クリームソーダに夢を見る
年の瀬が近くなった。本棚をそろそろ整理しなきゃ。思ってはいるけれど、身体は動かない。もっと大きい本棚買えば良かったな、と本棚をだらだら眺めていたときのこと。
「星ノ舞っぽいな、って思って」
と夏頃、誕生日プレゼントに友人からもらった本が
「わたしのこと、忘れていないかい?」
と声をかけてきたような気がした。
忘れてはいなかったよ。ただ余裕がなかっただけで。
と言い訳に聞こえてしまいそうな事実をこそっと並べて、私は本を開いた。
tsunekawaさんの『旅するクリームソーダ』(ハーパーコリンズ・ジャパン、2022年)。
クリームソーダと旅をした場所の景色を記録したフォトエッセイ。
tsunekawaさんはクリームソーダを作りながら旅をしている、クリームソーダ職人とのこと。服飾人でもあり、写真家でもあり、〈旅する喫茶〉の店主でもあるという。多才な方だ。「クリームソーダ職人」ってなんだか「時の魔法使い」みたいで素敵。
クリームソーダには「モーメント」という言葉が似合う気がする。美しさに現を抜かしていると、溶けてしまうし、炭酸は抜けてしまう。白と緑がどんどん混じり合う様子は「ああ、終わってしまうな」と切なさを感じて好きであるが、やはりばっちり着飾ってテーブルに訪れてくれたクリームソーダの感動が自分の中では大きい。
tsunekawaさんの本では、クリームソーダの美しい瞬間をしっかり捉えてあげられていることが分かる。それは、もう「愛」だ。
写真家って自分の目で見たものを美しく捉えるからすごいなあと感心する。
景色とクリームソーダの調和性にまずは感動をする。「色味」ってこういうことを言うんじゃないのかい、と思った。空ってクリームソーダなんだ、と気付かされるのだ。アイスクリームを探したくなって、空を見上げるが、残念なことに今日は雲1つない快晴であった。
多分、私が夏の空を一番好ましいと思う理由って、ソフトクリームのような入道雲も影響しているように思える。結局食欲。
次に感動するのは簡潔だけれど、美しい文章。私はいつも文章が長くなってしまうから尊敬。
tsunekawaさんの本の中で「好きだ」「大好きだ」という言葉を見かけるたびに、心がぎゅうっとする。なんというか、「クリームソーダも、旅で見た風景も、そこで出会ったモノや人のことも、本当に心の底から好きで好きでしょうがないのだな」ということが言葉と旅の写真だけでもしっかり伝わってきていいなあ、と思った。
「その表現、綺麗でとっても素敵!」と思う部分はスケジュール帳のメモスペースに写して、持ち歩くことにする。メモメモ。
「好き」
「大好き」
とても短い言葉だけれど、私的にはそれで充分なんです。あとは行動を見れば分かるから。
読み終わった後には、散歩やら旅がものすごくしたくなる本だった。
私は、まだ見ることができていない景色がものすごくたくさんあって、自分の小ささにワクワクした。人生経験の足りなさに少々悔しさも滲むけれど。
まだ、やりたいことはたくさんあるし、見たい景色はたくさんある、気付けていないこともたくさんあるのだと気付かされる1冊でした。
友人よ、ありがとう。
高円寺にある〈旅する喫茶〉には行ってみたいと常々思っている。来年こそ、行けたらいいなあと表紙のクリームソーダに夢を見た。
星ノ舞