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シキ プロローグ「今」
あらすじ美山色はただの普通の高校生。小学生の頃は絵も上手く勉強も出来て周りからもてはやされていたが、年齢があがるにつれてその世界の広さを知り、挫折を味わっていた。さらに高校生になってからは忙しい日々の中で自分のことをするのに精一杯な生活でかつて目を輝かせて見ていた世界を見れなくなっていた。そんな中、ただの趣味でぶらりと広く小さな世界を写真に収める古都貴嗣やいつかは世界を描きたいと前を向く空知詩季と
もっとみるシキ 第一章「春風駘蕩」第一話
舞え!舞え!
違う!
もっと、こう、があーっと!
じゃあ、もう一回!
そう!こっちはこう、滑らかに!そう!そっちはもっとエレガントに!
いいよいいよ!いい感じ!
そのままラストに移ろう…!
ぐわあああっと!
最後の一音が鳴り止み、部員の顔には色々な色が映る。
「じゃあ、今日はここまでにしよっか」
部長がそう言い、終わりの手続きを始める。
「明日の練習は休みで、全体練習は明
シキ 第一章「春風駘蕩」第二話
第二話
部長はその時は涙目であったが、他の部員が来る頃にはいつもの調子に戻っていた。そんなところがこの人は凄いと思う。
その日の練習もいつものように行われた。
しかし、練習後、副部長から思いもよらないことを言われる。
「シキさ、ちゃんと曲聴いてる?」
ん?
「はい。もちろんです。」
「うーん、じゃあもっと聴いた方が良いかもね」
「え、」思わず口から出る。
「なんか、課題曲の方は私たちの言ったこ
シキ 第一章「春風駘蕩」第三話
第三話
心がやられていても頭で自覚が出来ていない。
いつのまにかそんな風になっていたらしい。
もしかしたら昨夜の諦めも、今日のイメチェンもなにか心の防衛本能から来ていたものかもしれない。
どれくらいの時間が経ったのかはわからないが、強引に落ち着かせた心と横隔膜を持ってトイレから出る。
すると、そこに部長がいた。
「シキちゃん、本当にごめんなさい。」
そう言って部長が深く深く頭を下
シキ 第一章「春風駘蕩」第四話
第四話
シキは自室に入って改めて決意を固めた。
結局自分の好きなようには曲をつくりあげられないが、部長のためなら苦ではない。
そして寝る直前まで再び曲を聴き、姿見の前で指揮棒を構える。
ダンッ!
最後の一音まで終わり、携帯の録画を止める。
みんなの演奏を録音したものに合わせて指揮棒を振っていたのだが、出だし一発目から違和感があった。
これは指揮をしながらすでに感じていたのだが、
シキ 第一章「春風駘蕩」第五話
第五話
コンクール地区予選当日。
天気は快晴。なんなら朝からもう暑いと感じている。
シキたちが予選を行う会場は少し離れた市にあるので、まずは朝学校に集合して楽器を搬出したら各家庭の車、または乗り合わせで現地へ向かう。
手持ちが厳しい楽器をトラックに積み込んだら、シキは父が運転する車に乗って現地へ向かう。
ほとんど指揮棒と楽譜しか持ち物のないシキはその軽さが余計にプレッシャーとしての
シキ 第一章「春風駘蕩」第六話
第六話
今日行われるすべてのプログラムが終了し、この地区での吹奏楽コンクールの予選が終了した。
「先輩、本当にお疲れ様でした……!!!」
シキは部長にそれを言うのが精いっぱいであった。
「いいのよ、シキちゃんは全力でやってくれたじゃない!」
かろうじて内容がわかるのは涙声でも発声がいいのか、それとも今までの絆によるものか。
もちろん、周りのみんなも。泣いていない部員はいない。
シキ 第一章「春風駘蕩」第七話
第七話
新学期になり教室に行くとやはり夏休みのあれこれの話題でワイワイしていた。
シキはクラス内に友達という人はあまりおらず、大体一人で過ごしている。
まあ別にこの学校にはそのような人は多いみたいなのでみんなからしてもただの青春の中に写る景色の一部分、そのぼやけた色でしかないわけだ。
落ち着いてその日の課題や次のテストの勉強を行う。
それに、夏休み前、一学期の半分は部室に行ってご飯を食
シキ 第一章「春風駘蕩」第八話
第八話
秋の色が深まり出した。
シキは後輩に指揮の指導をしつつ、自身もパーカッションの練習をし、他の部員も順調に曲を完成させていっていた。
シキは教室では課題などの勉強、部室では部員との打ち合わせを含む談笑の日々を送っていた。
そんな日々の中で少しだけ気づいたことがある。
今の部活は部長の発言に端を発した「楽しむ」という目標の元に動いている。
なので、指揮が画策している個人個人の技術
シキ 第一章「春風駘蕩」第九話
第九話
「あ、ごめんなさい、写すつもりは無くて…」
目の前の男性はそう言ってきた。
「ちょうどタイミングが合っちゃったんですね、大丈夫ですよ。」
「ありがとうございます。」
確かにシキが立ち上がったのと同時にシャッター音が鳴ったし、その直後に「あっ」というあきらかにミスをしたような声を出していたので嘘は言っていないのだろう。
ただ、シキには気になることがある。
「なにを撮ってたんで
シキ 第一章「春風駘蕩」第十話
第十話
「うーん、じゃあどうしよっかな、美山さん、どっち行きたい?」
「どっち?」
「うん。東西南北。」
「えー、じゃあ、東で」
「おっけー」
こうしてシキと古都は適当に東へ歩き始めた。
二人はしばらく河川敷を歩き、古都はたまに「あ、写真撮って良い?」と言ってしゃがみ込んで名前も知らない草を撮ったり、錆びた川の名前がある看板を撮ったりしていた。
そのたびに写真を見せてもらうのだが
シキ 第一章「春風駘蕩」第十一話
第十一話
シキたちの代が主催する定期演奏会は無事に部員の観客も大満足の結果で終わることが出来た。
来場者に配布したパンフレットに挟んであったアンケートではコンクールで行った「ア・ウィークエンド・イン・ニューヨーク」と「宝島」が肩を並べて一番の人気であった。
心地よい気分で部員たちは年末を迎え、年が明けた。
「あけましておめでとうございまーす」
と次々と音楽室に入ってくる部員が言う。
シキ 第一章「春風駘蕩」第十二話
第十二話
確かに地域のチャリティー演奏では新しい曲を行わないので改めての練習は要らない。とはいえシキの提案がここまで盛り上がるとはシキも思っていなかった。
この日の部活はシキの提案の実でお開きとなり、作曲に参加してみたい人は次の練習までに色々と考えてもらうことになった。
シキは次の部活までの間、家であれこれと考えた。
部員のみんなのやりたいことをやってほしい、それが今の部活の最高の形と
シキ 第二章「夏雲奇峰」第一話
第一話
夏のコンクール予選の自由曲に向けて作曲の計画が始まり早数か月が経ち、シキたちは高校三年生になっていた。
「あーーーー、ほんっっっとうにどうしよ」
シキは音楽室の机で項垂れていた。
「流石に今の段階でこれだと困りますね…」
目の前の川井さんも俯きがちになる。
シキたち吹奏楽部は曲を作ることに決めてから当然色々と話し合いを重ねた。
しかし、テーマや曲の雰囲気決まれど肝心の主