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しのちゃんとなみださん(1)

 しのはね、もう少しでお姉ちゃんになるの。あと何回お日さまが出たら、お姉ちゃんになるのかは分からないけどね、ママとパパが、もう少ししたら弟が生まれてくるよって言うの。お名前はもう決まっていてね、もとあきくんっていうの。みんなで、もっくんって呼んでいるの。
 もっくんが生まれたらね、しのはたくさんいっしょに遊ぶんだ。だっこもするし、ミルクもあげるよ。しのが幼稚園でミミ先生に言ったら、ミミ先生は、「すごいね」って頭をなでてくれたんだ。
 ミミ先生は「じっしゅうちゅう」の先生でね、しのに弟ができるころには、いなくなっちゃうかもしれないんだって。学校にもどって、お勉強をいっぱいするの、って、なわとびの時間に言っていたのを、しのは覚えているよ。
 しの、ミミ先生に絵本を読んでもらうの、好きなのにな。
 それに、しのが泣いていてもミミ先生はおこらないから好き。泣きたくて泣いているんじゃないもん。園長先生やママは、なきむしね、もう知らないからずっと泣いていなさいって、言うんだけどね。ミミ先生は、しのが、転んで泣いても、どろだんごがとちゅうでつぶれちゃって泣いても、「かなしかったね。いっぱい泣いたらいいよ。なみださんは気づいたらどこかにいっちゃうからねー」って言うんだ。そいで、片手できつねさんを作って、お鼻をぱくってしてくれるの。

 初めて、おいもほりをした日、しのはお姉ちゃんになった。その日の幼稚園のおむかえは、パパじゃなくておじいちゃんだった。おじいちゃんは、しのと手をつないで、音のなる杖をしゃんしゃんと道について、いっしょに「どんぐりころころ」を歌った。おじいちゃんはいつも、「ぼっちゃん」の歌詞を「おじょうちゃん」にかえて歌うんだよ。
 初めて、おいもほりをしたことを、ママとパパにおはなししたかったのに、もっくんが生まれたその日の夜はママとお電話できなかったし、パパも病院におとまりして帰ってこなかった。
 でも、おじいちゃんとおばあちゃんが、おうちに来て、すごく大きなハンバーグを作ってくれた。ハンバーグの上にトマトケチャップで、「しのちゃん」って名前を書いてくれたよ。
 次の日は、「しゅくじつ」という日だったから、幼稚園はおやすみだったのね。だから、おじいちゃんとおばあちゃんに、ママのところに連れていってもらえると思っていたの。ママにも、もっくんにもはやく会いたくて会いたくてしかたなかったから。
 だけど、「まだママも赤ちゃんも、つかれているからねえ」って、おばあちゃんが言ったの。つかれたときはおやすみするのがいいんだ、って、ちょっと前にパパが言っていたから、ママももっくんも、やすまないとね。おばあちゃんにおんぶされて、公園に行ったんだ。すべりだい、何回もすべって遊んだよ。
 パパがお昼におうちに帰ってきて、しのをだっこしてくれた。パパのたかいたかい、しのはすき。そのあと、しのは、おにんぎょうのミルミルのおむつをかえたりミルクをあげたりしたんだ。もっくんのおせわの練習、練習。
パパがお昼ご飯を食べながら、おじいちゃんとおばあちゃんにおはなししている。さっき、しのにたかいたかいしてくれたときみたいな、楽しそうな声じゃなくて、クレヨンの灰色みたいな色の声だった。

 「シュジイが言うには」「生まれたときのジョウタイがよくなくて」「しばらくホイクキでヨウスカンサツするらしい」

 パパの声と、おじいちゃんとおばあちゃんの「そう」「分かった」という声は、しのにも聞こえたし、ミルミルにも聞こえた。
 しのの弟は、今は元気いっぱいじゃないのかもしれない。すごくつかれているのかもしれない。

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