見出し画像

4-(2) 過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性:内水氾濫の防止も考慮した対策を検討するべき

〇はじめに
 東京都は石神井川上流地下調節池整備計画を進めようとしています。この地下調節池は、武蔵野市の武蔵野中央公園から西東京市の南町調節池を結ぶ貯水量30万立方メートルの巨大なトンネル式調節池です。
 石神井川には、練馬区内に環状七号線地下広域調節池の取水施設があるため、計画中の調節池は実際には上流域の治水対策に効果を発揮する施設であると言えます。

〇1980年以降の上流域での溢水は1件のみ
 しかし、Note 1で説明したとおり取水口が設置される南町調節池は1980年以降、満水になった履歴はありません。また、Note 2で説明したとおり1980年以降の上流域における溢水履歴としては、2005年9月4日に石神井台七丁目で発生した32棟の被害のみです。この溢水は、調節池の貯水量の不足が原因ではなく、河道が未整備で湾曲した狭隘箇所であったことが主な原因と考えられます。

〇上流域でも多い「内水」による被害
 一方、豪雨時には下水等の容量を超えることによって「内水氾濫」が発生します。
 Note3では、石神井川流域全体としては64%の浸水被害が「内水」が原因であることを説明しました。上流域の市区においても、2004年以降の20年間の期間に、西東京市で117棟、練馬区で776棟が「内水」による被害を受けています。両区の被害件数の比較では、「内水」による被害件数は「溢水」による被害の30倍以上となっています。
 図1は、西東京市が公表しているハザードマップです。想定し得る最大規模の降雨(時間最大雨量153ミリ、総雨量690ミリ)による浸水予想区域を示しています。石神井川沿いは地盤が低いために浸水予想区域となっていますが、河川から離れた地域にも浸水予想区域が拡がっていることが分かります。

図1 西東京市のハザードマップ   
出典:西東京市HP

〇求められる「内水」による被害防止も合わせた対策
 上で説明したとおり過去の水害履歴を見ると石神井川上流においても、「溢水」による被害よりも「内水」による被害の方がはるかに多いのが現状です。水害の防止対策の策定にあたっては、「内水」による被害を防ぐ対策も併せて考えることが大切と思われます。
 その一例を示します。図2はハザードマップの「南町調整池~青梅街道(西東京市)」付近を拡大したものです。Note4でも説明したとおり、石神井川のこの区間は河道が未整備で川幅も狭い状況です。過去に溢水した履歴はないものの、上流部においては溢水リスクは低いとは言えない区間です。

  図2 ハザードマップの「南町調整池~青梅街道(西東京市)」の拡大図    
出典:西東京市のハザードマップに筆者加筆

 しかし、ハザードマップを良く見ると石神井川沿いよりも、河川の北側の青梅街道の方が浸水深さも深いと想定されています。マップが示すとおり、青梅街道のこの区間は窪地状になっていて、過去の豪雨時にも冠水したことがある箇所です。(写真)

写真 青梅街道(西東京市)の冠水しやすい窪地

 現在の計画のままでは、トンネル式地下調節池の建設によって青梅街道の冠水リスクを改善することはできません。内水氾濫による冠水リスクを低減するためには、例えば、道路脇または道路下の下水施設を増強し、下水に集水した路面排水はその下流に排水するなどの対策が有効であると考えられます。
 幸いなことに青梅街道(柳沢橋)より下流には、河川改修事業と東伏見公園の拡幅事業のために東京都が既に用地買収を終えた広大な土地があります。この位置の地上または地下に調節池を建設し、その調節池に青梅街道に降った雨水も排水するように対策すれば、青梅街道の冠水リスクを解消することが可能です。

〇まとめ
 建設局が所管する河川の溢水対策と下水道局が所管する下水道からの内水氾濫の対策では行政の中の担当部局が異なるため、施策の推進には異なる部局の連携が必要になるでしょう。しかし、石神井川上流部においては豪雨時の水害リスクは河川の溢水より内水氾濫の方が大きいことが、過去の被害履歴からも明らかです。また、上で例を示したとおり、現地を精査すれば計画中のトンネル地下調節池のような大規模施設を建設しなくとも、河川溢水と内水氾濫の両方の水害リスクを効果的に減らす方策が存在しています。
 河川の溢水対策と内水氾濫の対策の調整の必要性については、石神井川上流地下整備事業について議論が行われた委員会でも出席委員から以下のとおり意見が述べられています。

「東京都の治水事業は内水被害と外水被害を分けて考えているが、住民から見ると浸水被害は一緒である。今後は、2020年に国交省が公表した流域治水の考え方に沿って進めていかないといけない。建設局は下水道局との調整をどのように行っているのか。」(「第18回河川整備計画策定専門家委員会」議事概要より抜粋)
 
 水害対策の原資は、納税者からの貴重な税金です。河川の溢水のみを対象とした大規模な計画ではなく、水害の多くを占める内水氾濫の被害軽減も考慮した、効率的な水害対策の策定が求められていると考えます。委員会での意見に従った対応が必要であると思われます。

(参考文献) 
Note 1: 石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その1)ー南町調節池は溢水したことがない ー
Note 2: 石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その2)―上流には既に4つの調節池があり安全に治水が行われている-
Note 3: 石神井川流域での浸水被害は内水氾濫と北区での溢水 ―過去の水害の原因を踏まえた対策の必要性―
Note4: 石神井川上流地下調節池は本当に計画規模が必要か?(その3) ―護岸整備に長期間を要するエリアは限定的-

※ 筆者は、正確で中立的・論理的な議論を望んでいます。
このため、もし上記の執筆に誤りなどがあった場合には、是非、筆者(2024naturegreen@gmail.com)までご連絡下さい。訂正すべき箇所は、訂正するなどの対応に努めたいと考えています。

また、他の拙稿も読んでいただければ幸いです。以下からリンク可能です。
目次(「石神井川上流地下調節池整備計画」について)
7.「石神井川上流地下調節池整備事業」の残された論点:流域の浸水被害の低減に向けて





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?