孤高の旅。
父がひとりで日本一周したいと言い出した。
2年前の、夏の終わり。
その少し前、父は兄を亡くした。
私の伯父である。
葬儀が終わった直後父がつぶやいた。
「天涯孤独になった。」
悲しいのは分かる。
父も母も見送った人。
でもまだ私たちという家族がいるじゃない。
と、複雑な気持ちになった。
父に天涯を付けて孤独と言わしめるものってなんだ。
✳︎
伯父は生前、山口県の蔵元で作られる地酒を好んで飲んだ。
帰省の折に私は必ずそれを供える。
仏壇を前にあれこれ心の中で唱えるのが苦手だ。
だから代わりに置いていく。
北からの香りを纏わせて。
✳︎
旅を終えた父は当たり前のように帰ってきた。
傷心旅行と呼ぶには大袈裟だったのだろうか。
わからない。
旅に出る理由を聞くのは野暮な気がした。
酔えば心中を語ってくれるだろうか。
また地酒の力を借りたくなる。
ときどき私は言いようのない感情に折り合いをつける。
気散じな旅。
そんなものだろうと、言い聞かせて。
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