ミュージカル『SIX』初見の感想(2025/2/1マチネ) 「離婚と打首ライブツアー」の“あと5分だけ”を忘れないで
いやーーーー素晴らしかったですね!
来日版は都合がつかず観劇できないまま終わってしまったことが悔やまれるけど、私にとって今回が初『SIX』でした!
140字にまとまらないので逃げてきちゃった!仰々しくnoteの形を取ってしまったけど、内容はXの延長だし、考察とかではないです。プログラムもまだ全ては読めていない。勢いのまま書いた、とにかくほとばしる気持ちの言語化なので、お気軽に読んでいただけたら嬉しいです!ただ、後述する最後の項目は、読み手を選ぶ内容かもしれません。
※結末の内容に触れています⚠️
1.歌唱力と悲劇性を武器に戦うQueen達
ヘンリー8世の6人の妃達で結成されたバンドの中で、誰がバンドリーダーを務めるかを競うというストーリー。その競い合う内容は「誰が1番酷い目にあったか」!
私が観劇した回のQueen達は次の皆さん!
キャサリン・オブ・アラゴン/鈴木瑛美子さん
アン・ブーリン/皆本麻帆さん
ジェーン・シーモア/遥海さん
アナ・オブ・クレーヴス/菅谷真理恵さん
キャサリン・ハワード/豊原江理佳さん
キャサリン・パー/和希そらさん
開幕2日目に初日を迎える皆さんの回であり、そして個人的にTHE・思い入れのあるキャスト大集合回でした。
大好きすぎる『ムーラン・ルージュ!・ザ・ミュージカル』でWキャストでラ・ショコラを演じた瑛美子さん真理恵さんを同時に拝見できること。衝撃的な出会いとなった2023年の『ラグタイム』でサラを演じた遥海ちゃん。何度も観劇した2022年の『ファンタスティックス』でルイーザを演じ、忘れられない『Play a Life』にも出演されていた江理佳ちゃん。そして宝塚時代に何度もその勇姿を拝見し、男役卒業後の『9to5』でも確かな存在感で心を掴んでくれたそらぴ。ミュージカルオタクとして、というより自分自身の観劇歴にとてもリンクするキャスト大集合で……麻帆さんだけおそらく初めましてだったと思うけど、衝撃的なブーリンだった!
大集合の推しメン達の幕開きからめちゃくちゃ泣いてしまったよ!Ex-WivesからラストのThe MegaSIXまで、比喩でなく80分泣き続けてた。
2.競い合いつつ、一緒に作る舞台
観劇しながら脳裏をよぎったのは、昨年の『カムフロムアウェイ』。12名の出演者が、細かいパートを紡ぎながら一曲を歌いきったり、シンプルなセット上で自分達で小道具を動かしたり体形を変えることで場面転換のように見せたりと、忙しなく動き回りながらも「自分」ではなく「次の人」のセリフや演技のために、まるで物語の歯車の一つのような役割として動いていたのが本当に印象的。今回のSIXも、皆でちょっとずつフレーズを歌い紡いだりセリフを分け合うことによって物語を作り出してるし、1人のQueenのソロ曲の間は他の5人のQueenやコーラスやダンスに専念。
Queen達がバンドリーダーの座をかけて競い合う設定とはいえ、どの曲も1人で成り立つ曲ではなく6人だからこそ成り立つ曲だし、ワンマンショーではなく6人のQueenと侍女達(バンドの皆様)で一緒に作る舞台なんだと気づいた時も、その衝撃で涙腺がほろほろ。そして、まさしく「ミュージカル」だなと思ったのは、セット転換がない演目なのに各Queen達が辿ってきた光景や心情を思い浮かべることができること。それは歴史の授業のように歌いながら過去説明してくれたからでもあり(だからこそ歌詞の聞き取りやすさは超重要で、このメンバーがQueenに選ばれた理由がとてもよくわかる演目だったと思う。キャスティングの説得力が強くてね)、照明の使い方ももう本当にツボでした……好きすぎる……Haus Of Holbeinでマッチングアプリのごとく肖像画を選ぶシーンとかね!
あと!1月の『芳雄のミュー』出演時、稽古が始まったばかりで皆でビリーズブートキャンプをされてるとソニンさんが仰っていたけど、先述した通りQueen達は自身のソロ以外でも歌いまくり踊りまくりステップ踏みまくりなので運動量が半端なくて!あの時伺った体力作りはこのパフォーマンスに繋がっていたんだなぁと理解してグッときて、また鼻の奥がツンとした。
3.Queen達の嘲笑と痛み(キャストごとの感想)
ライブ形式でブチ上がろうぜというテンションから、これまでの仕打ちに伴う痛みに向き合い、そして自分自身とも向き合い肯定していくまでの過程がね……本当に素晴らしすぎて、この感動を形容する言葉が見つからない。
全員優勝してるんだけど、特筆したいのが瑛美子アラゴン!ほんっっっとうにかっこよい……意志強めでなぜ自分がヘンリーに追い出されないといけないのかと不服な気持ちをパワフルな低音ボイスで炸裂させる時の劇場がビリビリする感じがたまらない。これまで拝見した『ベルベル・ランデヴー』や『ムーラン・ルージュ』ではあまり踊っている印象のない役だったからか、ステップ踏み続ける軽快さと高身長のスタイルの良さ、そして強い衣装とウィッグがめちゃくちゃに似合う!もう最高。素敵すぎた。舞台写真ください……
麻帆ブーリン。自撮りしながら舌出しで煽る段階からもうその様子のおかしさが存分に伝わってきて、可愛さとひょうきんさの裏側にある「強かさ」を愛したくなるキャラクター!思えば、カテコでQueen達が自撮りする時にブーリンがカメラマン役を担ってたのは本編でこの演出があった故かな。首をちょん切られたことを何度もアピールし、嘆くというよりももはやそれがアイデンティティのようでもあって愛おしかった。
Mega SIXでアラゴンからブーリンに歌い継ぐ時、この回は瑛美子アラゴンと麻帆ブーリンがグータッチしてたけど、キャストの組み合わせによっては2人でハート作ったり背中合わせでポーズを決めたり色々なんだね…?というのを皆さんがXで投稿されている動画をありがたく拝見しながら考えてた。アラゴンは勿論ブーリンに対しては敵意剥き出しの本編だけど、MegaSIXでようやく2人が手を取り合えるような演出がとても良い。
遥海シーモアが歌い上げるHeart of Stoneも、本編の潮目を変えるような効果的な大ナンバーだったな。「でも自然死でしょ?」ってハワードに煽られていたけど、彼女には彼女なりの苦しみがあったわけで、ノリノリの楽曲が続いた中こういうゆったりとした旋律に乗せて歌い上げる遥海ちゃんが本当にさすが。そして彼女のコケティッシュな魅力も炸裂してて、どこから出てるのかわからないような奇声(?)で突然他のQueenを煽るのも可愛すぎた。12月の『Songwriter's SHOWCASE』で拝見した、歌唱後にしれっと額に収まるモナリザを思い出す要素もあって。歌唱中は自分の気持ちを解放するシーモアだけど、歌唱後は元のポジションに戻って他のQueen達へやじを飛ばすのも愛おしくてね……
「妃たるもの、こうあるべき」と分からせてくれたのが真理恵クレーヴス。これまでのQueenとは一線を画すような存在感が特別だし、クレーヴスだけ唯一衣装チェンジがあるのももう最高!Get Downのラスト、「クイーンは私なのよ」の歌詞に合わせて見事な音ハメで真理恵クレーヴスが玉座に腰掛ける演出も好きすぎたな……鼻ピアスまで似合いすぎてて、全てのアイテムを自分色に染める行き届いたカリスマ性は、さすが真理恵さまでした!
悲劇を嘲笑するじゃなくて、他のQueenにない自身の魅力でマウントを取り、そこに痛みを隠せないのが江理佳ハワードで、All You Wanna Doでリップ音とため息を完璧なリズムにハメて隠語だらけの歌詞をノリノリで歌ってくれる中、「ヘンリーと結婚したわ」の後の気の抜けた「やった〜🙃」から様子が変わっていく悲痛な展開は思い出すのも辛いものがある。歌唱後の照明の演出も怖かったな。4度あるサビの中で、シーモアとパーがハワードの肩に毎回手を置いてくれてたけど、それは味方として手を差し伸べていたのか、それとも性的に搾取されてきた男性陣との距離感を象徴するようなものだったのか。後半になるにつれて後者のように感じてゾワっとしたし、曲の終盤では他のQueen達がハワードの脚を一斉に触るのも、胸糞悪さを表すには最適な演出だよね……と、最低な感情とその表現方法への感嘆との間で揺れ動くような時間だった。江理佳ちゃんの可憐さと芸達者具合が光るハワードだったな!
Queen達の衣装はパーだけがパンツスタイルだけど、他の5名はスカートの丈が微妙に違ったり、どこまで布で覆われてるかも違うし、その意味を深く考えたいような、できれば考えたくないような、そんな気持ち。それでも、どのQueenも甲冑のように見える衣装なので、ヘンリーと過ごした時代にはあり得なかった武装でライブに臨んでくれているという状況は救いだ。
そして、バンドリーダーの座を争う流れを180°変えるのがそらパー。「お涙頂戴ならあげるわ」という感じのセリフが最高でしたわ……I Don't Need Your Loveは相当難曲だと思うけど歌い上げちゃうのがさすがだし、音域が広い曲なので、元タカラジェンヌとか元男役とかそういう肩書きを凌駕するような歌唱力を思いっきり堪能できて、和希そらはどこまで行くんだろう?ミュージカル界でどれだけ爪痕残すんだろう?とこれからが楽しみでしかないよー!
そらぴ、まさに「水を得た魚」のような大活躍具合の今作で……歌で魅了し、ダンスで客席の目を逸らさせないほど惹きつける。そしてMega SIXの「Are You Ready?TOKYO!行くよ!」で思いっきり客席を釣っている様子が私の動画にも残ってて嬉しい限り!ロングポニテのウィッグが翻る可憐さとパンツスタイルというギャップもとても良い。
思えばパーだけパンツスタイルで他の5名と違ったのは、「ヘンリーの妃」で終わらないことを目覚めさせる役割があったからなんだろうな。
4.“あと5分だけ”(「離婚と打首ライブツアー」から「6人の存在証明」へ)
日本キャスト解禁後に公開されたこちらの動画を何度も再生しながら、ところで5分後に何があるんだろ?ってずっと思ってたんだけど、本編終盤のパーが呼びかける(超ニュアンスです)「ショーは後5分あるから、今までのこと塗り替えて自分達のことを誇ろう」ってことなんだね〜〜ハァ〜〜すごい!!
この演目、最後はどうやって終わるんだろう?と幕開きは思っていたけど、最高の存在証明を持って大団円となるとても綺麗な幕引きで、それも含めて最高だった。あと5分あるから、マイクを持ち直してもう一度歌い直そう。ヘンリーの妃達としてではなく、自分達自身として。ここでめちゃくちゃ爆泣きしちゃった。
タイトルナンバーでもあるSIXで、「あと5分だけ、4分だけ、3分だけ」と歌詞が変わっていく名残惜しさにやられて、ここでもまた泣いちゃった。サビの「たった一つ他にはない」からQueen達が片手を左右に大きく振ってくれるフリでは思わず一緒に手を振っちゃった。ここ、気づけば自然に手を振ってる自分がいて、客席も皆同じ動きをしてて、心も身体も動かされる体験は今思い出しても本当に鳥肌が立つし、ミュージカルでありつつもライブのような一体感を感じられた唯一無二の時間だった。この回、出演されていないとあるキャストさんが少し高い座席(関係者席かな)からご覧になっているのが見えて、そのキャストさんも舞台上のQueen達と同じようにこのタイミングで手を大きく左右に振ってるのが見えて、その光景を受けて更に泣いちゃった。舞台と客席の呼応、そしてWキャストのQueen同士の絆が伺えたこと、本当にたまらくて。
カーテンコールのMegaSIXでさっきまで聞いていた6人それぞれのソロ曲をもう一度歌い直すけど、序盤の歌唱時と比べて歌詞が変わっていて面白い。日本キャスト版の歌詞カード欲しいな……というか全曲音源欲しい……
5.エンターテイメントがボーダーレスであるために
ここから先は、おそらく私とは違う価値観でいらっしゃる方のほうが多いと思います。なぜSIXのスペシャルサポーターが男性なの?と思った人はここでページを閉じていただけたら幸いです⚠️ここまで読んでいただきありがとうございました!
「キャスト全員女性、バンドも女性!」ということをとても強くアピールされている演目だと思うので、演目を性別で括りすぎて大丈夫なのかな、男性は観劇しづらいんじゃないかな?と思ったりもした。でも実際現場に足を運べばそれは杞憂だったことに気づき、会場で男性を結構お見かけしたのも個人的には嬉しかった。これは男性側の顔色を伺いたいとか男性にこの演目を認めてほしいとかそういう気持ちは正直全くない。何が言いたいかって、女性の苦しみを男性に消費されたくないという気持ちはずっとあるけど、今回は消費というよりも「一緒に向き合うこと」が本望だと思うのだけど、どうかな。太字にしちゃうけど、エンターテイメントはボーダーレスなものであって欲しいのです。排他的なものにはならないでほしいのです。だから、ボーダーレスである現状をちゃんとこの目で拝見できて安心したし、お近くの男性がめちゃくちゃ歓声上げてたのも惚れ惚れした。
でも異論は認めます。そうは言ってもSIXは特別じゃない?これ書いてる人SIXちゃんと観たの?って指摘されても仕方ないとは思う。
男性であるミュージカル俳優がSIXのスペシャルサポーターに就任されたことも私はちゃんと意味があると思っていて、私自身がそのスペシャルサポーターの井上芳雄さんのファンなので肩入れしていることも否めないけど、こちらの番組(もうTVerでも配信終了していると思う)で遥海ちゃんと芳雄さんがフィリピンでのSIX観劇後の芳雄さんの「女性の物語だけど男性も知っておくべき」、そして「性別や人種に関わらず全ての人に見てほしい」というコメントが素晴らしかったんだ。ちょうど『ラグタイム』で恋人役の遥海ちゃんと一緒に“差別される側”の立場を演じていたからこそ、2人がSIXの縁で再開しているのもグッとくるし、より強いメッセージ性を持たせてくれるなぁとも思った。
あと、これはもう完全に好みの問題なのだけど、自分語りをすると私はSIXに救われたかな。Xやnoteでもこの話題にあまり触れたことがないけど、「女性の今ならではの生き方」みたいなものを題材にした演目って、女性である私自身が現在進行形で自分なりの考え方を持っていて、現在進行形でそれなりに苦労もしているからこそ、簡単に語られたくないしそもそもエンタメにされることに結構抵抗があって、そういう類の演目は観劇を避けることもある。今年再演される大好きな某ミュージカルでさえも、初演の生ぬるいキャッチコピーにモヤっとしたり。率直にいうと「悩める女子達に贈る」みたいな謳い文句は本当に受け入れられない。
でも、SIXはそんな心配を楽々超えてくれた。ここも太字にするけど、個人的には性別とかそういうボーダーのことを凌駕した、自分が自分であることの誇りを証明してくれる演目だった。
「作品のテーマ性」×「圧倒的なステージング」×「思い入れのあるキャスト達がQueenとして自分達の道を切り拓いたこと」、これらの融合によって心の色々なところを刺され続け、感情がドミノ倒しのようにぐちゃぐちゃになってしまったので、ぶち上がるというより泣き続けた80分でした!元々本当に涙腺が弱いので……(笑)このnoteの中でも「涙」とか「泣いた」とか何回書いたかわからないけど、比喩でなく涙腺が壊れる演目だった。でもそれによって、私は私なりの自己解放ができた。12時開演、終演後に時間を確認するとまだ13時半前。上演時間が短くてサクッと観られちゃうけど、時間の長短では語れないパワーとメッセージのある演目でした。SIXとQueen達に出会えてよかった!!
さてさて、舞台上のQueen達から「TOKYO!」って何度も煽られたから、愛知と大阪ではどんな感じになるのかも楽しみだね!
叶う事なら全キャストを拝見したいけど本当にチケットがない。でもこの1回を永遠として宝物に閉じ込めても悔いはないかな。そんなふうにも思えてしまう、最高の観劇体験でした。初見の感想おわり!