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子どもたちと共に学ぶ教員

夏は暑くて冬は寒いという、四季をしっかりと体感できる盆地の京都ですが、11月も半ばを過ぎたというのに、ここ最近は、コートもマフラーもいらないような陽気が続いていて、冬に向けての肩透かしを喰らったかのような気分を感じている今日この頃。

そんな陽気ではありますが、木々はしっかりと赤や黄に色付いてきていて心地よい風に吹かれながら秋を楽しむことができるので、新型コロナの第三波など頭から抜け落ちてしまいそうなほど、なんとも穏やかな気持ちになることができます。

そんな穏やかな気分の中、あまり穏やかではないお話も含めて 苦笑。

素敵な先生との出会い

娘はIB(国際バカロレア)認定校に通う二年生。
二年生になって出会った担任の先生が、まあとても素敵な良い先生で。
もちろん、「素敵」とか「良い」とかは、それぞれの立場や各々の定義によって異なる感覚です。
それぞれの親子によって、素敵な良い先生は全く異なるものになります。

なので、きちんと言葉で表すならば、
「IBカリキュラムを学校教育法に沿うべき一条校でありながら取り入れている学校のいち教員として、目の前の子どもたちと向き合い現状をきちんと汲み取り把握した上で、最大限にそのカリキュラムの良さを活かして子どもたちと共に学ぼうとする意志のある先生」
だと、私は感じています。

そして、国際バカロレアであるやらないやらそんなことは関係なく、学校現場における先生としての大前提である、
「子どもたちが何より大好きで、子どもたちの成長が何よりの喜びで、固定概念にとらわれず子どもたちと共に自分自身をアップデートしていこうとする素質を持つ先生」
であるのです。

授業参観を通して

先日、今年度初の授業参観がありました。(今年は新型コロナの影響により、親が学校に入れる機会はこれまでゼロ)
とは言っても、親が教室に入ってしまうと密になるため、親は構内のチャペル(講堂)に入り、間隔を開けて座り、スクリーンに映し出される授業風景(教室内でサポート教員が撮影している)のライブ中継を視聴する、というスタイル。

各家庭でのオンライン視聴でもよかったのでは、というツッコミもあるかと思いますが、授業風景の視聴後にチャペルに担任が現れて、今年初の”対面”でコミュニケーションをとる(電話での会話やオンライン面談などはこれまでにアリ)、というところにわざわざ登校した意義があると思っています。

今回の授業内容というものが、「風の力、ゴムの力、磁石の力を使って自分で考えたおもちゃを作り、そのおもちゃの説明書(日本語)を作ろう」というもの。
授業の様子を見ていたら、担任の先生と共にここまで数時間かけて学んできた風とゴムと磁石の持つ作用を振り返り、そこから各自が発想したおもちゃ作りを開始。
まずは、どんなおもちゃを作りたいかそれぞれが考え、作り方や必要な材料を書き出してみる(ここまで事前授業)、そしておもちゃに必要な空き箱などの材料を各家庭から持ち寄り、おもちゃを作りながら説明書を書き直していく(ここが授業参観)。

話が少しずれますが、授業後の説明で、PYPコーディネーター(IBのカリキュラムを学校内にコーディネートする専任教員)が、
「本来ならもっともっと授業内にディベートであったりグループディスカッションが組み込まれていることが当たり前の風景なのですが、コロナ禍にあって授業内での会話によるコミュニケーションに制限がかかっているため、このように話し合いが少ない状態です。グループディスカッションに重きを置くIBカリキュラムとしては、大きな痛手を被っています。」
と。こんなところにも、ウィズコロナの影響が。

カリキュラムを活かす教員の力量

授業の視聴後に、PYPコーディネーターから、
「この授業はこの年齢の子どもたちにとって、実はなかなか難しいことをしている」
との話がありました。
<風やゴムや磁石の作用を使っておもちゃを作る>ことと、<正しい言葉を使って伝わる説明書を書く>ということを、同時に行なっている授業である、と。

前回の記事で少し触れたように、IBカリキュラムの良さの1つは、教科の枠を超えたテーマが存在し、そのテーマに沿ったCentral Idea(単元で中心となる考え)を定めて、様々な角度からそのアイディアを探求していくという、教科横断的探求学習であることが挙げられます。
今回の授業で言えば、<風やゴムや磁石の作用を理解して、実用性を持たせたものに落とし込む>という理科的要素と、<正しい言葉(表現)を選んで書き、わかりやすく正しく伝わりやすい説明書を作り上げる>という国語的要素を持ち合わせています。
これらは、本来であるなら(文科省の定める学校指導要領に沿うなら)、もう少し先の学年で行う要素の内容らしいのですが、今、目の前にいる子たちの成長具合や普段の学びの様子を総合的に判断して、担任の先生から「このような授業内容に挑戦してみたい」との申し出があったそうで、IBのことを熟知しているPYPコーディネーターと共に、今回の授業を組み立てたそうです。

そしてこの、“まずは書いてみて、作ってみて、振り返りながら書き直して、再度作る”というサイクルが、今回のような授業を積み重ねていくことで、子どもたちに身についていくという点も、とても重要なことである、と。
要するに、世の中の事業で行われているような PDCA(Plan 計画・Do 実行・Check 評価・Action 改善)のサイクルを自然と行なっているわけです。
これは昨今よく言われる<プログラミング教育>に繋がる話だそうで、<プログラミング教育>とは、C言語を操ることができるようになるとかいう話ではなく、“考えて、実行して、振り返って、改善して実行する”、その思考サイクルを身につけることである、とおっしゃっていました。

ただ定められているカリキュラムを遂行するだけではなく、IBの要素をきちんと組み込みながら、目の前の子どもたちの実情に合わせた学びを提供しようと考え実行できる担任の先生の姿勢に、感動を覚えました。
日々しっかりと子どもたちと向き合ってくれているからこそ、できる判断だと思います。

そもそも、「この年齢になったからこれを学ぶ」と定められていること自体に、私自身が疑問を抱いているので、(もちろん、国全体の教育レベルを底上げするとか、平等な教育を提供するという観点からいくと、年齢と共に学ぶ内容の大筋は必要ないとは言えませんが)今の目の前にいる子どもたちに合った「学ぶべきもの」や「学ぶ方法」を検討しトライする先生の姿が、教員としてあるべき姿だと思いました。

教員の育成が大きな課題

なぜそこまで今回の授業内容に感動したのかというと、昨年度の経験が大きく影響しています。

詳しく記載することは避けますが、柔らかく言うと、昨年の担任の先生がIBカリキュラムの良さを半減させる授業の組み立て方をされていたから。
教員暦が長く、公立小学校での経験をたくさんお持ちの先生でした。
お伝えしておくと、ここで公立の批判やその先生の批判をしたいわけではありません。
真面目さとお茶目さがあり、子どもたちから人気がある先生でしたし、子ども達との日々に一生懸命取り組んでくださっていたと思います。
ただ、人間というのは、本人に自分自身をアップデートし続けたいという強い意志がない限り、長年の経験から培った手法やこだわりは、そうそう変えられるものではないのだなと感じたのです。

教科横断的授業や探求学習の取り組みは、もちろん学校のカリキュラムに沿って行っているため、実行していると言えるのかもしれませんが、その枠組みの中での授業内容の組み立て方や子どもへの声のかけ方、評価の仕方、観点の置くポイントなど、IBカリキュラムを良しとして選んだ学校であるのに、いち教育に関心が高い親として、その先生の行う内容はどうしても納得のいくものではありませんでした。
(これはあくまで私の感覚における経験談です。各親子の価値観により感じることは違うので、納得している方ももちろんいらっしゃると思います。)

これらの経験から私が学んだことは、カリキュラムがいかに良きものであっても、それを実行する現場の先生の力量が、やはりものをいう、ということ。
そして、現状の日本の教員養成課程においては、IBに適した教員を育てることは難しい状況であること。
大学でIBからかけ離れた学び方をして世に出てきた教員が、IBの価値観を身に付けることは容易ではないこと。
私自身、教育学部の教員養成課程を出た身として言えることは、大学でのあの学び方では、IBの思考は育たない。(私の学生時代は十数年前の話なので、今の教員養成課程では、もっと先進的な学びをしていることを願います。)
教員になる人自身がそう育ってきていないこと、教員としてIBの学びを得る教員養成のカリキュラムになっていないこと、これらのことが、日本国内のIB認定校の普及が進まない大きな要因となっているのだなと感じます。
(文科省として「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」-平成25年6月閣議決定-に基づき、IB認定校を増加させる取り組みを行っています)

IBの思考を持った教員を集めること、育成すること、学校の運営側としてはとても大きな課題。
日々子どもたちと向き合う先生が、子どもたちにとっての何より大切な環境要因であることは、紛れもない事実です。
もちろん、学びの環境として、施設や設備を整えることも必要ではありますが、数字を見るのも恐ろしいほどの学費(この辺りの話はまた次回)を投資している親として、それらの予算を現場教員のアップデートに費やして欲しいと切に願うのは、私だけでは無いはずです。


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