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『Back to Black エイミーのすべて』『Amy』鑑賞。
魂に強く訴えかける歌を歌える人を思い浮かべてみる。ビリー・ホリデイ、ジャニス・ジョップリン、そしてエイミー・ワインハウス。
悲しいことに3人とも酒とドラッグで早逝している。ビリーだけは44歳まで生きたから、まだ他の2人よりは長いが、それでもその生き方は波瀾万丈で、破滅型だ。
エイミーについて映画を観る前に知っていたことは、男、酒、ドラッグに溺れてしまい、始終パパラッチに囲まれていたこと。でもその歌声は唯一無二、ソウルフルでとても強く、またジャズが大好きだということ。今回の映画のタイトルになった『Back to Black』と大ヒットした『Rehab』の2曲は以前からよく聴いていた。
また、男性ジャズボーカルの大御所トニー・ベネットと共演した時のエイミーは本当に素晴らしくて、同じくトニーとジャズを歌うレディ・ガガと比べると、より魂をゆさぶる歌を歌うのはエイミーだなと勝手に思っていた。
エイミーの歌はなぜこんなに心にストレートに訴えかけるのだろう。最近読んだ本の中に「心の穴」という言葉が出てきた。エイミーの歌は私達の「心の穴」にすっぽり入ってくるからではないかと思う。大きさは様々だろうが、誰しもその穴を持っていて、その大きさによって孤独感の強さも決まるのではないか。
エイミーの様に正直で繊細な人は、周りの環境の変化に影響を受けやすいのだと思う。14歳の時に父親が別の女性をつくり、家を出てしまうところから、彼女の辛さは始まったらしい。家を出た父親なのに、エイミーの音楽活動には終始関わっていて、ボロボロになっているエイミーをツアーに連れ出そうとする父親には大きな疑問を感じた。それでもエイミーは父親を慕っているから、親に虐待やひどい仕打ちをされても、子どもは親を慕うとはよく聞くから、親子間の愛情も男女間の愛情も部外者には理解しがたい。
付き合ったり、別れたりを繰り返す恋人とは結婚、離婚、再婚を繰り返していて、完全に共依存の状態になっている。元夫であるその人も心に大きな空洞があり、2人が惹かれ合うのも必然だったのかもしれない。でも他人に心の穴を埋めることは出来ないから、2人は同時に酒やドラッグに溺れ、闇に堕ちていく。
今回の映画を観て、音楽は非常に素晴らしく、主演の女性もとても上手に演じていたから、観て良かったけど、エイミーの全体像がいまいち見えてこないので、帰宅後にドキュメンタリーの『Amy』を配信で観た。よりリアルではあったし、エイミーの肉声が聴けるからこちらの映画にも別の良さがあった。同じエイミーを扱った2本の映画はそれぞれ異なる視点で描かれていたから、両方観て良かったと思う。
エイミーの作る歌は彼女の私生活のありのままが書かれているから心に響くし、その歌声はパワフルなだけでなく、情感に溢れ、音楽への愛をひしひしと感じられる。強さと弱さが絶妙に混ざり合った魅力的な歌を大衆が求めたのはよく分かるが、彼女は始終、「私はお金なんか欲しくない」と言い続けていて、ただただ音楽を愛していたのだから、他の生き方もあり得たのか。
私にも心の穴があると思う。ふとした時にふっと強い孤独感を感じることが今もある。若い頃はそれを恋人で埋めようとしたこともあるが、そんな関係はお互いを傷つけ合うだけだった。歳を重ねた今は自分の心の穴は自分で埋めるしかないと分かっている。エイミーは自分の心の穴を埋める音楽という術を持っていたけど、彼女の心の穴は大きすぎたのかもしれない。
誰しもが孤独を感じる時はあるから、そんな時にビリーやジャニス、エイミーの歌を聴くと、彼女達の魂の叫びに救われるのだろう。2本の映画を見終わった後に聞くエイミーの歌はより鮮明に私の心に入ってくる。孤独で辛い時は彼女の歌を聴いて、その強いエネルギーを分けてもらおうと思う。