇の用地に、日常は公園などとして利用できる調節池を設置すること

          5-(3) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その3):短時間で急な増水に適した対策を

          5-(2) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その2):東伏見公園拡幅予定地の活用と「伏見通りアンダーパス」の冠水リスクの解消

          〇はじめに  東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ貯水量30万㎥の巨大なトンネル式調節池です。  Note 1では、石神井川上流域においては、今後、河川整備が進められるため、整備事業と合わせて河川脇用地の活用が可能であることを説明しました。また、河川脇で雨水貯留できる調節池や空間の創造は、以下の長所があることを説明しました。 ① シールドトンネルによる地下調節池より建設費が安くな

          5-(2) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その2):東伏見公園拡幅予定地の活用と「伏見通りアンダーパス」の冠水リスクの解消

          5-(1) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その1):河川脇の用地の活用

          〇はじめに  東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ貯水量30万立方メートルの巨大なトンネル式調節池です。  地下トンネル式のため建設工事には、シールドマシンという高額な機械が必要となります。このため地上に作る調節池と比較して建設費はとても高額になります。2024年7月23日開催の専門家委員会の資料によると、この事業の事業費は1310億円が必要とされています。また、地下構造物のため

          5-(1) 安全・経済的な代替案を検討するべき(その1):河川脇の用地の活用

          4-(2) 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性:内水氾濫の防止も考慮した対策を検討するべき

          〇はじめに  東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ貯水量30万立方メートルの巨大なトンネル式調節池です。  石神井川には、練馬区内に環状七号線地下広域調節池の取水施設があるため、計画中の調節池は実際には上流域の治水対策に効果を発揮する施設であると言えます。 〇1980年以降の上流域での溢水は1件のみ  しかし、Note 1で説明したとおり取水口が設置される南町調節池は1980年

          4-(2) 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性:内水氾濫の防止も考慮した対策を検討するべき

          4-(1) 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性:石神井川流域での浸水被害は内水氾濫と北区での溢水

           石神井川上流地下調節池整備事業についての河川整備計画策定専門家委員会が令和6年7月23日に開催されました。この委員会で配布された資料3のスライド4では、平成25年以降の「内水」を原因とする浸水被害が、スライド5では昭和49年以降の「外水」(すなわち河川の「溢水」)を原因とする浸水被害が示されています。2枚のスライドで、対象としている期間が大きく異なります。  筆者は、過去の水害実績の原因を正確に分析して、適切な水害防止対策を策定することが大切と考えています。このため、Not

          4-(1) 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性:石神井川流域での浸水被害は内水氾濫と北区での溢水

          3-(2) 石神井川上流地下調節池整備事業の事業評価について(その2) :近年の浸水被害は北区で発生

           7月23日に第18回河川整備計画策定専門家委員会が開催されました。既に配布資料が東京都のHPに掲載されています。  今回の委員会の配布資料では、本事業が対象とする「外水」、すなわち河川からの溢水を原因とする浸水被害の履歴が掲載されています。  筆者がNote1で説明したとおり、石神井川の上流域においては、1980年に南町調節池(12,000㎥)、1981年に芝久保調節池(11,000㎥)、1983年に向台調節池(81,000㎥)が建設され、2008年に富士見池調節池が33

          3-(2) 石神井川上流地下調節池整備事業の事業評価について(その2) :近年の浸水被害は北区で発生

          2-(3) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その3): マニュアルが指定する作業を行っていない

           これまで、「石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か」と題し、Note1では「現実と乖離した氾濫図の作成」について、Note 2では「河道整備分の便益まで計上した誤った計算」について説明しました。  今回は、東京都はマニュアルで定められた作業を行っていなかった点について説明します。 【一般に公表されているのは前回(R5.11.27開催)の委員会資料のみ】  治水事業においても費用便益分析が実施される点、この費用便益分析は国の「治水経済調査マニュアル」にもとづい

          2-(3) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その3): マニュアルが指定する作業を行っていない

          2-(2) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その2):           河道整備分の便益まで計上した誤った計算

           これまで、「石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か」と題し、(その1)では「現実と乖離した氾濫図の作成」について説明しました。  今回の(その2)では、当該事業の費用便益分析について、無害流量の設定のあり方に関係する事柄について説明します。つまり、東京都による計算は、河道整備分の便益まで計上した誤った計算となっています。 【整備の考え方】  石神井川上流地下調節池整備事業における「整備の考え方」については、専門家委員会(令和5年11月27日開催)の配布資料ス

          2-(2) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その2):           河道整備分の便益まで計上した誤った計算

          2-(1) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その1):現実と乖離した氾濫図の作成

           武蔵野市選出の五十嵐都議会議員は、2024年3月14日の「令和6年予算特別委員会」において石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析の問題について質問しています。  重複する内容も多くなりますが、筆者も土木技術者として、当該事業の費用便益分析について調べた結果を報告いたします。(3回に分けて報告します) 【費用便益分析とは】  治水事業においても調節池などの治水施設の整備によってもたらされる経済的な便益や費用対効果を計測することを目的として費用便益分析が実施されます。ま

          2-(1) 石神井川上流地下調節池整備事業の費用便益分析は適切か(その1):現実と乖離した氾濫図の作成

          3-(1) 石神井川上流地下調節池整備事業の事業評価について (その1):溢水被害の場所を考慮して議論すべき

             石神井川上流地下調節池整備事業については、令和5年11月27日に開催された河川整備計画策定専門家委員会において事業評価の検討が行われました。この委員会では、時間の制約があったためか、「便益(B)1154億円」「費用(C)877億円」「B/C 1.31」の結果のみが提示されています。(委員会配布資料)  河川整備計画策定専門家委員会は、東京都が国から事業費の補助採択を受けるために必須の専門家会議です。この専門家委員会後に都が国に申請を行ったところ、近年、事業費が高騰する中

          3-(1) 石神井川上流地下調節池整備事業の事業評価について (その1):溢水被害の場所を考慮して議論すべき

          1-(3) 石神井川上流地下調節池は計画規模が必要か?(その3) :護岸整備に長期間を要するエリアは限定的

           本稿では、引き続き東京都が計画している貯水容量30万㎥の石神井川地下調節池の計画規模について考えます。計画中のトンネル式地下調節池は、1310億円の事業費を投じる巨大工事です。この巨大なトンネル式の地下調節池がないと、本当に石神井川の溢水は防げないのでしょうか。 【石神井川の洪水浸水想定区域】  石神井川は、東京都により下流から着実に護岸整備が進められています。 また都は、年超過確率1/100の1時間最大雨量100mmの降雨があったときの洪水浸水想定区域図を公開しています

          1-(3) 石神井川上流地下調節池は計画規模が必要か?(その3) :護岸整備に長期間を要するエリアは限定的

          1-(2) 石神井川上流地下調節池は計画規模が必要か?(その2):上流には既に4つの調節池があり安全に治水が行われている

           東京都は、貯水容量30万㎥の石神井川上流地下調節池を建設しようと計画しています。1310億円の事業費を投じる巨大工事であるとともに、立坑が設置される武蔵野中央公園の他、管理棟が設置される南町調節池(平常時は柳沢児童広場)、東伏見公園においても長期間の工事が行われる予定です。  東京都は、河川の治水のためには護岸整備とあわせてこの地下調節池の建設が必要と説明しています。しかし、すでに環七の道路下には巨大な広域調節池も出来ています。そこで、石神井川上流の調節池の整備履歴と過去の

          1-(2) 石神井川上流地下調節池は計画規模が必要か?(その2):上流には既に4つの調節池があり安全に治水が行われている