おびかたるしま(帯語島)のものがたり⑧
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『天蚕糸とマテルの滝②』
「ここは、お前たちの村でねぇ!繭玉を返せ!」
突然、背後から声がした。振り向くと数人の男が立っていた。
「ここは、争いごと禁止の場所だ!誰の土地でもねぇ!人の指図はうけねぇ!」
ガブはヨシとタケを引き寄せ、大声で反論した。
「小僧!生意気だなぁ〜。」
「よせ!その子の言う通りだ!子供3人でここまで来たのか?」
と1人の男が驚きの声を上げながら、その理由を聞いてきた。
3人は村での出来事と旅の理由を語った。
「マレビトのため・・・?マテルの太陽の水と実芭蕉を求めて・・・か。
よし!一番取っておきの実芭蕉をやろう。水は夜にならないと汲めないが・・・。」
「本当か?」
「ついてこい!」
「おじちゃん。実芭蕉いいのがある?」
3人は、言われるがまま男について行った。
「これだ!」
見事な実芭蕉ある。
食べ頃に熟して、今にも落ちそうに実をつけている。
「こりゃすごいや!」
ガブが飛びつこうとした瞬間、
「まて!」
男が腰に下げた蛮刀で、実の根元から切り落とした。
「俺の首を狙ったのかと思ったぜ!」
ガブが首をすくめて呟いた。
そして、「なぜ俺達に親切にするんだ!」と尋ねた。
「ここは、大人でも来るのは難しい場所!それをお前たちは子供3人だけでやって来た・・・。
そこの、小さいのは幾つだ?」
「小さくはない!5歳だ!」
片手を突き出し大きく広げながら、ヨシが男に大声で答えた。
「その勇気と心意気に頭が下がる・・・。
マレビトのことは聞いている。まだ会ったことはないが、お前たちの様子でどんな奴か分かる・・・。
マテルの滝はこの島のいのちの源。
どんな理由があろうと、このマテルの地は争い事とは無縁の処。
俺もかつては、遠い彼の地からやってきた。」と3人に告げた。
「あんた、いい奴だなぁ〜。」とガブが言った。
「いや、お前たちが忘れていたことを思い出させてくれた。
マレビトに天蚕糸のことを話してくれ。」
そう言って、男は懐から布の端切れをガブに手渡した。
そして、近くの炭焼き小屋で休むことも許してくれた。
その夜、月石の上から湧き出る太陽水を汲みに、マテルの滝へ向かった。
満月の明かりに照らされると、滝の底にある丸い大きな石が浮き上がり、円を描くようにゆっくりと水の中を動く。
渾々と湧き出てくるその水を大きな竹筒に汲み、3本の竹筒を一杯にした。
「よし、これで帰れるぞ!」
実芭蕉とマテルの太陽水は、ガブが持ってきた“テル”と呼ばれる背負いカゴに入れ、ガブが大事に背負った。
テルは肩に掛けるのでなく、額に帯を掛け背負う山の民の運搬用の道具だ。
「ありがとう!お世話になりました。」
ガブは、生まれて初めて他人に『ありがとう』の言葉を使った。
「また、来いよ!いつでもいいぞ!」
「気をつけて帰れ!」
男たちに見送られて、3人は夜道を村に急いだ。
「やったなぁ!」
「ガブ兄!ありがとう!」
「ありがとう!」
タケもヨシも歩きながら涙が止まらなかった。
「今度も、天蚕糸か!俺は生まれ変わったみたいだ!なんか目から、太陽水が湧いてくる。」と大声を出しながら涙をごまかし、ガブは先頭を歩いていた。
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