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野菜ハイパーインフレ

 スーパーに食料品を買いに行く。

 「野菜、高くない?!」

 野菜を摂ること、それ即ち不健康さよなら、健康遊園地で僕と握手!なのに、これでは買いあぐねてしまう。世界に蔓延る悪や心に棲む悪魔にも勝てない。野菜さえ、野菜さえ摂れれば、あいつに勝てるのに!と悔しさの内に引き帰してきた。

 俺にプチトマトを食わせろよ!
 ブロッコリーを茹でさせろよ!
 レタスの葉っぱ、むしらせろよ!!

 今回はそんな値上がりした野菜に替わる補給源を考え出すための回である。

 まずはパック野菜。大いに頼っている。世界の物価とは無関係にあるかの如く価格変動がなく、パック野菜が高くなったら本当に世の中おしまいだと思う。ただしカット工程を途中でやめたかというほどカットが粗いときがあり、昔クレヨンしんちゃんの作画がたまに崩壊していたのと同じくらい衝撃を受ける。パック野菜の需要はやはり高いようで、かの激安スーパー、ビッグ・エーの物流倉庫で仕分けをしていた際も、パック野菜がまとまった袋を各店のカートにどかどか放り込んでいた。ただしパック野菜では腹を満たすには良いが、栄養面で劣ると思われる…

 同じく仕分け仕事で、食に疎い私は「めかぶ?イギリスでのモンチッチのことか?そりゃチカブか」などと考えながら、中が見えないめかぶダンボールを捌いていた。それからしばらくしてスーパーで3個パックのめかぶを見かけ、恐る恐る試してみたところ、気に入った。量こそ多くないが安く買え、野菜に劣らず身体に良さそうである。めかぶについて調べると新陳代謝促進、免疫向上、デトックス、血圧正常化、毛髪活性、低カロリー、他にもいろいろと効能が出てきた。お前は曲良い、歌詞良い、声良い、歌上手い、顔良い、何でもありのスピッツ草野マサムネ氏か。

 お次は「1日」という文字が刻まれた野菜ジュース。しかし私はこれしきのパックジュース1本ごときで、1日分の野菜が摂れるほど人生は甘くないと思う。要は1日分の野菜は投入したが、その分の栄養がそのまま摂れるとは一言も言ってませんが?という話でなかろうか。と、散々疑っておいてたまに飲んでいる。いまも冷蔵庫に2つ冷えている。どうか許して欲しい。野菜が摂れないなら飲まないより飲んだ方が良いはずである。

 しかし物価自体が上がっているし、農家も野菜を値上げせざるを得ない状況にとても悩まされているという記事を読み、胸が痛くなった。残念ながら私には農家を応援出来るほどの経済力がない。これまで代替案も挙げてきたが心許ない。私の野菜不足もこれ以上打つ手なし、肩を落とし夜の街を歩いていると、ある看板の前で立ち止まった。私は野菜不足の救世主をついに見つけてしまった。

 それは、モスの菜摘である。

 皆さんは菜摘をご存じだろうか?知らない人のために言うと、ハンバーガーのバンズを、いっぱいのレタスに丸ごと替えられる、モスのびっくりオプションである。野菜をたっぷり摂りながら糖質も抑えられる一石二鳥、いや美味しくて三鳥。パタパタパタ。菜摘のことをすっかり忘れていた。早速注文し、席で待っていると、やがて後方からスタッフの溌剌とした声がした。

 「こちらロースカツの菜摘です!」
 「レタス、フォーーーーー!!! 」

 食後はまるで仏の顔で「いや~、ありがたい」とあらゆることに感謝の気持ちが溢れて、悟りを開いたかのような心で家に帰ったのであった。

追伸、これを書き上げてすぐ、馴染みのモスの閉店を知る。唐突な別れの悲しさ、足が遠のいていた自責と後悔、閉店の一因となったと思われる、後から出来ていつも混んでいる競合店を、酒を飲みながら罵り続けている。

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