令和6年度司法試験再現答案[刑事訴訟法] バッタ
バッタです。
大問題作のR6司法刑訴の再現答案です。
第一 設問1
1 鑑定書の証拠能力が認められるか。
令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、これを証拠として許容することが将来の違法捜査抑止の見地から相当でない場合には証拠能力が否定される(違法収集証拠排除法則)。
もっとも、鑑定書を得た直接の証拠収集手続である捜索差押えは捜索差押許可状に基づいており(刑事訴訟法(以下、法令名省略)218条1項)、違法はない。
2 もっとも、先行する所持品検査には違法の疑いがあるところ、所持品検査が違法であることを理由に鑑定書の証拠能力が否定されないか。
(1) 第二次証拠の証拠能力は、当該証拠の重要性、第一次証拠収集手続の違法の重大性、第一次証拠と第二次証拠の因果性の程度等を総合考慮して決する。なぜならば、違法な手続によって収集した証拠から派生した証拠について常に証拠能力を認めると違法収集証拠排除法則を骨抜きにしかねないからである。
(2) そこで、まずは先行するPの甲に対する所持品検査の違法性について検討する。
ア この点について、所持品検査は口頭による質問と密接に関連し、かつ職務質問の効果をあげる上で必要性、有効性が認められる行為であることから、警職法2条1項の職務質問に付随して行うことができる。
そして、所持品検査は任意手段たる職務質問の付随行為として許容される以上、所持者の承諾を得て行うのが原則である。しかし、犯罪の予防・鎮圧という行政警察活動の目的を達成するためには、所持者の承諾がなくとも、捜索に至らない程度の行為は強制にわたらない限り許容される場合があるというべきである。
そして、所持品検査は対象者の所持品に対するプライバシーを侵害するものであるから、警察比例の原則(警職法1条2項)により、必要性、緊急性、これによって害される個人の法益と保護されるべき公共の利益との権衡などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容されると解する(米子銀行強盗事件判決参照)。
イ これを本件についてみる。
(ア) まず、確かにPによる所持品検査は甲の承諾を得ることなく行われている。しかし、Pは甲によって本件封筒が本件かばんに入れられるのを現認した上で、それを取り出すために所持品検査に及んでいるのであって、本件かばんの中に何が入っているのか、目的物が入っているのか、などが分からない状態から探索的に行ったわけではない。確かに、本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その中を覗き込みながらその在中物を手で探るという行為は甲の所持品に対するプライバシー侵害の程度が大きいと言わざるを得ないが、上述のことを鑑みると、未だ捜索には至っていなかったというべきである。
また、Pは所持品検査に際して甲に対し有形力を行使するなどしていないのであるから、強制にもわたっていない。
(イ) そうだとしても任意処分の限界を超え違法とならないか。
甲は、覚醒剤の密売が行われているとの情報がある本件アパート2階の201号室から出てきた人物から本件封筒を手渡しで受け取っていた。覚醒剤は小さくかつ軽量であることと当該人物にも覚醒剤の密売に関わっている可能性が十分に考えられることからすると、本件封筒の中に覚醒剤が入っている可能性があった。そして、甲には覚醒剤取締法違反(使用)の前科があることが判明しており、覚醒剤の中毒性からすると、再犯の可能性が疑われていた。甲はPから本件封筒の中身について尋ねられると、「貸していたお金を返してもらっただけです。」と答えながらも、異常に汗をかき、目をきょろきょろさせ、落ち着きがないなどの、通常人では考えられないほどの覚醒剤常用者の特徴を顕著に示していた。加えて、甲から本件封筒の中身を見せるよう強く迫られると、走って逃げ出しており、Pに追いつかれてもなお、頑なに本件封筒の中身を見せようとしなかった。このような甲の態度からすると、本件封筒の中に警察に見られては困るようなものを入れていることが強く疑われる。また、甲の被疑事実は覚醒剤取締法違反のうち、所持又は使用であり、その法定刑は10年以下の懲役と重大である(覚醒剤取締法41条の2第1項、同法41条の3第1号・同法19条)。これらのことからすると、所持品検査の必要性は大きかったとも思える。
しかし、甲の被疑事実はあくまで覚醒剤に関するものであって、凶器を所持している疑いはなかったのであるから、この点で上記判例で問題になった事案よりも捜査の必要性が相対的に低下する。また、Pは、甲を説得することなく直ちに強権的な行為に及んでいる。甲は一度逃げ出したとは言え、直ちに強権的な行為をする必要があるほど説得が重ねられていたということはできず、任意の提出を再度求めること、任意同行を依頼する事、応援を呼ぶことなどといったより強権的でない他の手段が考えられた。そのため、直ちにあえて所持品検査をする必要性は低かった。
一方で、本件かばんのチャックを開け、その中に手を差し入れ、その中を覗き込みながらその在中物を手で探るという行為は、甲の本件かばんに対するプライバシーを大きく侵害するものであり、捜索に類するほどの強度の侵害行為であるといえる。そのため、甲の法益が侵害される度合いは非常に大きかった。
以上のことからすると、甲の被る不利益が所持品検査を行う必要性を大きく上回っており、具体的状況の下で相当ということはできない。
(ウ) したがって、Pの所持品検査は所持品検査の限界を超え違法である。
(3) そこで、Pの所持品検査が違法であることを前提に、(1)の規範に立ち戻って鑑定書の証拠能力を検討する。
確かに、Pの所持品検査は強制手段ではなかったにせよ、捜索に類する態様であり、違法の程度は軽微とはいえない。また、捜査報告書②には、本件カバンのチャックを開けたという所持品検査を行ったこと自体は記載されているにもかかわらず、Pが本件かばんの中に手を入れて探り、注射器を発見して取り出したという、所持品検査が違法となる理由のうち中核的なものについて記載がなされていない。これは、あえて違法となる要素を排除した上で令状請求をしているものといえ、令状主義を故意に潜脱するものとして違法性が重大であるといえる。
もっとも、覚醒剤事犯は密行性が高く証拠が集まりにくい中で、故意的に覚醒剤を所持していたことを立証するためには、覚醒剤の陽性反応が出た結晶を有していたという事実が決定的なものとなる。そのため、鑑定書の証拠価値は非常に大きかった。また、捜索差押許可状の発布に際しては、捜査報告書②だけでなく、捜査報告書①も疎明資料として用いられているところ、捜査報告書①には、覚醒剤の密売拠点と疑われる本件アパートから出てきた人物から甲が本件封筒を受け取って本件かばんに入れたこと、甲には覚醒剤取締法違反(使用)の前科があること、甲が覚醒剤常用者の特徴を示していたこと及び甲は本件封筒の中を見せるように言われると逃げ出したことが記載されていた。これらの事実は、2(2)イ(イ)で述べた通り、甲の覚醒剤取締法違反の嫌疑を強く疑わせるものなのであるから、捜査報告書①だけでも捜索差押許可状の発布がなされた可能性が高い。そうだとすると、捜査報告書①と②の2つを疎明資料として用いたことによって、所持品検査の違法性が希釈されていたということができ、所持品検査の違法性と鑑定書の因果性の程度は弱い。
以上のことを総合考慮すると、鑑定書の証拠能力を否定すべきではない。
3 よって、鑑定書に証拠能力は認められる。
第二 設問2 捜査①の適法性
1 捜査①は強制処分に当たり、強制処分法定主義(197条1項但書き)及び令状主義(218条1項、憲法35条1項)に反し違法とならないか。
(1) 強制処分とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して、相手方の重要な権利利益を実質的に制約する処分をいう。なぜならば、強制処分は強制処分法定主義や令状主義といった厳格な手続に服するため、それにふさわしい範囲に限定されるべきだからである。
(2) これを本件についてみると、捜査①は非撮影者であり、法益の被侵害主体である乙の明示の承諾を得ていない。そして、何ら承諾を得ることなくビデオ撮影をされることは合理的に推認される乙の意思にも反している。
また、みだりにその容ぼう等を撮影されない自由は憲法13条後段によって保障される重要な権利である。しかし、捜査①が行われたのは、営業時間中の喫茶店という人の出入りが激しいオープンな場所においてであった。このような場所においては、他人からその容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ず、プライバシーに対する正当な期待が減少する。そのため、捜査①は乙及び写り込んだ後方の客の重要な権利利益を実質的に制約するとまではいえない。
(3) したがって、捜査①は強制処分に当たらず、強制処分法定主義や令状主義には反しない。
2 もっとも、捜査①は任意捜査の限界を超え違法とならないか。
(1) ビデオ撮影は、被撮影者のみだりにその容ぼう等を撮影されない自由に対する侵害がある以上比例原則(197条1項本文)の適用を受け、必要性、緊急性などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容されると解する。
(2) これを本件についてみる。
ビデオ撮影の対象となった男は、本件アパート201号室に入る様子が現認されており、その顔が乙の顔と極めて酷似していた。乙は、本件アパート201号室の賃貸借契約の名義人であって、同室は覚醒剤密売の拠点であるとの情報があった。なお、この情報は、同室から出てきた男から甲が受け取った本件封筒に覚醒剤の陽性反応を示す白色結晶が発見されたことから、信用性がより高まっている。そのため、覚醒剤密売が組織的に行われる傾向があることも考慮すると、乙も覚醒剤密売に何らかの形で関与していることが合理的に疑われていた。さらに、乙には覚醒剤取締法違反(所持)の前科があったのであり、再犯の可能性が疑われていたのみならず、単に本件アパート201号室を密売の場所として提供しているのみならず、自らも積極的に覚醒剤のやり取りに関与していたことを疑わせる。加えて、乙の被疑事実である営利目的の覚醒剤販売は1年以上の有期懲役という重大な犯罪であるのであり、早急な検挙を要する。乙には、首右側に小さな蛇のタトゥーがあったところ、これは乙の有する最も顕著な特徴であり、ビデオ撮影の対象となった男と乙を同定するために必須の情報であった。また、撮影対象となった男は飲食をしていたのであるから、このような身体の動静のある人間の、首元という見にくい位置にある、しかも小さな蛇のタトゥーを撮影するためには写真撮影ではなく、ビデオ撮影である必要もあった。したがって、捜査①を行う必要性は非常に高かった。
一方で、上述の通り、撮影された乙や写り込んだ客のみだりのその容ぼう等を撮影されない自由は、喫茶店というオープンな場所である以上、プライバシーの正当な期待が減少し、その要保護性は低下している。加えて、捜査①の撮影時間は全体で約20秒間と短時間であり、被撮影者のプライバシーを大きく侵害するほど長時間の撮影とはいえない。
以上のことから、捜査①を行う必要性と侵害される法益の程度が合理的に権衡しており、具体的状況の下で相当ということができる。
(3) したがって、捜査①は任意処分の限界も超えず、適法である。
第三 設問2 捜査②の適法性
1 捜査②は「強制の処分」に当たり、強制処分法定主義及び令状主義に反しないか。捜査①と同様の基準で判断する。
(1) 捜査②はビデオカメラの設置場所であるビルの所有者及び管理会社の承諾は得ているものの、被撮影場所を支配する乙の承諾は得ていない。また、合理的に推認される乙の意思にも反する。
さらに、捜査②では、本件アパート201号室の玄関ドアやその付近の共用通路を毎日24時間撮影し続けており、同室玄関ドアが開けられるたびに、玄関内部や奥の部屋に通じる廊下が写り込んでいた。このような場所は、喫茶店のようにプライバシーの正当な期待が減少している場所ということはできず、むしろ、個人のプライバシーが強く保護されるべき場所及び空間といえる。このような場所を網羅的かつ継続的に撮影し続けることは、私的領域に侵入されない自由(憲法35条1項)という重要な権利を侵害し、公権力による私的領域への侵入を伴うものである。
したがって、捜査②は「強制の処分」に当たる。なお、強制処分該当性の判断は類型的に判断するから、本件アパート201号室が構造上監視が困難であったという事情は結論を左右しない。
(2) もっとも、ビデオ撮影は人、物、場所の形状を五官の作用によって認識するという性質を有するから検証に該当する。そのため、強制処分法定主義には反しない。
しかし、強制処分に当たる以上、検証許可状を得て行う必要があったにもかかわらず、これを怠っている点で令状主義には違反する。
2 よって、捜査②は強制処分法定主義には反しないものの、令状主義に反し違法である。
以上
〇感想
・解いている時は「え?!めっちゃ簡単じゃん!!当てはめ勝負だな」と腕をぶん回していたのですが、もっと冷静になるべきでした…
・まずやらかしポイントとなっているのは、所持品検査違法から鑑定書の証拠能力までの流れが極めて雑なことです。違法な所持品検査から、鑑定書までは様々な証拠が媒介していますが、そこを排除法則を使うこともなく、ダイレクトに所持品検査から鑑定書の因果性を見ています。
・川出先生の毒樹の果実一元論に立つならばこのような論述も許されるのですが、規範でバッチリ「第一次証拠と第二次証拠の因果性の程度」と書き、川出一元説に立たないことをわざわざご丁寧に明記しているので、規範と当てはめが矛盾しています。
・次のやらかしポイントとしては、捜索に当たらないことの理由付けが無理矢理すぎます。結論ありきですね。解いている時は判例はめったに捜索に当たるって言わないし判例の相場観的にどうせ捜索にならんやろと決めつけている節がありました。後からXを見ると、捜索該当が多数派ですし、そっちの方が理論的なことが明らかでした。
・更なるやらかしポイントとしては、捜査報告書①だけで十分としている点です。実務感覚的にはナンセンスだそうです。
・加えて、捜査②の当てはめがうっすいことうっすいこと。ここで挽回しなければならないのに、更に足を引っ張っています。
・以上の通り、論理も当てはめ感覚もダメダメなクソ答案になっていまいました。今年の刑訴は相当簡単だったので、相対評価ではかなり沈み、CやDをつけられても全く文句は言えません。
・ただ捜査①は結構よく書けてると思うので、そこで耐えてくれ…