炒飯徒然日記
「最近何かハマってる?」
「ん~、チャーハンかなぁ」
そう答えられても反応に困るだろうが、そう答えていた。申し訳なく思うが、聞いてきたあなたにも責任はある。今回は何を隠そう、チャーハンの話だ。
まず初めにチャーハンという言葉から確認して参りたい。この気取らず、馴染み易く、“チャー”ミングで、しかし同時に男らしさまで想起させる言葉が他にあるだろうか、いいや決してない。絶妙過ぎる。英語ではFried Riceと言うらしいが、一体なにがフライドライスか。そんな呼び方ではチャーハンらしさの欠片もない。それで呼ばれたチャーハンの方も、えっ?!呼んだ?と戸惑っているだろう。呼ばれたことに気づいてさえいないかもしれない。フランス人もチャーハンとしっかり言えるよう練習しなくてはならぬ。
さて、炒(チャー)の妙(ミョー)を確認したところで、次にチャーハンの種類の話に移りたい。レタチャー、海老チャー、キムチャー、あんかけチャー、醤油を効かせたもの等、アレンジは無限にあるが、やはりシンプルな玉子チャーハンこそ至高である。これは胃袋への爆発的な推進力を持つ。
「なんとしてでも奴の侵入を食い止めろ!」
「ダッ、ダメです!!最終防衛ライン突破されます!!!」
「もはやここまでか...」
などとくだらない妄想をしながらチャーハンを口に運ぶレンゲが止まらず、一息にたいらげてしまうチャーハンを私は求めている(ちなみにスプーンは邪道。レンゲの食べづらさ込みでチャーハンを食べるという祭典である)。このようなチャーハンを食べているときの私はどれだけタックルを決められても決して走りが止まらないアメフト選手である。誰か止めてくれ、いや止めてくれるな。
目下衒いのない玉子チャーハンをググる私であったが…ここまでチャーハンを語っておいて、それほど食べているわけでもない。やはりロックンローラーはキッズのヒーローであり、それはもう絶~対にむちゃくちゃにかっこよくなくてはいけないのだ(バカボンのパパで読んで下さい)。デヴィッド・ボウイ、甲本ヒロト、ミック・ジャガー、その他よろしくである。気づけばチャーハンゾンビ化している私は、松本大洋著『ピンポン』の中でのドラゴンのセリフ、
『ヒーローなのだろうがぁ!皆を救うのだろうがぁ!!』
を思い出して自らに鞭打ち、欲望を抑えている。私もヒーローへの憧れにしがみついていたい。そんな葛藤をしながらなんとかチャーハンから足を遠ざけたとしても、世の中はチャーハンへの誘惑で溢れ返ってしまっている。「ほぅら、こっちにチャーハンがあるよぉ?」といたるところから甘い声が聞こえてくる。チャーハン病20代後半男性の症例をここに紹介する。
街で知らない中華料理屋があれば「あ、ここチャーハンおいしいかな」、ファミレスを見かければ「チャーハン、メニューにあるかな」、さらにはコンビニの前を通り「このコンビニのチャーハン、美味しいかな」、もはや街中の飲食店どこを見ても「違うんだよなぁ。俺はいまチャーハンが食いたいんだ」の始末である。セブンで「がっつり!こってりチャーハン」なんてものに出くわそうなら危険である。周囲は一瞬でホワイトアウトし、世界は“私とチャーハン”だけになる。私は発光するそれ(チャーハン)に手を伸ばし、幸福感と共に光に包まれる…とはならず、しっかり炭水化物131.2gの表示を見てしまい、世界は見慣れたセブンの店内に戻る。うっかり、がっつりと食べて、ぽっちゃりするところであった。また連れて来てくれ、とそれを元に戻すとそのまま平行移動し、『糖質0gのサラダチキン』を手に取り、粛々とレジに向かうのであった...
追伸、実はこのチャーハン話を書いてから、こうして発表するには結構な時が流れ、私も30代となった。いま読み返してもチャーハン中毒が痛々しい。いまではようやくチャーハン欲も抑え込めたと思っていたところ、つい先日「僕はチャーハン!!!」と腰を浮かせ気味に手をいっぱいに挙げ、大の大人が子供のようにオーダーする夢をみた。
やはりチャーハンが食べたい。