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旅ストーリー「GTJV(3/3~随時更新)」

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あなたのために公開する、半径2キロくらいの、大切な旅の記録。 正式名称”GreatesTrip,Jum'v'oyage”グレイテストリップ/ジャンボヤージュ 書いている人writ…
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物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」18-3. shinjuku GreatesTrip Ⅸ-3

前回 GTJVー18-2  どこに行けばいいのか分からない。 生徒手帳で見た住所なんて、断片的で一瞬だったから覚えてない。たとえ覚えていたとしても、そこで会うのは違うと思う。というか会えたとしてなんていうのかわからない。 学校ならどうか。その存在としてはいる、のかもしれない。でも少なくとも、わたしが探している人は、もうそこにはいない気がする。 なにより、そうしてはいけない気がしていた。彼女は旅に出たのだから。 では、どうしよう。ちゃんとチェックしなかった事の言い訳でし

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」18-2. shinjuku GreatesTrip Ⅸ-2

前回 GTJVー18-1 「で、どこに行くの? 良かったらついていくよ」 「うん、じゃあ」  言おうとして、口ごもった。  今までのことをどこまで話したらいいんだろう。立入禁止の屋上に入ったこと、ウソついて昼抜け出していたこと。シントシンに思い入れがある事、空が嫌いだったこと。  そして、何より、屋上で出会った、詳細不明失礼旅行美少女のこと。  ええと、どう、すれば、いいんだろう。  思わず立ち止まる。ぐるぐぐると廻りかけたクランクが音を立てずに止まる。  沈黙。  心

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」18-1. shinjuku GreatesTrip Ⅸ-1

前回 GTJVー17-5  『L』と『O』の下、『V』と『E』の間。  わたしは愛の重圧にはさまれながら、雨をしのいでいる。 LOVE、といっても何かをたとえたり、形にならないものを表現したりしたわけじゃない。そうじゃなくて、文字をかたどった、高さ3mくらい、奥行きはその半分くらいの立体アート。イタリック体、っていうんだっけ、そのフォントが横書き二段で積まれている。  夕方はとうに過ぎて、白とオレンジのライトが明るく、でもピントをぼやかしながらシントシンを照らしていた。

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-5 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)-5

(前回 GTJV17−4)  シキに近づく、細心の注意を払いながら。 そろそろと一歩、二歩。シキまで2.5m、2m、1.5m、1メート  ぬちゃあ。 「そこにガムが捨ててあるよ、って言いたかったの」  反射的に右足を上げると、びいーんと地面に引っ張られる。 「うええ、なんだよこれ! ていうかこのやろまた負けたなにするんだよ!」  言いながらスニーカー裏を地面にずりずりとこすりつける。屋上にねちょっ、としたあせたクリーム色の線が引かれた。 「私は何もしてないよ。全

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-4 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)-4

(前回 GTJV17−3) ひとりでも。 私はいつだって、どこにでも、旅することができる。 そして、それを知った上で、いや、知ったからこそ私は変わらない日常に帰るのだ。結局のところ、今を変えることができるのは、自分だけ、だから。 わかってはいたんだけどね、前から。 そして遠い未来、ここではないどこかでまた、ミノルに出会うことがあるのかもしれない。その時に何度も何度も練習を重ねた、演技まじりじゃなくて、本当に心から、はじめての喜びを、伝えられますように。 だから、もうやめ

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-2 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)-2

前回 GTJV17−1 もう一度だけ、いや誤解されるのなら何度でも言うけれど、見るつもりはなかったのだ。  メモ帳には、びっしりと文章が書かれていた。 文章の固まりがあって、全ての左上に日付と曜日が書かれている。日記のようだ。  そのページは比較的最近のものみたい、前のページから文章が続いている。 (……普通ってなんだろう、自分ってなんだろうな、て思ってしまう。何が困っているわけじゃない。一応体は元気だし、学校にも行けているし、本は読めるしこの文章も書けている。叔

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-3 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)-3

(前回 GTJV17−2) 耳鳴りがするのは、血管を流れる音が大きくなっているからだろうか。  頭の整理がつかない。 見るべきではなかった、という自分で自分を裁く声が聞こえるのとは裏腹に、視線は丁寧にびっしり描かれたメモの先へ先へと進んでいく。 (……ミノルは本当にかわいいし、ものや起こったことへの感じ方がすごく真っすぐで、いい。最初はすごくつんつんしているようにみえたけれど、その中の心のたいせつなところで、世界って面白いんだ! の好奇心にあふれている。興味なさそう

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-1 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)

前回 GTJVー16-3 学園祭が近づいている。クラスのグループを問わず、大半の人たちが少しうわついている。 フツーな彼らも、木人たちも。こういうことに興味無さそうな外人部隊も、なんちゃって不良な彼らも。ワクワク感、というのが多分一番近いのだろう。  なのになぜ、わたしの心は晴れないんだ。  モヤモヤが続く、それもてんとう虫に乗っていた頃のそれとは、明らかに違う感じのものだ。どうにかしなければ、と思う。そのためにしなければいけないことも、分かっている。なのに。  

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」16-3. shinjuku greatestripⅧ-3

前回 GTJVー16-2  もしかしたら聞かない方がいいことなのかもしれない。ああ、またこの展開だ。  でも、聞かなければ多分先に進めない。どこが先なのか、ゴールがどこなのか、借りていたハーレーのバイクを返した失業少年がどこへ行ったのか。これは別の話か。  ドーデモ男が再び語りだす。 「僕は、これまでの人生に、後悔はしていない。反省、ならいくらでもあるけれど」  待て、待てったら。頭の中で謎が回る、ぐぐるぐるる、風が吹く、ごうごう、ごおお。 「かつて思っていたこ

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」16-2. shinjuku greatestripⅧ-2

前回 GTJVー16-1  目の前にあるエスプレッソダブルの残りを一気に飲み干した、劇的においしい、と同時に苦いいけれど、勢いで言った。 「わたしはあなたを許しません。エスプレッソダブルおかわりする!」  カップを割れない程度の音でソーサーに置き、またミスに気づいた。バーっぽい店って、店員さん注文聞きに来ないじゃん。  そこでドーデモ男が動いた。  次のシーンがふっと浮かんでくる。  トクラさんは平手でわたしの頬をはたいた。ぱちっという音。 「僕を恨むのは構わ

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」16-1. shinjuku greatestripⅧ-1

前回 GTJVー15-3  世界で一番、多くの人々が訪れ通り過ぎていく、ターミナルの東、地下改札口を出てすぐの場所。  一人の男が立っていた。  年齢はたぶん40代前半くらい、ダークブラウンのスーツ、白のシャツは一番上のボタンを外している。靴もブラックの丸い感じの革靴。髪型も短すぎず長過ぎず、色も薄い黒。メガネは黒ふち細めのオーソドックスな物。  ネクタイをしていない以外は一見普通のサラリーマンだ。平凡、と言ってもいい。実用的だが茶目っ気のない感じのPCバッグを肩に

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」15−3. okujyou jum'v'oyage 『破』(捌)ーは

前回 GTJVー15-2 「そうか、もしかして。じゃあ、いつもの振動音は」  いきなりシキがわたしに近づいてきた。急なことでわたしは、ナニナニナンデスカ、と戸惑うことも出来ず、視線を向けるのが精いっぱいだった。  体が、顔が、近い。そのまま抱きつかれてしまいそうな距離。  と、急に右手が軽くなる。  わたしの手からカバンがなくなり、それはシキの手元にあった。 「少しお借りします!」そのまま屋上を走り出す。  シキがカバンから物を取り出し地面にさっと置いて行く、

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」15−2. okujyou jum'v'oyage 『破』(捌)ーろ

前回 GTJVー15-1 「父と母はいるよ。でもミノルの予想は外れ。二人とも」  そう言うと、両手をわたしの前に出した。白くて細い爪もくっきりとした、美少女の手。でも爪は短く切られていて、ところどころ細かく皮が剥がれている、家事とかをする人の手だ。報われない少女が、家の手伝いをさせられたりする物語を思い出した。少女は最後は高貴な人々に救われて、ハッピーになるんだけれど。  突然右手が空を指さし、左手の指はアスファルトの床の方に向いた。 「どっちにいったのか、よくわか

物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」15−1. okujyou jum'v'oyage 『破』(捌)ーい

前回 GTJVー14-3 「都倉さん、今少し時間もらっていいかな?」   お昼休みの始まり、わたしが教室を出ようとした時に、声をかけてきた人がいる。はっきりとした声。だけど、シキほど明るくむちゃくちゃではなく、コジカさんほどパワフルかつ自分勝手じゃない。振り向かなくても何となく誰かは分かった。 「予定があるけど、少しなら平気かな。もし時間がいるなら、放課後なら大丈夫だけど」 「いや、すぐ済ませる。悪いけど少しだけ」  目の前にいる、私より額ふたつ分長身でポニーテー